第11話 (ミコト視点)身体確認

 コンソメスープも作り終わったし、魚は食べる直前に焼いたほうが美味しいからそうしよう。


「ミコト、風呂イイ感じだぜ? 先に入りなよ」


 額の汗を拭いながら、窓からシンくんが顔を覗かせた。


「いいの? シンくん、汗だくじゃん。先に入れば?」

「いいって。俺、明日の分まで、も少し薪割っとくわ」

「わかった。それじゃあお先に」


 お言葉に甘えて先に風呂に向かう。


 う~ん。ついに来たか……。覚悟いるよな、やっぱ。


 浴室の前には脱衣スペースもしっかりあって、そこで服を脱ぐ。タオルを片手に浴室に入った。


「お、おお……」


 鏡を前に絶句。


 こ、これが、おれの身体……。


 突っ立ったまんま、鏡の前で全身を眺めた。そして近づく。顔をまじまじと眺めた。


「こんな顔になってたんだ……。シンくんが分からなかったのも納得だな。いや、ちょっとだけ、子どもの頃の面影はあるかな?」


 それにしても……。やっぱり、全身女になってんだな。


 う~ん、何だろう……放心状態?


 浴槽の縁に座り込む。ふと、さっきの酔っ払いのことを思い出した。


 あの酔っ払い、そんなに身体つきも大きくなかったし力もそんなに強い方じゃなかったと思う。現にシンくんにすんなり引き離されてたし……。

 けど、全然振りほどけなかった……。割と本気で抵抗してたんだけどな。


 それにさっきも。買い物の荷物が大量だったから、いくつか持ってたんだけど、早い段階から手とか肩とか痛くなってきて、結局全部シンくんに持たせてしまった。あれは、ちょっと申し訳なかったな……。


 これってやっぱり、この身体になって力が落ちてるってことだよな? 元からそんなに腕力がある方じゃないけどさ。


 ショックと言えば、こっちの方がショックだ。そして、何気に今日一番のショックだったのは、あのステータス画面だった。


 HPやMPとかが高いってシンくん驚いてたけど、体力・攻撃力・防御力がシンくんと比べてメチャクチャ低かったよな。あれって多分、下の方の持久力と筋力が低いからなんだろう。


 シンくんは剣道部で毎日鍛えてるから、多分一般的な男子よりも持久力や筋力が高いと思う。それと比較するのは間違ってるかもだけど、でも筋力とか半分以下だった。それってどうなのよ? どう考えても低すぎだろ……。


「よしっ!!」


 おれは立ち上がった。そして、スクワットをはじめた。


「1,2,3……」




「しゃ、しゃん、しゃんじゅ……っ! ひやぁっ!?」


 ばたんっ!


 膝から崩れ落ちて、ひっくり返った虫みたいに天井を仰ぐ。


 やばっ!? 今すんごい可愛い声出しちゃった//////!


 浴槽の縁を支えに立ち上がる。


「あああ、あわわ……! 膝が、笑ってるっ!」


 マジかよ。スクワットは頑張れば100回近くは出来たはずだぜ? それがたったの30回で、こんな生まれたての小鹿みたいになるなんて……。


「これ、今のうちに自分の身体を把握しておいた方がいいよな」


 今日シンくんはスライムを倒してきたそうだ。あの青くて可愛いモンスターだったんだろうか?


 どっちにしても、これから先、おれもシンくんとそう言うことをしなきゃいけないんだもんな……。今のままじゃあ足を引っ張ることになりかねない。


 おれは浴室を使って筋トレをはじめた。腹筋とか背筋とか腕立てとか現状何回くらいできるのかも確かめたかった。




「んぎ……っ! もうムリッ! いやでも、あともう一回っ! 上がれっ、上がれっ、上がっ!?」


 べたん!


 浴室にうつ伏せで倒れ込む。


「だぁ! はぁ! はぁ! はぁ……! う、腕立てたったの5回!? マジかよっ!」


 これは、相当鍛えないと厳しそうだ。ショックだけど、どうしようもない。


 なんか途中、変な声出し過ぎてシンくんに怒られちゃったし……。


 ため息を吐いて、ゆっくりと立ち上がる。もう一度鏡の前に立った。さっきより冷静に見ることができた。


 身体をくるくる回しながら鏡の前で全身を眺める。


 う~ん、胸はさることながら(て言うか、びっくりするくらい大きいけど……)、下半身も割と筋肉ついてるっぽいんだけどなぁ。お尻とか太腿とかは、前よりちょっと太くなってる気がする。……と言うよりふっくらしてる。


 前からそんなにメリハリのある身体じゃなかったけど、前は確か、腰骨っていうかヘソのあたりが一番引き締まってる感じだったよな? なんか今は逆に、そのあたり一番ふっくらしてるんだけど……?


 男物のパンツがお尻とか太腿とかピチピチできつかったの納得だ。


 あと、おヘソのすごい上の位置にくびれ? が出来てる……。な、なんかじっと見てると変な気分になって来るな……。


 あちこちを触ってみた。


「なんか、全身むにむにしてるんだけど……」


 ちゃんと筋肉もあるはずなんだけどね。


「……な、なんか、エロい……」


 そう口にして、ブンブンと頭を振る。


 いかん! 早く身体洗って上がろう。


 バスチェアに腰掛ける。汗を流して身体と髪を洗い湯船に浸かった。


「ふ~っ!」


 身体動かした後のお風呂は気持ちがいいな。


「異世界かぁ」


 天井を見て呟く。


 魔法とかがある世界なんだから、この身体、元に戻せるのかな? そう言う魔法とか、薬とかありそうだけど……。それとなくギルドの人に訊いてみるか。


 けど、あんまり期待はしないでおこう。戻れなかった場合のショックがデカすぎるからな。現状はこのままの身体って認識で慣れる方向で行くか。


 ……でも、取りあえず制服は仕立て直したりしないであのまま持っておこう。


 湯船が大きいから全身を伸ばせる。大きく背伸びした。


「はあ~っ」


 けどシンくん、めっちゃ見てたなぁ……おっぱい。ま、気持ちは分かるけどね。


 ベッド一個かぁ……。

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