第三章 週末限定デートクエスト

第26話 (ミコト視点)しっかり食べてね

 朝──。


 フライパンで卵を焼く。半熟になってきたところで、スライスしておいたチーズを乗せて、チーズが溶けてきたタイミングで火から離す。


「ほれ、出来たよ~」

「うわ、うっまそ!」


 フライパンの上でグツグツ言っているチーズと半熟卵を見て、シンくんがよだれを垂らす。


 二枚のお皿の上にはレタスが乗ったパン。そこにチーズ・オン・半熟目玉焼きをスライドさせて乗せた。


「すげぇ。ジブリ飯みたいだ……。マジで感動」

「へへへ」


 目を輝かせているシンくんを見て、おれは妙に心がくすぐられた。


「上からもう一枚レタスを乗せて、パンで挟んで食べてね?」


 今朝のメインはこのサンドイッチだ。パンはふわふわなやつじゃなくて、フランスパンみたいな硬く乾燥したパンなんだけどね。バゲットってやつで日持ちする。


「それから、これがフルーツだよ」


 小皿に乗せたオレンジを出す。軽く火を通したオレンジに、溶かした砂糖を絡めたもの。


「オレンジもレタスも、若干俺たちの知ってるのとは違うよな」

「若干ね」


 レタスはアルトレタスって言う名前で、継続して食べると毒耐性が上がるそうだ。オレンジの方はマギアオレンジと言って、MPの回復速度が少しだけ上昇する。軽く火を通すことで、更にその効果が高まるらしい。


「さ、食べよ?」

「うん」


 おれはシンくんの隣に座った。二人で手を合わせる。


「「いただきま~す!」」


 バリッ……!


 シンくんが大きく口を広げて、サンドイッチにかぶりつく。


「どう? 味は」

「ん、めっちゃ美味い。チーズと半熟卵が、マジ最高!」


 口をもぐもぐさせながら、シンくんが笑顔になる。美味そうに食べるシンくんの様子を見てると、おれも食欲がそそられた。


「おれも食おうっと……。あ~、うっ!?」


 カツ……ッ!


 パンが口の端に当たって弾かれる。


 ぽて。


 具がはみ出て皿に落ちた。


 横ではシンくんが美味しそうにサンドイッチを頬張ってる。


「あ~、うっ!?」


 カツ……ッ!


 ぽて。


「んあ~! うっ!?」


 カツ……ッ!


 ぽて。


「だー、もうっ!!」

「そんなイラつくなって」


 皿の上にぽてぽてと具を落としつつムキになるおれを見てシンくんがそう言った。


「最近なんかがっつきすぎ。野獣みたくなってる時あるぞ?」

「たくさん食って体力と筋肉をつけたいんだって」

「よく噛んでゆっくり食ったほうがいいって」


 けど、マジで最近よくこぼすような……。なんだ? 口に上手く運べない感じ。ここんとこ身体感覚が変だ。


「て、あれ? シンくん、オレンジ全然食ってないじゃん」

「う~ん……。火ぃ通した果物、ちょい苦手なんだよ……」

「好き嫌いせずに食べなきゃだめだって!」

「わ、分かったよ」


 そう言うと、シンくんは顔をしかめながらオレンジを流し込んでいった。


 うんうん♪ それでよい、それでよい。


 おれは笑顔で頷いた。




 身支度をすませ、シンくんと外に出る。


「ねねっ、シンくん、シンくん! おれのこの服どう思う? 昨日買ったんだけどさ」

「どうって?」

「なんか変なとこない? そんなことない?」


 おれの今日の格好は新しいシャツに、その上からボタン付きの赤いベスト。下は黒のパンツだ。……やっぱスカートはまだ抵抗あるもんな。この先は挑戦しなければならんかもだけどね。

 そして今日はブラジャーの上からキャミソールも着てるから、ブラ透けもしてないぞ。


「別に気になるところはないな。なんか気になんの?」

「い、いや。あんまり自分で分かんないからさ」

「なるほどね。良いと思うよ。割とその。普通に、ミコトの見た目とは似合ってると思うけど……」

「そ、そう……」


 なんだろ? 似合うって言われてちょっと恥ずかしいような、でも嬉しいような。くすぐったいな……。


「さて、今日も元気に出発しますかね!」


 朝日に向かって手を上げるシンくんに、おれは頷いた。


 シンくんと一緒に、今日も並んで歩いていく。

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