第27話 (ミコト視点)お店に向かう道中に
図書室でのローラー作戦一日目──。
さっそく今日から、仕事終わりに調べものを開始していたけれど……。
「う~ん、それっぽいの見つかんないな~」
今日知り得た情報は、ラズフォード周辺、ランディウォル半島の伝統的な毛織物の柄だとか郷土料理についてくらいだった。
ハズレだ。身体を元に戻すっぽい情報には掠りもしなかったな。
あ~、目が疲れた。
ぐーっと手を伸ばして背伸びする。
ッ……!
「へ?」
ブツブツブツ──ッ!!
深呼吸して胸を張った途端、シャツのボタンが弾け飛んだ。
嘘っ!! マジで!?!?
ぴこんっ!
「痛!?」
ボタンの一個が前の席の人の額に当たる。
「??」
「……」
頭の上に「?」を作って顔を上げてキョロキョロすると、その人はおれと目を合わせた。
「ごごご、ごめんなさいっ//////」
ぺこりと謝ると、そそくさと席を立つ。
あれ、どこ行っちゃった? ボタン……。
三つくらい弾け飛んだぞ。
て言うか、下着が見えちゃってるし。なんかこれ、肌が見えてるよりも恥ずかしいかも……。恥ずかしいというより、エチケットとしてもいかん気がする。下着のちょろ見えはマズいよな……。
てか、ボタンどこ?
床をあっちこっち探すけど、一向に見つからない。
どっか奥の方に転がっていっちゃったのかな?
ふいに壁の時計が目に入って、思わず大きな声が出た。
「わ、いけねっ! 時間過ぎてんじゃん!」
飛び上がるように立ち上がる。後ろの壁にお尻が激突した。
お尻を手で押さえつつ、急いで本を本棚に戻す。
「い、急がなきゃ」
今日は歓迎会だ。シンくんたちと待ち合わせをしていた。オリヴィアさんやセリーナさんたちとも、一緒にお店に行く予定になっているのだ。けど、予定の時間を大幅にオーバーしていた。
本を読んでいる人の邪魔にならないように(もう十分邪魔してるかもだけど)、静かに、されど早足に図書室を出て行こうとする。
しかし気ばかりが焦ってしまい、また腰やお尻を何回も本棚とか長机にぶつけてしまった。小声で謝りながら図書室を後にする。
イタタ。ここの図書室、基本、幅が狭いんだ。ボタンは諦めるしかない。
「ハァ、ハァ……。あれ、誰もいない?」
一階へ駆け下りたけど、シンくんたちの姿がない。リタさんも確か参加するって言っていたけれど、受付にリタさんの姿もなかった。
もしかして置いてかれちゃった? んなわけないよね?
「あ! もしかして、ミコトさん?」
「え?」
知らない男の人に声を掛けられた。黒っぽい茶髪の男性で、きれいに髭を整えている。ちょっとだけ強面な人だ。
出で立ちからして、多分ハンターの人かな?
「俺はランドフルってんだ。ここのハンターだ」
「どうも」
「ミコトさんだよね?」
「ハイ、そうです」
そう言うと、軽く笑って外に親指を向けた。
「みんなは一足先に、店に向かってるぜ」
「え、そうなんですか?」
あちゃ~、マジで置いてかれちゃったんだ……。ちょっとショック。
「君を店まで案内するようにダリアたちから託ってるよ。俺も、ちょっと用があって、遅れて行くようにしてたからさ」
「そうだったんですね」
「うん。だから、ここで君を待ってたってわけ」
「うわぁ、それはお待たせしてすいませんでした」
そう言って頭を下げる。
「いいって! 用事はもうすんだの?」
「はい、大丈夫です!」
「そっか。なら行こう。主賓があんまり遅れてもよくないしね」
「そうですよね。行きましょう!」
おれはランドルフさんと一緒にギルドと後にした。
大通りは週末っぽい雰囲気で、道行く人たちもいつもより楽し気で開放的な感じだ。
ランドルフさんの少し後ろをきょろきょろしながら歩く。
「ラズフォードの生活には慣れたかい? てか、こっちに来て、まだそんなに経ってないんだっけ?」
「あ、はい。三日前に来たばかりです」
「ははは! それなら慣れるもなにもなかったな」
腰に手を当てて、ランドルフさんが笑う。
「でも、いい町だな~って思ってます。町もオシャレな感じだし、郊外の方は自然にも囲まれているし、雰囲気がいいですよね」
「嬉しい言葉だねぇ、この町出身としては」
ランドルフさんがおれをちらと見て、照れたように頬を掻いた。
顔は強面だけど、けっこう優しくて良い人っぽい。よかった。
「週末はいろいろと見て回るといいよ。いろんな場所で週末限定の露店が並んだりするからね」
「へぇ、面白そう」
「あ、そうだ!」
思い出したようにそう言うと、後ろを歩くおれを振り返った。
「道具を買いそろえたいなら、ギルドの中庭に行くといい。今週は蚤の市が開催されるからね」
「そうなんですか!? どんなものが売ってるんですか?」
「ハンターのお古が中心だな。ギルドで売っているような狩りに役立つ魔法道具なんかも割と安く手に入る。掘り出し物でも探しに行ったらどうだい?」
それいいな。シンくんと一緒に行くかな。
ずっと家でゴロゴロするのもいいけど、遊びに出かけるのもいいよね。誘ってみよっと。
シンくん、部活もしてるから、最近は子どもの頃(今も子どもだけど)みたく、週末に遊んだりとかしなくなってたもんなぁ。
「俺でよければ案内するよ?」
「案内ですか?」
「料理が美味い店にでも連れてってあげようか。中にはぼったくり同然の店もあるからさ……」
おいしいランチが食べられるお店かぁ。そういうのを開拓するのも新生活の楽しさだよね。
「どうだい、明日? ミコトさんがその気なら、酒のうまい店に連れてってあげてもいいよ?」
「う~ん、どうすかね……」
「おっと、こっちだった」
急に立ち止って、ランドルフさんが方向を変える。表通りから一本奥に入って行く。
なんか少し暗くて人通りも少なくなった。裏通りって感じの場所だ。
「この辺りからは飲み屋街だ。穴場も多い」
「そうなんですね」
「今度、仕事帰りにでも一緒に行くか? ラズフォードに来たばかりなら、このへんの店もあんまり知らないだろ?」
「そうですね。こっち方面はあんまり来ないかなぁ」
「っと」
短く声を上げて、またランドルフさんが立ち止まる。
「こっち」
「え!? こ、ここですか?」
薄暗い路地裏へと道が伸びていた。
「ここを通るのが近道なんだ。さ、どうぞ?」
手を差し伸ばして先に進むように手振りで示す。
「あ、はい……」
なんか、雰囲気が違ってきたな。
表通りは活気があってファミリーとか若者たちもいて、明るい夜の雰囲気だったけど、いつの間にか本当にディープな居酒屋街みたいな場所へ来ていた。
まだ空は明るいのに、通りにはすでに酔っぱらっているような人もちらほらいる。
ちょっと慣れないよね。こういうとこの独特な雰囲気。
ぐ……っ!!
「……!?」
えっ? え、なに!?
急にランドルフさんがおれの腰に手を回した。
驚いてランドルフさんを見上げる。
「あの……」
「…………」
「!?」
ギン……ッッ!!
みたいな。なんと表現していいのか分からないけど、そんな目で、ランドルフさんがおれの開いた胸元を見ていた。
と同時に、おれは衝撃の事実を思い出した。
そうだった。おれ今、女の子じゃん!
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