第25話 どうしてTSしたのか?

「どうして、おれだけ女の子になって転移したのかが、まず一番重要な謎じゃん!」


 そう言われて俺はハッとした。


「た、確かにそうだよな……」

「何でだと思う? なんか、シンくん異世界とかに詳しそうだから、なんか知ってる?」


 そう言われて、俺は首を捻った。


「う~ん……。たぶんだけど、ミコトはいわゆるTSした? ってことだと思う」


 半疑問で俺は答えた。


「ティーエス? なにそれ?」

「俺もそっちのジャンルは、あんま興味なくて詳しくないんだけど、簡単に言えば、身体が女の子になったり男の子になったりすんのがTS、かな」

「そんなジャンルがあるんだ……」


 ミコトが小さく口を開けた。


「ああ。ミコトの場合は身体がしたってことだろうな」


 と言いつつ、俺は話の流れのまま、半ば必然的にミコトの顔から胸に目を落とした。


 風呂上がりのミコトは肌も髪もしっとりしてて、服はラフな格好で、首元から魅惑の隙間が覗いている。


「……」

「//////」


 顔を上げると、ミコトと目が合った。顔を赤らめて、少し怒ったような顔をしていた。


「シンくんっ」

「ご、ごめんごめん……」

「にょ、女体化って……、ちょっと言い方キモイですけども?」


 胸を腕で隠すと、ぷいと横を向いてそう言った。


「じゃあ、なんでおれは女体化ってかTSしたの? 謎じゃない? なんでおれだけ? 理由があんの?」

「い、いや、それは分からんけど……」


 次は矢継ぎ早に質問してくるミコト。俺はその圧に押され気味に答えた。


 もうちょっと、そういうジャンルも読んどきゃよかったな……。


 異世界転生でも、メジャーではないけど主人公がTS転生するものがちらほらありはしたんだよ……。


「はぁ……。まあいいや、自分で地道に探すしかないか」

「探す? 探すって何を?」

「元に戻る方法だよ」


 当たり前のようにそう返されて、俺は一瞬言葉に詰まった。


 あ、あぁ……。


「さっきの話に戻るけど、おれたちの世界から来た人に会えれば、女の子になった原因とか解決策も分かるかもしれないよね? 同じような人がいるかもしれないしさ」

「そ、そうだな……」

「それに知ってる? ギルドには図書室もあってさ、そこに冒険に役に立つ本がいっぱいあるんだ」

「へぇ……」

「高度な魔法の技術とか魔法薬に関するものも結構あってさ、元の身体に戻せる方法が見つけられるかもしれない」

「そ、そっか……」


 なんだろう。ちょっと反省。


 俺はミコトが(ミコトの見た目が)可愛い女の子になってどこか浮かれていた。さらには一目惚れした、十年近く思い続けている女の子ともどこか似ていて、変なトキメキみたいなものを抱いてさえいた。


 けど、こいつは元の身体に戻そうとしてたんだな。て言うか、普通に考えたら戻りたいに決まってるわな……。当たり前のことだ。


「どうしたの?」

「えっ? いや、なんでもねぇよ」


 俺はミコトを見ると首を横に振った。


「俺もそう言うこと──ミコトが身体を戻せるようなこと、それとなく誰かに訊いたり調べたりしてみるわ」

「ホントに? ありがと」

「うん」




「俺たちの関係性のことなんだけどさ……」


 寝る前、ベッドに寝っ転がりながら俺はミコトに言った。


「うん」

「よく、他人から訊かれたりするじゃん?」

「うん、そうだね」

「別に隠す必要もないわけだし、子どもの頃からの幼馴染で、友達だってことでいいよな?」


 実際にミコトも昨日、そうやって答えてたし。


「うん。おれも訊かれたらそう答えてるよ。パーティー仲間だって」

「わかった。じゃあ俺もそう言う風に答えるよ」


 あれやこれや、その場で適当に嘘を吐くのも良くないしな。ハンター仲間で同じパーティーを組んでるってことで統一しといたほうがいいだろう。


 もっと端的に、濁さずに言うと、男女の仲ではないってことだ。


 そこはハッキリさせといたほうがいいもんな。


 だけどそう思うと同時に、昼間のジャイルって人の一言を思い出して、心にどこか引っ掛かりが残った。


「そうだ! さっきの図書室の話なんだけどさ」

「うん、なに?」

「ハンターカードがあれば、誰でも借りられるから」

「そうなんだ。明日、見てみようかな」

「うん! 色んな図鑑とかもあって役に立つと思うよ」


 そう言うと、「あ!」と短く言って、くるりと俺の方を向いた。


「おれが借りて来てあげよっか? シンくん、大変でしょ? 外に行って、また戻って……。時間もないっしょ?」

「いや、自分で行くからいいよ。てか、実は時間はたっぷりあるからさ」

「そうなの?」


 ミコトが驚いた顔をする。


「ああ、実は今日も、昼にはギルドに戻って来てたんだ。若干、暇してたまである」


 そう言うと、俺は現状を話した。武器をまだ買っていないから、【魔弾】でスライムを狩っていることや、だからこそMPが尽きたら、その日の狩りは終えてギルドに帰ってきていることを話す。


「そっか、MPが課題なわけだね」とミコトが独り言のようにぽつりと言った。

「なに、どうしたの?」

「ううん。な~んでも」


 ミコトがくすりと笑う。


「?」

「おれもさっき言ったみたいに図書室にしばらく通うよ。身体のこともあるけど、回復アイテムのレシピとかメモしたりお勉強したいからね」

「じゃあ俺も、図鑑読んだりして勉強しようかな」

「いいね! テスト前とか、よく町の図書館でさ、一緒に勉強やったじゃん?」

「ああ、そうだったな」


 中学の頃の話で、少し盛り上がる。


 ほんのちょっとだけ、この前までの友達同士の顔を見る感じで話をした。


 見た目も違う訳で、やっぱ俺も意識しちまう。それに身体の接し方とか、すべてが今まで通りとはいかないけれど、でもこいつは元に戻ろうと思っている。そのことは忘れずに、出来るだけ今まで通りの男どうしの親友として接して行こう。


 あらためてそう思った。

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