第10話 ベッドは一つだけ
途中に野菜を売っている小さな市場があって、そこでいくつか野菜を買った。そして、いくつもの麻袋を抱えて、どうにか教えてもらった家に到着。
「こ、ここだな……」
「なんか、おとぎ話に出てきそうな感じしない?」
ミコトの言う通り、緑に囲まれた石造りの家にはそう言う雰囲気があった。柵に囲まれた庭もあって隅の方にピザ窯っぽいのまである。
飛び石のアプローチが玄関扉まで伸びていた。
ミコトがギルドから預かった鍵で早速扉を開ける。
「「おぉ~」」
何と言うか、外観もそうだけどカントリー風ってヤツ? ヨーロッパの田舎の古民家みたいな感じだ。
「なんか、メルヘンだな」
「うん。良い感じだよね」
室内に入ろうとしてちょっと戸惑った。やっぱりそうなんだけど、土足のままだ。黒っぽい板張りの床になっていた。
異世界転生だとこの辺スルーされがちだけど、ちょっと慣れねぇよな。
室内は割と広い。玄関横に二つ並んだ
取りあえず、俺は持っていた荷物をすべてテーブルに置いた。
「だぁ、疲れたぁ!! あ~早いとこ金貯めて、魔法の袋を買いてぇよ」
「お疲れ様。ごめんね? 途中から全部持ってもらっちゃって……」
「いいって。それより家の中を見てみようぜ」
奥は上がり
「「えっ!? 一つ!?」」
同時に驚きの声を上げる。
キングサイズというやつだろうか。三人くらいなら余裕で寝られそうな感じだ。
「え? マジでベッド一個だけ? 何で? 他ないの?」
別のベッドがないかミコトが他の部屋を探しに行く。
外観から小さな家だし、二階もないっぽい。奥に別の寝室が無ければ、俺たちは今晩、ここで──。
『シンくん……』
『ミコト……』
『優しく、してね……?』
『ミ、ミコト──』
──って、何今の!? いかんいかんいかんっ!! 今なんか変な妄想してた。何考えてんだ、俺っ!?
ブンブンと頭を強く振った。
「ねねっ、シンくん、シンくん!」
「ひやぁっ、ごめんなさいっ!」
気づかぬうちにミコトが真横にいた。驚きすぎて飛び上がってしまった。思わず謝る。
「どうしたの?」
「い、いや。なんでもない」
「奥はお風呂になってたよ!」
「そ、そうなんだ」
ベッドと真向いにある吹き抜けから通路を進むと、確かに広々とした風呂があった。壁も床も石造り。浴室には大きな鏡まである。
「確か浴槽のタイルが魔石になってて濾過機能があるって言ってたね」
「ああ」
賃貸契約をした際に、事務のおじさんが教えてくれた。
玄関横にも大きな
結局、リビングの奥にあったのは風呂場とトイレと掃除道具などを保管している納戸だけだった。それと裏口もあって、扉を開けると目の前に小川が流れていた。本当に小さな桟橋がある。魚が泳ぐ綺麗な川だった。川の向こうには小路が通っている。
残念ながらベッドはなし。
俺たちは取りあえず部屋の掃除を始めた。ミコトがリビングで俺は風呂。
と、その前に飲み水を確保するために、玄関横の水瓶を水で満たす。納戸にあった木製のバケツを使って川の水を汲んで運ぶ。何往復もしないといけないので少し大変だ。
風呂掃除が終わった後は、浴槽に水を溜める。同じく川から汲み上げるんだけど、桟橋のすぐ後ろに窓があって、その窓の真下が浴槽。窓からじゃぶじゃぶ流し込めるって寸法だ。考えられてるわ。
水を溜め終わって汗だくで表に回ると、ミコトの服装が違っていた。身体にピッタリの白いシャツと茶色いズボンだ。
「お前、それどうしたんだよ?」
「ご近所のドーラっておばちゃんに貰ったんだ、さっきね」
「マジで!?」
「うん! 上のチュニックシャツはおばちゃんが若い時ので、ズボンは独り立ちした息子さんのお古なんだってさ。どっちも、もう要らないからって」
こいつ、いつの間に……。
「でも良かったわぁ。ちょうど、こう言うのが欲しかったんだよね。農作業用らしいけど、メチャクチャ動きやすいわ」
そう言いながら、ぴょいっぴょいっと交互に足を上げてみせる。
「ベルトは高校の?」
「そう。あっ、そうだ! 食べ物のお裾分けも貰ったよ」
そう言って出したのは、小ぶりなカボチャと魚が二匹。
「そんなものまで!?」
「うん。カボチャはたまたま通りかかったマルコムさんって人に、魚の方はバートさんって人。たくさん釣れたからあげるってさ」
「そ、そう……」
「よかったね。メインディッシュを結局買えなかったからさ。夜はこの魚も焼こう。コンソメを振りかけてバターを乗せたら結構うまいと思うよ?」
相変わらずのコミュ力の高さ……。コミュ力、なのか? ここまで来ると、なんか別の力な気もしてくるが。
それにしても、なんだあの胸……!?
俺はもう一度、チラッとミコトを見やった。
貰ったと言う服は生地がぴっちりと胸に張りついていて、お胸が大きなドーム型のテントを二つ張っていらっしゃる……。
あ、あんまし見たらダメだよな。
そう思ってすぐに目を逸らす。
「じっ、じゃあ俺、薪割ってくるわ」
「ありがと。おれは野菜を切って、コンソメスープの準備しとくね」
魔法道具で何とかならなかったのか、火力は薪で火をつけると言うとても原始的なものだった。
乾燥させた切り株はたくさん残っていたけど薪になっていなかったので、取りあえず竈に使う分だけを割って、キッチンに持って行く。
火打石は置いてあったので、それを使って竈に火をつけた。
「ありがとう」
「じゃあ、俺は引き続き薪割って、風呂を沸かしてくるよ」
「うん! 料理は任せといてね?」
「おう!」
ミコトは昔から家庭的だからな。料理もうまいし、裁縫とかも得意だ。学校にも自分で作った弁当を持って来ることもあった。料理はミコトに任せて大丈夫だろう。
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