頁21:町成長イベントとは

       







「これは…!?」

「町成長イベントぉ!? マジか、そんなのあるのかよ!?」


 すると我々が開いたそれぞれの本のページが勝手にめくれ、『たいりく大陸地図』が再び表示される。今しがた名前を得たスタ・アトの村のアイコンのすぐ近くに、恐らくは洞窟の入り口をしたと思われるアイコンが出現した。


神々廻ししばさん、これって?」

「素直に考えるなら、ダンジョンとか迷宮とかって意味だろうネ」

ダンジョン地下牢、ですか?」


 牢で、迷宮…。この場合はだろうか。


「まあ普通のファンタジーだとモンスターの巣窟だとか野盗の拠点とかなんだけど…、【ナントカの】って表現って事は恐らくモンスターの方かな。盗賊の巣って言わないだろうし」

「なるほど…、それが出現して、なぜかこの村の成長に繋がっていると…」


 どの様な因果関係なのだろうか。ゲーム的な要素が強すぎて私にはいまいち想像が付かないが…。

 その時、我々の頭上───いや村の上空を数匹の飛ぶ眼フライングアイ達が横切って行った。


「あれ? おかしいな…普通なら町エリアに設定されている土地にはモンスターは侵入出来ないのがお約束なのに」


 誰とのどんなお約束なんですかそれ。


「命名した事と何か関係がありそうですね」

「よっしゃ、こんな時は基本に戻って村人から情報収集だヨ!」

「基本って───」


 そう言い放つと、先程からこちらを見ていた老若女子達の方へとどこかウキウキした表情で走り出す彼。

 うーむ、未だに彼の心のやる気スイッチがどこなのか分からない。

 取り合えず私も後を追った。放っておけないし。





 ◇◆◇◆◇◆





 そこにいたのは若い女性二人とおばあさん。


「ヤッホー☆ マドモアゼル♪」

「あら旅人さん、どうしたの? 痴話ちわゲンカの仲裁ちゅうさい?」

「してませんしそういう関係じゃありません」


 しっかり釘を刺しておく。ていうかどこをどう見て痴話喧嘩だと思ったのだろう。


「あらぁ……しっかりしたお嫁さんじゃないの…」


 刺した釘がへし折れた。


「ナハハ…まあねぅゴぴュ!?」


 肘が売り切れていたので裏拳を鳩尾みぞおちに叩き込む。


「仲がいいのねぇ…❤」


 折れた釘が飛んできた。何なの女子って。


神々廻ししばさん、聞く事があるんですよね?」

「コヒュー…そ、そうだった…コヒュー…。あのさ、さっき村の上を飛んで行ったのって…」


 初対面の人になぜいきなりタメ語で話せるんだろう。私には到底考えられない行為だ。

 それに対して活発そうな若い女性Aが答える。


「ああアレね。少し前から増えてきたみたいなんだけど…、『   』は人里に近付かないハズなのに最近村の近くでも見たって話があってさ」


 また無音だ。文章的に恐らく【敵対生物】に関する名称だろうが、総称なのか新しい個体名なのか。飛ぶ眼フライングアイは登録されているので、もし後者の個体名ならば違う敵が付近に現れた事になる。

 続いておっとりした若い女性Bが。


「村の男の人が話していたんだけど…近くに巣みたいな物を作っちゃってるらしくてぇ…。怖いわぁ~」


 本当に怖いのだろうかそののんびり口調…。

 続けておばあさん。


「この村にゃ戦闘職プルーフじゃろう? どうにかしてもらいたくてもなぁ…手に余るじゃろうし」


 確かに。ひろしさんには申し訳ないが、神々廻ししばさんが言う『何の問題も無い雑魚』である飛ぶ眼フライングアイ一匹ですらあれだけてこずっていた訳だし。それが複数で襲ってきたりしたら…


