頁19:職業とは

      






 この流れで『じゃあ町の名前決めましょう!』って言っても精神的に荷が重そうだから、神々廻ししばさんが得意としていそうな分野から決めていくとしよう。

 私は自分の本をジャケットの下から取り出し……って、絶対無理がある。ジャケットの内側からこんな特大の本を取り出したら最早もはや痴女ちじょたぐいだ。後でバッグ的な何かを探そう…。

 とりあえず今は彼の本を一緒に見ればいいか。


「ゲームだと【職業】は主になんて呼ばれているんですか?」

「え、えっ?」


 私が急に近くに来たせいで何事かと警戒されているのだろうか。彼の動作が固い。

 あれ…遠くの女子達のキュンキュンオーラが強くなった……?? まあいいか。


「『役割』とか『役職』とか『肩書』とは呼ばないんでしょう?」

「あ? ああ、ウン。よく見るのは『クラス』とか『ジョブ』かな」

「…それって単に英単語にしただけじゃないですか」

「いやホントおっしゃる通りです」


 何と言うか日本人の英語に対するコンプレックスを感じる。


「この世界でひろしさんの様な特殊な生き方を選択する場合、どういう行程こうていを経るんですか?」

「ちょっとまってネ…どっかに書いてあったよソレ……」


 またパラパラとページをめくる。ううむ、現代人ゆえのもどかしさなのだろうか…。


「…こういう時、…」


 とついつい呟いてしまった。すると───


《 検索機能が追加されました。本に触れた状態で『検索、○○』と発する事で当該とうがい候補一覧を表示します。 》


「ぅぉビックリした!?」

「おおぅ…」


 システムメッセージログのページがガバッと開き、投げつけたみたいにメッセージが表示される。

 …もしや聞いているのだろうか…ちょ、ちょ、『超GODちょうごっど』さんとやら…。


「追加されたのであれば有難く利用しましょう。検索、職業・生き方・役職・役割」


 【職業の総称】がまだ未設定なのでそれっぽい単語を並べてみた。


「キミ、ほんと順応力すごいよネ…」

「ありました。これですね」


 まだ解放されている情報自体が少ないのでそれっぽいページの候補はすぐ見つかった。

 検索をかけた後に表示されるページのレイアウトもどこかでよく見た様な気がする危険な物g〇〇gleだった。何でもアリだな。


「『戦闘職/『    』:共通基本職『    』(ノービス)への転職方法』」


 転って。結局は仕事扱いなのね…。


新参者ノービスというのは?」


 ひろしさんは恐らくこの【基本職】とやらに該当するのだろう。


「戦闘向け職業自体はいくつかあってそれぞれ戦い方とか能力のクセがイロイロと違うんだけど、それらの元となる一番下のランクって意味で使われてるね。この職業クラスで経験を積むと次の職業クラスにランクアップ出来るのヨ」


 職業とクラスって言葉を混ぜて説明されると少しややこしいな。


「ふーん。つまり駆け出しって事ですね。どの様な職業でも新人時代は必ず経るものですし、下積みは死ぬまで己の中で生き続ける大事な土台ですもんね」

「あ…ハイ…すんません…」


 謝られた。


「続きを。『満13歳を迎えたのち、希望する者で一定の条件を満たせば『    』の祭壇さいだんにて【星の赦し】を得られ、『    』の道に進む事が出来る。』この前の方の空欄は何ですかね…また別の未設定名称か…? それにしても13歳から職に就くかを考えるって、この星の人達はそんな若い内からしっかりしているんですね」

「あ…ハイ…ホントすんません…」


 なんで謝られるんだろう。


「…いや、むしろ選べる未来の選択肢が現状まだそれほど無いという事でしょうか…。恐らくは学校などの教育機関が未発達なのかもしれません。本当は勉強したいのにそれすら出来ず、生きる為に働かなければならないなんて…」

「……あの…それ、わざと…?」

「?? 何の事でしょう?」

「ィィェ…」


 声小さ!? 何なのもう。

 しかしまあ【戦闘向け職業】の就き方は分かった。


「もっと職業訓練校的な機関を経て成る物だと思ってましたが、想像とはちょっと違いますね」

「そういう設定のゲームも普通にあるヨ。でもこの世界はコッチの方式みたいね。【星の赦し】って響きがなんかファンタジー寄りっぽい?」


 そういう物なのか。奥が深いんだか浅いんだか。


「しかしそうすると戦闘の為でも【職業】って表現は違和感がありますね。どちらかというと認定・認可・許可・免許みたいな…」

「それなんて役所…? ああ、でも種別毎に紋章エンブレムを与えられたりするパティーンパターンもあるから『証明』って意味ではあながち間違ってもいないかも? ちなみにそれらってヨコモジでなんて言うの?」


 結局英語がいいのか。ええと…


「『認定、Certification』」

「長い」

「えぇ……」


 基準はそこなのか?


