第6話 オリヴィア先生の魔法授業~魔粒子の基礎

「君は無属性の【魔弾】をすでに習得しているから、今日はその撃ち方を練習しましょう」

「【魔弾】はモンスターに近づかずに遠距離から攻撃できる。接近戦に慣れるまで、重宝するはずだ」


 二人がそう言った。


 俺のスキルや魔法については、道中にざっと説明している。それを踏まえてオリヴィアさんが【魔弾】の説明をしてくれた。


 【魔弾】は魔法使いが最初に覚える最も初歩的な攻撃魔法のようだ。その中でも無属性の【魔弾】は、火や水などに属性変換される前の魔法の粒子をそのまま撃ち放つ基本中の基本らしい。


「体内の魔力が腕を通って杖に流れ込むのをイメージするといいわよ」

「わかりました」


 言われたとおりにイメージしてやってみる。


 ポウ……。


「お」


 ペンワンドの先端、魔石を核として丸い球体が出来た。ピンポン玉くらいの大きさだ。


「えっ? で、出来たの!?」

「え? はい。なんか間違ってました?」

「い、いえ、出来たのなら大丈夫よ」


 オリヴィアさんが戸惑ったように咳払いをする。


「じゃあ次は、それをスライムに向けて撃ち放つイメージで、杖を突き出してみて」

「分かりました。……えい!」


 シュ──ッ!!


 弾が射出される。


 パシュッ!


 スライムの後ろの地面に着弾した。


「あっ、おしい!」

「結構、コントロールが難しいですね」

「慣れだ! がんばれ」


 二人に励まされてもう一度やってみる。


 バトロワとかのガンアクションゲームで言うところのエイム力がいるみたいだ。それに射出した瞬間に腕に反動もある。


 もう一度集中して【魔弾】を作る。さっきの位置関係を思い出して補正をかけて撃ち放った。


 ズドッ!


「やったか!?」


 命中した。弾がスライムの内部に消える。でもスライムは動き続けている。


「あれ、ダメージが入ってない?」

「急所を外したようだな」


 クリスさんがそう言った。


「スライムは内部に核がある。そこを貫くと即死させられるが、それ以外だと結構しぶといんだ。……しかし、シンは結構筋がいいんじゃないか、オリヴィア?」

「ええ。正直たった一回で【魔弾】が作れるなんて思っていなかったから、結構びっくりしてる」

「そうなんですか?」

「うん。魔粒子を杖の先端に溜めて一定の形に保つだけでも、数日の練習が必要な子もいるからね。君、魔法の才能があるよ!」


 そう言われて、胸がくすぐったくなる。


 やっぱ、褒められるって嬉しいもんな。


「これならもう応用を教えてもいいかもね」

「応用ですか?」

「うん。魔法の威力を高める方法だよ。杖の先端に作った球体を圧縮するイメージで小さくするの」


 圧縮か……。


 オリヴィアさんのアドバイス通りにやってみる。


 ピンポン玉の大きさだったのを、ビー玉くらいに圧縮した。


 これ結構、集中力がいるな……!


「さっきよりも腕に反動が来るから注意してね」

「っ! 行けっ!」


 シュド──ッ!!


 さっきよりも速いスピードで【魔弾】が射出された。今度は見事にスライムを貫通、スライムが砕け散った。


「やった!」

「うん、バッチリじゃない!」


 弾けたスライムの肉片を貪りに、近くにいた大きめのが数匹、近寄って来る。


「うわ」

「シンくん、ちょっと離れてて」


 オリヴィアさんが前に出る。杖を頭上にかかげた。


「見ててね?」


 杖の先端に火の玉が作られた。バレーボールくらいの大きさだ。


「【ファイアボール】!」


 寄って来た数匹を一気に焼け散らせた。


「広範囲を一気に攻撃するときは、こうやってあえて広く攻撃するのもアリね」

「なるほど~」


 グニン、グニン、グニン……。


 岩陰からひときわ大きなスライムが出現する。散らばった肉片を食べはじめた。


「ボ、ボス!?」


 びっくりしたが、オリヴィアさんは怯まなかった。


「手ごわい敵一匹を相手にする時は、狙いを定めて……」


 また火の玉を作り出す。今度はバレーボールの大きさをテニスボールくらいに圧縮、火の玉の色が濃くなった。熱がこちらにも伝わって来る。


「【ファイアボール】!」


 ボススライムに命中、身体に穴が開くと次の瞬間、スライム全体が燃え上がって焦げていった。


「すごい……」

「ふふ。同じ魔法、同じMP消費でも工夫次第でいろいろできるのよ。憶えておいてね?」


 なるほど、一発の威力や範囲が調整できるってわけか。


 俺はその後も【魔弾】で数匹のスライムを倒した。残りはオリヴィアさんが火魔法で殲滅する。


「おいおい、全部焼かないでくれよ? 素材の剥ぎ取りやモンスターの解体も勉強だからな」


 クリスさんが腰から狩猟ナイフを抜き取った。スライムをナイフで刻む。


「スライムの核には魔石があることがあってな。……っと、どうやらコレは外れみたいだ」


 ナイフを渡された。


「君もやってみたまえ。あ、その前に手袋を貸そう」


 当然、俺は素手だった。


「魔物の解体は手袋をはめてからするのが基本だ。毒を持つ魔物もいるし、素手は危険だ。これも、憶えておいてくれよ」

「わ、わかりました」


 狩猟ナイフに手袋……。これは、いろいろと装備を整える必要があるな。でも、その前にミコトの服とかだな、まずは。


「さあ、解体してみるんだ」

「はい……」


 ごくりとつばを飲み込んでナイフを構える。


 異世界転生あるある。初めてのモンスター解体。


 この世界で生きていくなら慣れないとな……。


 俺は何度か吐きそうになりながらも、スライムを切り裂いていった。


「あれ?」


 光るものがあり指でつまむ。小指の先に乗るくらいのつるんとした透明な石ころだった。水晶みたいだ。


「やったじゃない! それが魔石だよ」

「これが」


 その後も数体のスライムを解体したが、結局手に入れられた魔石は一個だけ。それが終わったらオリヴィアさんがスライムたちをみな焼却した。


 こうして俺たちは町に戻った。

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