「ナルホド、ね! OKOK無問題モーマンタイ♪ ありがとね美人チャンたち! じゃあ行こうか!」

「え? なっ??」


 言うやいなや私の腕を掴むと神々廻ししばさんは走り出した。意味が分からない。

 離れゆく視界の奥で女子達がまたしてもキャイキャイしている。


『お幸せに~~』


 どうしてそうなるのアナタタチ……。





 ◇◆◇◆◇◆





 再び先程の人目につきにくい場所。ここは村と外界の境界付近でもある。


「ちょっと、一体どういう事なんですか!?」


 掴まれていた腕を振りほどくと神々廻ししばさんに抗議した。


「オレちゃん分かっちゃったのヨね…」


 ドヤ顔で自信満々に言う彼。


「何がですか」

「町成長イベントとは何か、って」

「っ! 本当ですか? もう!?」

「こんなの基本中の基本でショ」


 何の基本なんだろう。


「現れたダンジョン、追加されたクエスト、おかしな挙動をするモンスター、そしてさっきの会話───」


 あごの下に手を添えるポーズやめなさい…。そんなチャラい探偵いないから。


「謎は全て解けた…! じっちゃんの名にかk」

「前置きはいいから結論をどうぞ」

「決め台詞が大事なのに…」


 ならせめて危なくないのにして下さい。


「つまりは簡単なシナリオよ。モンスターが発生して村が被害に遭いそうでみんな困ってる。でも戦えるのが。という事は?」

「という事は?」


 いや、別にノリに乗った訳ではないです。


「オレちゃん達がその巣を攻略すればいいってコト!」

「ええ!?」


 ウィンクしながらバァァァン!と擬音が飛び出しそうなポーズで私を指差す。なんか腹立つ。


「どうしてそれが村の成長に繋がるんですか? 理屈がおかしいでしょう!」

「ホラまた悪いクセ出た」


 えっ?


「自分で言うのもアレだけどサ、この世界ってある意味イカれてるんだヨ? オレのせいだけどモンスターだっているし、こんな本ひとつに左右されちゃってるし」


 そう言いつつバスケットボールの様に人差し指の先で本を水平回転させている。器用だな。


「それは───」

「みさリスの言うリクツが正しいってのも分かる。分かるけどサ、時にはイカれた世界に合わせて自分もイカれてみなきゃ本当の意味で理解するのって難しくね?」


 むう…。確かに私にはこのファンタジーな世界のノリというか法則は予想もつかない。実際に本の機能についても私よりは彼の方が恐らくは理解している。既に何度もトンデモ体験をしている訳だし、彼の言う様に元の世界の常識や理屈が通じない部分も多々ある。そういう意味では彼の推理?が本当に正解なのかもしれない。

 でも───何か引っかかる。『そうじゃなくない?』っていう気持ちがどうしても払拭出来ない。

 それと私はリスじゃない。


「じゃ、行くよ!」

「え!? 何の準備もしないで!?」

「今のこの世界で準備する程の物なんて無いでショ? それに状況なんていくらでも変化するんだしそこは現場対応!」


 …それ、私が言った台詞ですよね。(頁11参照)

 根に持っていたのか。


「忘れてると思うけど、オレ達は死なないし【あの力】だってあるんだヨ? 油断しなければ大丈夫だって♪」


 うーーーん。…まあ、確かに。ひろしさんが戦って怪我とかするよりは私達の方が最終的に無傷で済むだろう。


「…分かりました。でも絶対に油断は禁物ですからね!」


 自分の予感に決着をつけられないまま、渋々彼の提案を吞んだ。


「分かってるって。オレだって痛いのは嫌だし」


 それをあなたは私にどれだけ与えたと思ってるんですかね。…まあ今は黙っておくけれど。


「ではマップで方角を確認。よっしゃ、しゅっぱ~つ!」

「はいはい…」


 本に表示された大陸地図の現在位置、方角を表す矢印を頼りに我々は村の境界線を外界へと越えたのであった。

 本気で不安すぎる…。






  (次頁/22へ続く)








         

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