第5話 なんか、俺の知ってるスライムじゃないんですけどぉ!?

「訓練もいいけど、やっぱりクエストを受けたいよなぁ……」


 依頼を読み漁っていると、「君」と声をかけられた。

 振り返ると、腰に剣を下げた男性と大きな杖を手にしたローブを着た女性が俺を見ていた。いかにも剣士と魔法使いって感じの二人組だ。


「新人君だよね? 盗み聞きするつもりはなかったんだけど、さっきリタと話をしているのを聞いたものだから」


 魔法使いの女性がそう訊いてくる。薄紫色の髪と瞳が黒っぽいローブとよく似あっていた。

 リタとは、さっきの受付のお姉さんの名前のようだ。


「そうです。お二人は?」

「わたしはオリヴィア、彼はクリスって言いうの」

「よろしくな」


 髪の色と同じ明るいブラウンの瞳を俺に向けて、クリスさんが軽く笑った。


「どうも。シンです」

「俺たちはこのギルドで、新人の指導を担当しているんだ。もし君がクエストを受けたいのなら一緒にどうだい?」

「え? いいんですか?」

「ああ。実は緊急依頼を受けて、これからモンスターの討伐に向かうんだ。町の南側の農道にスライムが出たらしい。スライムくらいであれば、俺たちもいるし実地訓練にちょうどいいだろう」

「お願いします。是非っ!」


 二つ返事で二人について行くことにした。


 うっしゃ、俺もいきなり実践だ! 最初の敵って言えば、やっぱスライムだよな!




 町を出て、麦畑の間の細道を進む。小川が流れていて、その河畔の岩に、それらはへばりついていた。


「ここのようだな」

「えっ?」

「ええ、そうね。けれど報告よりも数が多いわね」


 これが、スライム……??


 目の前の岩に貼り付いているのは、何ともグロテスクな物体だった。例えるなら内臓や筋肉の塊が意志を持って動いているみたい感じだ。グニグニと変形しながら動いていて、眼球みたいなものや鎌? 牙? みたいなものも生えている。


 あっれ? スライムって……もっとこう丸っこくてどこか愛嬌があって、虚空を見つめて笑ってる感じの、あの水色のやつなんじゃないの? アニメとかでも主人公の相棒になったりするアレじゃないの!?


「あの。あれが……スライム?」

「何を言っているんだ、シン。どう見てもあれが動く肉腫──スライムじゃないか!」


 クリスさんが剣を抜き放つ。オリヴィアさんも杖を構えた。


「なんか、俺の知ってるスライムじゃないんですけどぉ!?」


 動く肉腫ことスライムは、小さいのは手の平サイズ。大きいやつは小型犬くらいの大きさがあった。


 ダークソウルとかあっち系の世界観なの、ここっ!?


「まずは俺が剣での仕留め方を見せる。そこでよく見ていてくれ」

「は、はい!」


 やばい! いきなり戦闘が始まった。


「ただし、オリヴィアから離れるんじゃないぞ。死角から飛びかかられて口に侵入されたら、内臓を食い破られかねない! それだけは気を付けろ!」

「ひ、ひいぃぃ!」


 クリスさんは次々とスライムを突き刺して息の根を止めていった。急所を突かれたスライムが、だらんとただの肉塊になっていく。




「……ふぅ。剣での仕留め方はこんな感じだ。だが、地を這う小型モンスターを剣で仕留めるには慣れが必要だ」


 確かにそれなりのデカさがある相手の方が剣で戦いやすい。足元の小さな的はまず斬るのが難しいからな。クリスさんもほとんど突き刺して仕留めていた。


「今日はオリヴィアから魔法を習うほうがいいだろう」

「やっとオリヴィア先生の出番ってわけね!」


 オリヴィアさんがそう言って胸を張った。腰に下げたバッグから何かを取り出して手渡される。


「これは……ペン?」


 木でできた中央がやや膨らんだ木の棒だった。


「それも立派な杖だよ」

「これが!?」

「ええ。ペンワンドって言うの。魔石が埋まっている方を敵に向けるのよ。そこから魔法が放たれるから、逆に握らないように注意してね?」


 ハリーポッターの映画に出て来る杖よりも小ちゃい。本当にただのシャーペンみたいだ。けれど、オリヴィアさんの言う通り先端に米粒大の宝石が光っていた。


「さあ、それではオリヴィア先生の魔法授業の始まりよ! レッツゴー!」

「オ、オ~!」


 オリヴィアさんが片手を突き上げてぴょんと跳ねる。


 こんな感じの人なんだ。オリヴィアさんって……。


 と思いながら、俺は恐る恐る蠢く肉腫に近づいていった。

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