第7話 魔石を換金

「シンは明日からの予定はあるのか?」

「いえ、ハッキリとは……」


 帰り道、クリスさんに訊かれてそう返した。


「俺たちなら明日は空いているから、俺が剣の稽古をつけてやってもよいぞ?」

「わたしも明日はほかの新人さんに初級属性魔法の教習をするから、そっちに参加してもいいわよ?」

「いえ、取りあえずは【魔弾】を使い慣れることから始めようかなと思ってます。まだ、出来ることがあると思うし」


 少し考えてから、二人にそう返した。


 それに、しばらくはお金を稼ぐためにクエストをこなしたかった。さっきゲットした魔石は俺が貰ってよいそうだ。ギルドに出すと換金できる。今回の討伐クエストの報酬も貰える。


 ミコトの報酬と合わせてどのくらいになるかだよな……。


「【魔弾】を使っていくか……。うん、良い選択かもしれないわね!」

「そうですか?」

「ええ。魔法を極めた者は、最終的に無属性に帰結するとよく言われているの」


 オリヴィアさんがそう言った。


「魔粒子そのものの扱いに長けることは、魔法の上達においても遠いようで近道になると思うわ」

「玄人こそ基本を忘れないってところか」


 クリスさんもそう言って笑う。


 そうだな。あんまりあれこれ手を出さずに、魔法に関しては暫く【魔弾】を極めてみるか。


 ギルドに依頼完了の報告をして報酬を受け取る。


 この国の通貨単位はガトと言うらしい。G或いはGtで表すようだ。今回の報酬で受け取れたのは、10Gt銀貨二枚。


「さっきの魔石はどうするんだ?」

「記念すべき最初の魔石なんだし、工房で杖に加工してもらえば?」

「そうですね……。お二人に訊きたいんですけど、この銀貨二枚でどのくらいの買い物ができますか? 食料品や服なんかを買い揃えるとして何日くらいもつものなんでしょうか?」


 クリスさんとオリヴィアさんが顔を見合わせた。


「服も買うとなるとなぁ……」

「そうね。一日か二日くらいかな?」

「そうですか……」


 不測の事態も考えられるし、何が必要になるかも分からない。ここはお金に換えていた方が得策だろうな。


「やっぱ、お金に換金します」

「そう? ならこれを」


 オリヴィアさんがさっき俺が借りていたペンワンドを渡してくる。


「シンくんにあげる。わたしのお古だけどまだ十分使えるから」

「ならば俺からも、この狩猟ナイフをプレゼントしよう。ハンターには必須だからな!」

「えっ、いいんですか!? あ、ありがとうございます!」


 うわ、ちょっと泣きそう。二人ともめっちゃ親切。ありがてぇ……!


 俺はありがたく受け取った。その後、魔石を換金することで、更に100Gt銀貨二枚を得ることができた。


 これでどのくらいの買い物ができるのか、だよな? でも少し気持ちに余裕が出たわ。


「あ、シンくん!」


 奥からミコトが現れた。手を振ってこっちに駆け寄る、かと思ったらまた例の猫背でそろりそろり歩いてきた。


 う~ん、まずは早く下着だな。


「シンくんも終わったんだ」

「ああ。そっちも?」

「少し前にね。明日からもここで働いてほしいって言われたよ」

「よかったじゃん。あ、そうだ! そっちは報酬いくら貰えたの?」

「10Gt銀貨三枚だよ。シンくんは?」

「俺二枚。それとモンスターから出た魔石を売って100Gt銀貨二枚だ」


 じゃあ早速ブラジャ……って、待てよ? こいつの着替えも必要だけど、まずは今日の宿だよな?


 そう思い直して、クリスさんとオリヴィアさんに宿について尋ねる。


「宿か……」

「宿ねぇ、それなら……」

「あ、それならもう見つけてあるよ」


 ミコトがそう言ったから驚いた。


「見つけたって、どこで?」

「ギルドが契約しているハンター向けの貸家がちょうど空いてるんだってさ。この前まで人がいたからそこそこキレイで、家具とかも揃ってるらしいよ?」

「マジでっ! そんなサービスもあるんだ」


 やるじゃないか、ハンターギルド。


「うん。ハンター割引も利くんだってさ。場所はちょっと遠くて町外れらしいけどね。大通りの町宿よりもトータル安くつくんだってさ」

「いつの間にそんな情報を……」

「ポーションを作っている時におばちゃんに聞いたんだ」


 コミュ力高ぇな、おい……。前からだけどさ。


「それからギルド内のハンターズショップってとこにも色々売ってたよ? 町で売ってるのより品質がいいっぽいね。どれも高いけど」

「武器防具だけでなく、色々な装備が揃えられるから是非見て行ってね」


 オリヴィアさんがそう付け加えた。ぱちりとウインクする。


「は、はい……!」


 少々頬を赤らめて、ミコトは頷いた。俺とミコトは、二人にこの町で買い物できる場所などを色々と聞いた。


 二人とお別れした後、俺たちはハンターズショップを見て回ることにした。


 そして見つけた。魔法の革袋! あのたくさん物が詰め込める魔法道具! やっぱこれはいつか欲しいよな、異世界に来たんだから!


 それにしても確かにどれも高かった。あと日本に売ってあるスポーツ用のインナーみたいなのもあって驚く。


 ゴムのような伸縮性のある素材は、魔物の繊維を加工して作られてるっぽい。(ミコト談)


 一人で見物していた時に、お茶に誘ってきたハンターから聞いたんだと。


 お茶に誘われたってなんだ!?


 取りあえず、今日は魔物解体用の手袋だけを購入した。生活に必要な物ではないけど、魔物の解体には必須だからな。明日への投資だ。


 その後、賃貸の契約手続きへ向かう。


「……夫婦かい?」


 俺たちの顔を見比べて、事務のおじさんが訊いてきた。


「「えっ!?」」

「違うのかい? 同じ服装だし」

「あ、そうか。ええと……」

「友だちです」


 先にミコトにきっぱりと言われてしまった。


 ちょっとショック。(←なぜ?)


「お嬢ちゃんは信用できそうだし、このギルドのハンターだから前金は後からでいいよ。何日か待ってあげるよ」

「マジですか!?」

「ああ、今度持って来てくれ」

「ありがとうございます。良かったぁ、ね?」


 なんて言って俺見て笑ってるけど、俺は信用ないんかい。このオッサンもずっとミコトの顔と胸を交互に見てるわけだけれども。


 兎に角まずは、女性ものの服屋に直行だな。

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