第9話 酔っ払い

 大通りから外れ、露店が並ぶ裏通りにやって来た。品質は落ちるけれど、ここの方が安いものが手に入りやすいそうだ。(クリスさん談)


 まずは買わずに値段を見て回る。明日の朝の分までの食料は、どうにか買えそうだった。


 荷物が重くなるから調理器具は鍋と包丁とまな板だけ購入。最低それだけあれば、どうにかなるだろう。

 それとナイフとフォーク、そしてお皿を二人分。


 すでにちょっと重い。ていうか嵩張る。


「コンソメを買ってさ、今日はコンソメスープにしようか? 野菜とか色々入れて」


 ミコトがそう言ったので夕食のメニューも決定。


 調味料としてコンソメとバターを購入する。この二つがあればなんとかなるだろ。


 最後に食材だ。


 町外れにも市場があって、野菜などはそちらの方が安いらしいので後回し。反対に、お肉やチーズは売っていないことがあるため、街中で買うことを勧められた。(オリヴィアさん談)


「へぇ、卵も売ってんだ……。けど結構高いよな? やっぱ、さっきんとこのチーズをホールで買う? 手の平サイズのヤツなら安かったじゃん……あれ?」


 何の反応もないから横を見るとミコトがいない。


「ミコト?」


 左右を見ても姿がない。ちょっと心配になり、重い荷物を揺すりながら早足で来た道を戻る。


 人通りが多いので、爪先立って道の奥を見やった。


 いた!


 ミコトを見つけた。見つけたと同時に、ミコトが変な男に肩を抱かれているのも目に映った。

 男は嫌がっているミコトの身体を自分に引き寄せて、ミコトの手を掴んで離そうとしない。


 あの野郎……っ!!


 一瞬で全身がカーッと熱くなった。ドクドクと心臓が早くなる。俺は人を掻き分けてミコトの元に急いだ。


「やめろよ、放せって!」

「そんな寂しいこと言うなよぉ。こっちに来て俺と遊んでよ? な、一緒に飲もうぜ?」

「だから、ヤダって言ってるじゃんか!」


 ガッ!!


 男の腕を掴む。


「おい止めろよ! 嫌がってんだろ!」

「あ? 誰だよ、お前」

「俺が誰かとか関係ないだろ、早く放せって!」


 男の腕を捩じって、ミコトから引き離した。酒の匂いがプンプンしている。顔も赤くて、目もどこかとろんとしていた。相当酔っぱらっているらしい。


「ってぇな、マジで……」


 掴まれていたところをさすりながらミコトがそう言った。顔が引き攣っている。


「許せねぇ……! よくも俺の……っ!」

「なんだよ、連れがいたのか。俺の、何だよ?」

「俺のお、お……お友だちに、手を出しやがったな!?」

「はぁ?」


 男が一瞬怪訝な顔をする。


 俺の女に手を出すなぁっ!! とは流石に言えず……。いや、実際に友だちなわけだから、これでいいんだけどさ。


「へっ、なんだそりゃ」

「兎に角、消えろよな!」

「あ~あ~、わかったよ」


 俺が睨むと、捨て台詞を吐いて男は消えた。


「ミコト、平気か?」

「うん。ありがとう」

「マジびっくりしたよ。急に姿が見えなくなったから」

「ごめんごめん。人に紛れてシンくんの姿見失っちゃってさ……。そしたらあいつに話しかけられて……」

「あ、そうだったんだ。俺もゴメン」


 背が縮むと、そうなるわな……。こっちの人間はざっと見て、男も女も日本人より背が高いみたいだし。


「いいよ。次行こうか」

「うん。チーズとかどうかなって思ってるから、一緒に選ぼうぜ」

「それと、ティッシュとタオルも買わないとね。それに石鹸もいるなぁ。シャンプーとかコンディショナーとか、そう言うってこっちはあるかな? ないのかな? どう思う?」


 ああ、ティッシュにタオルに石鹸か。そっち系はすっかり頭から抜け落ちてたわ。確かにいるわな。ティッシュはトイレにも使うことになるんだろうし……。


 こりゃ、今晩はスッカスカのコンソメスープになるかもしれないな……。

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