第28話 空路・海路と民族のハブ
シンガポールは東南アジア最大の金融センターであるだけでなく、海路に於いては物流の一大集散地でもある。そして、シンガポール空港は世界有数のハブ空港だ。アジアの玄関口であり、南北の半球を繋ぐ結節点でもある。
それを可能にしたのが一つにはインド洋から太平洋へと船が抜けるならば通らずには済まない要衝であった優位性を、大英帝国統治の下、余すことなく活かし発展させ盤石にしたことだがそれだけではない。三民族が混じり合わずとも共存する社会、それにシンガポールとマレーシアとの関係を見れば、誰もが今の地位に得心いくだろう。
空港内を歩く人々の姿は様々だ。アジア人が基調をなす中、色素の薄い欧州系に、黒い装いの中東人、
シンガポール・マレーシア両国に於いても民族間の対立はあった。暴発した衝突の為に命を落とした者もいた。その真相に強引に蓋した政府の処置が公正だったとは無論云わない。だが仮に全てを白日の下に曝せたとして、半世紀前の怨みが呼び覚まされ、新たな火種が新たな犠牲者を生むならば、その真実は何の為なのか。迷い躊躇う者を、誠実でないと断じることは私には出来ない。今は
空港内を彩るのは蘭の花。シンガポールが国花とする蘭は東洋では四君子の
ところで空港を歩くと蘭の白と紫とに強烈に印象づけられるのだが、実は空港内で見るべき植物はこれだけではない。
屋上の庭園、屋内には植物園、色とりどりの蝶が舞い、巨大な瀧さえ現れる。種々の動植物が同居し調和する
自然は決して生易しいものではない。人間世界も
或る人々は人種民族の壁を取り払い交じり合うことを佳とした。また或る人々は民族の純血を守ることが道だと信じた。何が正解と云うものではないのだ。
穢れた血などと云うものは此の世には存在しない。卑しい血も、醜い血もだ。
人殺しの血であってもか――人が問うなら、私は応と答えよう。だからこそ、復讐の手を下すのは私一人で
日付が変わろうとする時刻になって日本への便は飛び立った。
夜間飛行で窓から地上を確かめたければ、街の灯だけが頼りだ。真っ
楽園の余韻に別れを告げ、私は目を閉じた。
(了)
世界の車窓から殺し屋日記3 マレーシア編 久里 琳 @KRN4
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