第18話 (ミコト視点)回復アイテム製作工房

「仲がよろしいんですね」


 建物に戻ると、リタさんが少しおかしそうに笑った。


「そ、そう言う訳じゃないんですけどね」


 なんだか照れくさい。逃げるようにして工房へと向かう。


 ギルドの中は結構広くて、三階建ての建物に色々な施設が入っている。受付のある正面一階にはハンターズショップのほかに武器や防具などの製作工房があり、それ以外にも靴などをオーダーメイドで作ってくれるお店があった。

 レストランやカフェも併設されていて、昨日覗いたけど結構イイ感じ。ハンターだけでなくて、町の人たちも利用しているんだって。


 通路を突き抜けると、奥は中庭になっている。綺麗に整備されていて、噴水もあり、あちこちにベンチが置かれていた。


 ここでランチを食べるのもいいよね。


 中庭の奥にも建物があって、渡り廊下で正面と繋がってる。戦闘の訓練をする施設や、怪我をした人のための治療施設があるみたいだ。


 そして、おれの働く回復アイテムの製作工房は、正面の建物一階のやや奥まった場所にあった。お店が併設されてるわけではないので、バックヤード的な感じだね。色んな魔法の道具を作る工房もここにある。


 おれは吹き抜けの出入り口から工房に入った。


 回復アイテムの工房は、簡単に言うと厨房みたいな感じ。大きな竈が並んで、大鍋や大釜で色んな薬草が調合される。

 そして中央のテーブルには、理科の実験室みたいなフラスコやビーカーなどが並び、薬用成分を抽出する蒸留器具などがたくさん置いてある。


「おはようございまーす」


 中に入ると、スーッと鼻に抜ける清涼な香りが広がった。薬草の香りだ。


「あら、ミコトちゃん! おはよう」

「今日も来てくれたんだね」


 さっそく、二人の女性に声をかけられた。昨日からお世話になっているダリアさんとセリーナさんだ。


 ダリアさんは、ぐつぐつと煮立つ大きな鍋を掻き回していた。セリーナさんは漏斗を差した大きな丸底フラスコに緑色の液体を注いでいる。

 二人とも、服が汚れないように作業用のエプロンを着ていた。


 近くのハンガーにブレザーを掛けると、おれもすぐにエプロンに着替えた。


「ここで働く気になったのかい?」

「はい。しばらく、ここでお世話になろうかなって……。色んな回復魔法やアイテムの作り方も覚えたいし」

「おっ! 熱心だね。感心、感心!」


 ダリアさんは豪快に笑うと、おれの肩を思いきり叩いた。


「いて。たはは……。よろしくお願いします」


 ダリアさんは元気なおばちゃんって感じの人だ。おれは頭を掻いた。


「ミコトさん、それじゃあさっそくポーション作りをお願いできるかな?」


 セリーナさんが丸底フラスコをテーブルに置く。大きなフラスコの中で、濃い緑色の液体が揺れ、薄っすらと湯気が立っていた。

 回復薬の代表ポーションだ。あんまりゲームをやったことのないおれでも、流石にポーションくらいは知ってる。HPを回復させるんだよね。この世界でも一番流通していて、消費量も多いらしい。


「出来立てでまだ熱いから注意してね?」


 俺を見て、セリーナさんがパチリとウインクした。セリーナさんは面倒見がよくて優しい。幼稚園の先生みたいな感じの人かな。


 椅子に腰かけると、おれは手を擦り合わせた。


 よっし! 今日も頑張るか。


 ポーションの入ったフラスコに手をかざす。


 ポーションは抽出された生薬しょうやく由来の成分に回復魔法の【キュア】を掛け合わせることによって、その効果を飛躍的に上げたものだ。

 口から飲んだり傷口に直接かけることで、炎症や裂傷を治して傷を塞ぐことができる。


「【キュア】の基本は憶えてるかな?」


 前に座ったセリーナさんがそう訊いた。自分の前に置いたフラスコに手を当ててみせる。


「まず体内の魔粒子を腕に流して、魔粒子があたたかな光となって手の平から出て来るのをイメージするの……」

「光じゃなくて、清らかな水や風をイメージしてもいいんでしたよね?」


 おれがそう訊くと、セリーナさんは笑顔で頷いた。


 その光や水が傷ついた人の身体に流れ込んで、傷口が塞がっていくイメージや、回復して元気になっていくのをイメージすることで、魔粒子が傷を治癒する粒子へと変換されるみたいだ。


 フラスコに手を当てて、それらをイメージする。


 ぽぅぅぅ……。


 青白い光の粒が手の平から湧き出して、フラスコを通り抜けていく。光の粒は液体と混ざり合い、浸透していった。


 うん、なんか昨日より上手く出来てる気がするぞ!


「やっぱりミコトさんは筋がいいよ」


 見ていたセリーナさんがそう言った。


「そうですか? ありがとうございます」

「うん! これならすぐに、別の回復魔法も覚えられると思うよ」

「やった。頑張ります」

「ハッハッハ! 大型新人が入ってくれてアタシらも大助かりだよ!」


 おれたちの会話を聞いていたダリアさんがそう言って笑った。


 めっちゃ良い雰囲気だな、ここ。いずれはシンくんとクエストに行くことになるけど、ずっとここで働いてもいいかもって、ちょっと思っちゃうよね。


 【キュア】を込めたら完成。フラスコから小瓶へと移していく。一本80mlから100mlくらいかな? 緑色のつるんとした素っ気ない小瓶だ。栓をしたらポーションの出来上がり。これがハンターズショップなどに並ぶのだ。


 その後は、毒消し用の薬草を抽出する作業をみんなでおこなった。


 毒消しは初めて作ったけど、一度で作り方を覚えるのは難しかった。ポーションもそうなんだけど、回復アイテムって複数のハーブを使うし、種を炒ったり葉や根を煮詰めたりと工程も多いからね。


 メモ帳を買おうかなぁ……。


 そんなことを考えていると、すぐにお昼になった。


 三人でレストランでランチ。


 よし、このタイミングで、あのことを訊いてみよう! この身体を元に戻せるのかどうか。けど、どうやって訊こうかな……。

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