第8話 下着を買いに

「あ。あった! ここだ」


 ミコトが婦人服店の前で看板を指差した。


「回復魔法の使い方を教えてくれたお姉さんが言ってた店。品揃えが良くて安いんだってさ」

「へぇ」

「「…………」」


 一瞬の沈黙。


「ええと。じゃあ、外で待ってるわ」

「う、うん。行って来る!」


 ミコトは緊張した顔して、一人で店に入っていった。


 ブラとか買うとこ見られたくないよな。友だちの俺に。それに俺も入りづらいし。なんか結構若い女の人が出入りしてるし……。


 だがミコトは赤い顔して、すぐに店内からバタバタと出てきた。


「早かったね」

「まだなんも買ってない」

「え?」

「や、やっぱ一緒に来てくんない?」

「えっ!? いや、ヤダよ」

「いいじゃん。一人じゃ恥ずかしいんだって!」

「いや、俺も恥ずかしいから!」

「いいじゃんか! マジで! ね? マジでお願い。一人じゃ心細いんだって!」

「いや、分かるよ? あのデパートとかで女性ものの下着が陳列されているそばを通り抜けるあの感じ? 分かるよ?」

「じゃあ来てよ」

「いや、けどお前は見た目女だから何とも思われないけど、俺が入ったらヤバいって! 変な感じになるって!」


 少しの間、店の前で押し問答をして……。




「いらっしゃいませ~。ご夫婦、ですか?」


 ニコッとそう訊かれて俺は固まった。なぜ入店した。速攻後悔。


「え、えと……」

「あ……彼、です」


 ぼそりとミコトがそう言ったので、ドキリとする。店員さんに目で問いかけられて「か、彼氏です//////」と俺も答えた。


 は、恥ずかしっ! なんか今、ゾワゾワしたっ! あとなんか緊張してるっ! 全身が緊張してるっ!


「今日は、どういったものをお探しですか?」

「ええっと、実は新しく、し、下着が欲しくて。あ、それと服も」


 二人が並んで歩く少し後ろを、俺はそろりそろりと歩いた。ちらちらと女の人たちから見られてる、気がする。


「あの~、一通りサイズを測ってもらえませんか? 何と言うか、最近測っていなかったので」

「わかりました。では試着室へどうぞ」


 奥のカーテンがかかった小部屋にミコトが案内されてく。


 へぇ、試着室なんてもんもあるんだ……。て、え?


 ミコトがカーテンを閉める前にこっちを見て、ぴょこぴょこっと手を動かした。そして閉め切った。


「えっ!? 俺、あいつがいない間どうすりゃいいの? このかん、どうすりゃいいの??」


 ざわ……。


 ちら……。


 うわ、女の人たちにめっちゃ見られてる。気のせいじゃないっ。完全アウェー状態だ。やっぱ男子禁制だ、ここ。


「えっ、えぇ~。あっこれいいな、良い色だな。これプレゼントにいいかも! あいつ、喜ぶかも。サプライズで買おうとしてるから、一人で来たわけですがぁ!?」


 なんか見てもよさそうな靴下とかハンカチのコーナー辺りで俺は周囲の人たちに聞こえるように定期的にそう言った。(死ぬ……)


「それでは身長から測りますね?」

「お願いします」


 カーテンの向こうでそんな声がする。


 早くしてくれ早く。息が苦しい。


「ええっと、身長は152……、いやギリギリ153㎝ですね」

「7㎝も縮んでてワロタァ!!」


 ミコトが叫ぶ。


 あいつ、160㎝だったんだ。


「それではスリーサイズを──」

「!?」


 その言葉を聞いて、何故だろう。俺は、すんっ……となった。どう表現していいのか分からないけれど、兎に角、すんっ……となった。


「まずバストは──」


「次にウエストが──」


「最後にヒップは──」


 …………。


 ……よし! うん、よし!


 そのサイズ感は、自分の心の内側だけにそっと閉まうことにする。が、思ってはいたけれど、おっぱいは……やはり大きかった。


 その後も店員さんがミコトの試着室に出たり入ったりしていた。


「スカートはどういう感じのがいいですか?」

「あ、ええと。スカートじゃなくてパンツがいいんですけど。なるべく動きやすい服装がいいんです。走り回れるくらいの」

「う~ん。でしたら乗馬用のキュロットパンツなどはいかがです?」

「ええっと、それってぴっちりしたのですよね?」

「ええ」

「もうちょっとダボっとしたのがいいんですけど……」


 そんなやり取りが聞こえる。


「プレゼントですかぁ?」

「はいっっ!?」


 不意に横から、店員さんに声をかけられて俺は飛び上がった。店員さんが営業スマイルで微笑んでいる。


「あ、はい。その何か、プレゼントにいいものはないかなと」

「それなら、スカーフなどはいかがです?」


 と売り場に案内される。結局一枚買ってしまった。


 何やってんの、俺!? 金、そんなにねぇのにっ!


 それから暫くして、やっとミコトが試着室から出てきた。


「あれ? シンくんも何か買ったの?」

「え!? あ、うん。ちょ、ちょっとね……。そっちは?」

「結局下着と靴下だけにしといた。結構どれも高かったんだよね。上はこの制服でいいし、下も、もう少しお金が溜まってからにするよ」

「そうか……」

「ふーぅ、でもよかったぁ。これでやっと息苦しさから解放されたわ……」

「……!」


 下着はすでに身に着けたみたいだ。


 てか、タンクトップの圧縮から解放されたミコトの胸は、先ほどよりも大きく強調されていた。胸周りのボタンがキツキツで、胸元は締まらなかったのか大きく開いている。タンクトップを脱いだせいで、大きな谷間が見えていた。


 手や腰の裾はダボダボなのに、なんで胸だけはあんなにパツパツなんだよ……。って、男子の制服だし、胸が大きいとああなるのか? 知らんけど。


 店を出た俺たちは、次に靴屋へ向かった。そこでミコトとついでに俺も、革製の踵付きサンダルを買った。古代ローマ人が履いてたような感じのサンダルだ。


 靴は激しい運動をする際には結構重要だ。ギルド内の工房でオーダーメイドでちゃんと作ってもらうほうがいいだろうからな。普段使いにはサンダルで十分だけど。


「あー、やっと普通に歩けるーっ! 歩きやすいってサイコー!」

「めっちゃ歩きにくそうだったもんな」

「うん」

「じゃあ、次は食料とかを買いに行こうかね」


 さてさて、残りのお金でどのくらいの物が買えるのか……。食べ物だけでなく、調理器具とかも買わなきゃいけないからな。

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