「『認可、Authorization』『許可、permission』」

「なんでションばっかりなのぉぉ!!」

「えぇぇぇ………」


 ションな事言われt…違う違う違う!! 今のは間違えたの!! 無し、無しだから!!


「なんで真っ赤になってるん??」

「ぃ、ぃぇ…」

「声ちっさ!? あ、まさか頭の中で『ションな事言われても』とか考えt」

ッ!」

「ゥぱゴぇッ!?」


 神速の裏拳が彼の額をはじいた。

 遠くから嬉しそうな悲鳴が聴こえた。なんなのあの女子達。


「…ハッ!? オレちゃんは一体…?」 


 思い出される前に続ける。


「『免許、licence』」

「あ、今のなんかいいかも」


 末尾がションじゃなければいいのか…。


「『証明、proof』」

「そ れ だ!! それがいい!」


 反応を見るにかなりビビビッと来たらしい。

 声に全角スペースが挟まっていた様にも聴こえたけど気のせいかしら?


「でも【戦闘向け職業】を意味する名称が『証明proof』ですか…? なんか変じゃ…」

「必ずしも意味と言葉を一致させる必要なんて無いでしょ? ここは元の地球じゃないんだしサ! この世界オリジナルのあだ名だって思えばいいジャン! オレはその響き好きだヨ♪」


 …確かにそうだ。この世界はこの世界でのみ通じる独自の言葉を持ったっていいのだ。


「その感覚は大事ですね。いいんじゃないですか、決めてしまっても」

「ヨッシャ、お許しが出た☆」


 承諾しょうだくは不要なんですけどね。


「あ、【基本職】とやらの名称はどうします?」

「ふふん…。実はついでに思いついちゃってサ。すごくいいのがね!」


 …なんと。

 あんなにガチガチになる程苦手だったのが嘘みたいだ。やはり経験を積ませる作戦は成功だったか。


「では思い切って入力して下さい」

「おう!」


 そう言うと彼は自分の本にかじりつく様に向き合い、指先でページの表面をつつく。

 なんだ、不安はあったけれどやれば出来る人だったじゃないか。

 出会いは色々血生臭いアレだったが…いつまでもそこに囚われてたら駄目だよね、お父さん。これからは彼に任せても大丈夫かもしれない。

 ───

 ややあって。名称の設定変更を受けて私の本も強制召喚される。

 私はそれを見越してギャラリーの女子達からは本が現れる瞬間が見えない角度を向いていた。すきは無い。

 どれどれ…


《 世界設定/名称/戦闘職総称:プルーフ が世界に登録されました。》


 【戦闘向け職業】って呼んでいたけれど正しく?は【戦闘職】なのか。

 続いて書き込まれるシステムメッセージ。


《 世界設定/名称/プルーフ/共通基本職: が世界に登録されました。》


 …。


 ……?


 ………!?


 な…………っ!!??


「へへっ…。どうヨ、オレちゃんのセンスも中々っしょ…?」


 鼻の下を人差し指でこすりながらドヤ顔をする。


「ア、ハイ、エエ、マア、ソーデスネ、イーンジャネ?」

「あれぇ!? なんかマシンっぽくね!?」


 脳が一瞬、いや五瞬ほどフリーズした。フリーズしながらも、ひろしさんの台詞が虫食いを補完して脳内再生される。


『戦いは俺の日常よ。なんせ俺は…『新人君』だからな!』


 台無し! 台無しですひろしさん!! 意味不明です!!!

 こんなカミサマで本当に申し訳ございません!!





 ───お父さん、駄目だったこいつ。私がしっかり監視しないと。






   (次頁/20へ続く)






     

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る