第3話 ある放火と罰
3-1 記事抜粋
(新聞・雑誌・ネット上から主要な記事を取捨選択して再構成したもの)
今月九日、大阪地方裁判所である放火事件の判決が下された。
I市在住のアルバイト、
全焼した自宅には母親が同居しており、母親は逃げる際に煙にまかれるなどして重傷。また、ちょうど帰省していた息子が初期消火活動の際に手にやけどなどを負ったが軽傷。
先に行われた公判における検察の冒頭陳述によると、犯行の約一時間前、仕事から帰ってきた被告は夕食の支度ができていないことに腹を立てて母と口論になり、直後に仲裁に入った息子とも口論になり逆上、食器等を投げて壊したあと自室に閉じこもった。
しばらく自室のなかでも暴れていたが怒りが収まらなかったため、物置部屋に移動して、置いてあった灯油三十八リットルを部屋にまき火をつけた。
火をつけたあと被告は母と息子のいるリビングに行き、物置部屋が燃えていると告げた。
息子は物置部屋を見に行き出火を確認、初期消火を試みたものの火が猛烈な勢いでひろがったため、消防に電話通報した。息子はこの消火活動の際に手に軽いやけどを負った。
母親は再び自室に閉じこもってしまった大輔被告を連れ出そうと二階に上がったがそこで煙にまかれたために意識を失い、その後かけつけた消防により救出された。顔や手足にやけどを負い、二週間入院した。
被告は自室に閉じこもったあと包丁で自身の手首を切り軽傷。座りこんでいたところを消防により救出された。
火は約一時間半後に消し止められたが、自宅が全焼したほか、隣家の物置の一部が焼けた。
大阪地方裁判所の
そのうえで、「被告が反省の態度を示していることや、母親が被告の処罰を望んでいない」などとして、懲役五年の求刑に対して、懲役三年の実刑判決を言い渡した。
弁護側からは精神鑑定結果として、被告は発達障害の疑いがあり、それが犯行に影響を与えた可能性があるとの見解が提出されたが、裁判長は「軽度の発達障害の可能性は認められるとしても、十分な判断力は保持していた」として斥けた。
弁護人によると、被告は控訴しない方針。
近隣住民に取材したところ、武村被告は幼少期からこの家に育ち、一時家を出ていたが十五年ほど前から再びこの家で両親とともに暮らすようになった。
息子のすがたもその頃から見られるようになったが、妻のすがたを見たことはないという。(別の取材で、元妻とは離婚していると判明した)
近隣との目立ったトラブルはなかった。
中学時代の同級生の証言では、武村被告はおとなしくまじめな性格で、三年間無遅刻無欠席。こだわりが強く、周囲にはよく分からない理由で急に怒ったり泣いたりすることが時々あったが、暴力をふるうことはなかったという。鉄道が好きで、おなじ趣味の友人と遊ぶことが多かったらしい。
近親者からは「子供のころから思い込みがはげしく、一度言い出したら退かないので扱いづらいところがあった」との証言があり、発達障害の見解を裏づけている。
他の多くの事件と同様、ネット上では識者(とされる人)や一般人からさまざまなコメントが上がっている。
「今回は被害がほぼ同居家族に限られており、被害者である家族の処罰感情が小さいことを酌んで軽い量刑判断となったのだが、発達障害や精神障害が特別に考慮されたわけではないということだ」
「口論で腹が立ったから放火する、という非常に幼稚で身勝手な動機が衝撃的です。このような隣人が身近にいることが、社会の脅威であることはまちがいないでしょう。一方で精神障害や発達障害を抱えた方の権利も擁護されるべきであり、脅威を排除すればよいという短絡的思考に陥らないよう注意が必要です」
一般人のコメントはやや手厳しい。
「放火にしては刑が軽いように思う。一歩まちがえば近隣にも重大な被害が出ていたかもしれないのに。障害者だから軽減されたのだろうか。だとすれば甘すぎる」
「弁護側が減刑を勝ち取るために精神障害や心神耗弱を濫用しているように思えてならない。それを免罪符にするのはそろそろやめにしないか」
「それぞれ事情はあるだろうけど、罪は罪。やったことに見合った責任をとらせるべき」
「実の息子に殺されかけるとは、お母さんもかわいそうに。それでもまだ許そうとするって」
「こんなの野放しにしていて、被害者が身内だったからいいようなものの、赤の他人の一般市民が巻き込まれたらたまったもんじゃないな」
「このような障害を抱える人に普通の社会生活はむずかしいのではないだろうか」
※この物語・事件はフィクションです。実在のいかなる事件とも関係はありません。
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