第11話 プランテーション


 天然ゴムは東南アジアが世界最大の生産地だ。最も一般的なパラゴムノキは元々アマゾン原産だったのが、二十世紀初頭に南米で猛威を振るった葉枯病にり壊滅的被害を受けたため、以来、東南アジアが主生産地となっている。


 ゴムと聞いてし観葉植物のゴムの木を想像するなら、大きく裏切られることになる。プランテーションでえられているゴム林の様子は、白樺の林を思い泛べれば実状に近いかもしれない。淡い色の樹皮、淡緑の涼しげな葉、整然とならたかい樹々。東南アジアでそのような光景を見かけたなら、ゴム林である可能性が高い。樹幹をよく見て、人の腰ほどの高さにコップが括りつけられていれば、もう間違いない。

 ゴムの木と並んで多く見られるのはパーム椰子で、こちらもきちんと縦横が揃った様子で直ぐプランテーションと判る。いずれも収穫は人の手だ。農村に暮らす人々の生活は今も牧歌的で、長閑のどかと云えばきこえが良いが、近代化から取り残されたようなその生活様式に経済発展の恩恵はなかなか及ばない。それでいて、海沿いの工業地帯と此の農村は、実は車で走って三十分ほどのへだたりしかないのだ。


 樹々の間を裸に近い恰好で無邪気に遊ぶ子供たちの姿は、微笑ましくも何処か考えさせられる。無論、彼らを憐れと観ずること自体が傲慢の為せるわざには違いない。仮令たとい物質的に豊かな生活を知らずとも、子供たちの笑顔は本物だ。彼らの親にしてもきっとその笑顔を守る為、さして実入りの良くない仕事と知っていようと必死に汗をかいているのだ。日々の小さな喜びのため生きる者たちを悲哀と見るか眩いと見るかは各人各様だろう。いずれが正しいなどと論じる心算つもりはないし、その論に意味があるとも思わない。

 樹々の列ぶ間に牛の群れがやすんでいる。日本で見るよりずいぶん痩せた姿は、あまり美味しそうには見えない。ういう種なのか、労働用なのか、事情は判らないが実り豊かな熱帯雨林の中に在るのに、半裸で遊ぶ子供たちの小さな姿と重ね見るとき、それは妙に寒々しい。


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