ユダによる福音書（短編集）

1話1話そのどれもが、この社会のあちこちに転がっているような傷ましい、切ない、悩ましいような物語。
決して楽しくはなく辛い話も、そこに何か美しさを感じてしまう。
どこでどうすれば良かったのか、その答えは難解であっても、その語り口に惹きつけられ、スイスイと次を読みたくなる魅力がある。
話題の中心への持っていき方や、話題を引き立てる風景や脇役達が絶妙です。
また次にどんなお話が飛び出してくるのかとても楽しみです。

短い物語の中に生身の感情がどろどろと湧き出ている。エゴ、狡さ、諦め、自虐。ここで描かれる人間の姿には、きっと誰しもが覚えのある痛みを感じるだろう。
笑顔で分かり合えるふりをしながら、自分の弱さを言い訳にして傷つけあうことしかできない人間という動物のリアル。
光の当たる大通りではなく、湿った裏通りにいつまでも乾かずにいる濁った水たまりのような感情が、余すところなく言葉にされていて胸に刺さる。愚かさや醜さを肯定も否定もせず冷淡に綴るこの物語の語り手は、人間の闇の部分を一身に背負わされたタイトルその人なのかもしれない。

現代に生きる人々の姿を、鋭い視点で切り取った短編連作です。

社会の不条理の犠牲となった友人へわだかまる思い。
スクールカーストのそれぞれの位置からの景色。
あらゆる困難にぶつかりながらもどうにか生きてきた男に訪れた悲劇。
皆と同じ方向へは流れることができない少年の葛藤——

現代人の多くが大なり小なり抱える「生きづらさ」が、我慢して呑み込んで腹に溜めてしまう「生きづらさ」が、ここまで鮮やかに言語化されるとは。
明確な解決方法なんてない、それでも抱えて生きていかねばならない行き場のない想いが巧みに描き出されており、どのエピソードも言いようのない息苦しさを感じました。

淡々とした筆致が、彼ら…続きを読む