3日目 土曜日

第8話 多国籍


 ホテルの柔らかなベッドの上で目が覚め、窓を開けると外は既に明るく熱帯のっとした空気に包まれた。ベランダから見る海の青は遠くへ行くほど明るく眩い。

 寝過ごしたかと思ったが、時計を見れば八時前。ポーリィさんとの朝食の約束まではまだ半時間ある。外にいるとじっとり額に汗が泛ぶので部屋へと戻ると、中は中で冷房が効き過ぎている。いつも思うのだが、南国の人たちは、空調は寒ければ寒いほど上質のサービスと思っている節がある。


 朝からビュッフェは多国籍な光景だった。それもその筈、マレーシアは三民族が共存する国家だ。加えてペナン島は観光地で、多様な観光客や長期滞在者を呼び込む基盤が整っている。

 ず、言葉。かつてイギリスの植民地であり今も英連邦に加盟するマレーシアでは、多くの国民が英語を理解する。屋台でサテーを焼く親仁おやじでさえ英語で注文を受けることができる。

 言葉と文化で云えば、中華系の人々にとっても障壁は低い。マレーシア総人口の二割ほどは華僑と謂われるが、なかでもペナン島に華僑は多い。中国語しか話せなくとも、ペナンでの生活に不便はない。

 そしてイスラム教徒が多数派であるマレーシアは、全世界のムスリムにとっても過ごしやすい旅行先であるようだ。一見刺客かと身構えてしまうような全身黒ずくめの女性を見かけることも珍しくない。興味深いのは、女性は前出の如き典型的なアラブの装束に身を包むのに、男性の方は短パンにTシャツという、アメリカ人かと見紛うような格好をしていることだ。彼らの生活や思考にもグローバル化の波は浸々ひたひたと押し寄せているようだが、それが女性の服装に及ぶまではまだ時間がかかるのだろうか。


 この国際色豊かなビュッフェのなかには勿論日本人も混じっている。若い家族は仕事で駐在しているのだろう。年齢がいっている方もちらほらいて、旅行者か、或いは定年後移り住んだのかも知れない。

 中国人、韓国人、華僑やその他アジア人の中には、身体的特徴だけなら日本人と然程さほど変わらない人もいるのだが、不思議と日本人でないと知れる。表情、仕草、服装……何かが違うのだ。それは彼らから見ても同様で、例えば韓国人は、同胞とそれ以外をしっかり見分ける。

 ただし我々の間では互いに見分けられても、他国の人にすれば大同小異、見分けることは困難らしい。土産物屋の前ではよく国籍を尋ねられる。最近は中国人と間違えられることが多く、嘗ては「コンニチハ」と声かけられたのが、今はたいてい「ニイハオ」から始まって、反応しないでいると「アンニョンハセヨ」か「コンニチハ」だ。一抹の寂しさを感じずにれないが、これも世の趨勢。再び日本人が世界各地で存在感プレゼンスを高める日が来ることをねがおう。


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