第28話 (ミコト視点)シンくん、助けて……!!

 この身体になってまだ三日……。周囲の視線とか言動とかでそれを意識することも多いんだけど、気を抜くと女の子になっているという事実自体を忘れることがある。


『一緒に飯でも行くか! 奢ってやるぜ。若いんだから遠慮せずたくさん食えよ!』


 的な、気の良いおっちゃんや体育会系な先輩のノリって受け取ってたけど、さっきの会話も、完全におれのこと女として見て、誘って来て、た……?? ちょっと分かんないけど、その可能性が高い気がしてきた。


 どっちにしろ、この状況、ちょいマズいかも。


 やんわりと腰を動かして振りほどこうとしてみる。


 ギュム──ッ!!


「!!」


 大きな手で、さらにがっしりと腰をホールドされた。


 や、やば。振りほどけない……。


 ほんのちょっとしたことだったけれど、力の差を分からせられた。


 この前の酔っ払いのことを思い出す。


 明らかにこの前の酔っ払いより、もしかしたらシンくんよりも力が強い。


 あの時、シンくんがいなかったらおれ、どうなってたんだろ?


 そう思うと、心がひんやりとしてくる。


 どどど、どうしよ!?


 この人、大丈夫だよね? 本当にちゃんとした人なんだよね?? 気の良いおっちゃんなんだよね??


「週末だし、嵌め外しすぎてる呑兵衛もいたりするからさ。しっかりおじさんが守ってあげるからね」


 おれを見て、ランドルフさんがウインクした。


「あ、はは」


 引き攣った笑い声しか出なかった。


 なんか紳士っぽいこと言ってるけど、がっしりと腰を掴んで逃してくれない。


 だんだん嫌な予感がしてきた。そしてある事実に気が付く。


 ちょっと待て。おれ、この人のこと知らないじゃん。いや、マジで全然知らないじゃん! 今日でギルドに来て三日目。どこかですれ違うくらいしててもよくない? あれ? この人、本当にラズフォードのハンターか? なんか、ヤバイ人とかじゃないの!?


 ね、ねえ。これって、実はかなりヤバい状況……!?


 一度その考えが浮かぶと、もうそうとしか思えなくなってきた。


 そ、そうだ。スマホ! スマホでシンくんに助けを呼べれば……。って、おれの馬鹿! スマホなんてないじゃん! くそっ、異世界の馬鹿っっ!!


 心の中で叫び、頭をぶんぶんと振った。


「ミコトさん? どうかした?」

「い、いえ……」


 いかん、いかんぞ! 世界にキレても仕方ない。けど、なんとかしなきゃ。


「お~い、ランドルフさん!」

「おお、みんな!」


 道の先から、男の人たちが四人、ぞろぞろとこっちへとやって来た。その中に、あのジャイルって人も混じっていた。


「ミコトちゃ~ん♡ 昨日ぶり」

「ぁ……」


 ランドルフさんも入れて、五人。あっという間におれは囲まれた。


 顔から血の気が引いていくのがわかる。


「紹介するよ。俺のハンター仲間。みんなミコトさんの歓迎会に参加するメンバーだ」


 四人に親指を向けてランドルフさんがそう言った。


「ど、ども……」

「ジャイル、お前やけに親しそうだな。もう会ってたのか?」

「うん」


 おれを見ると、ジャイルが笑って頷く。


「へぇ、この子が最近来たって言う娘?」

「うん。ミコトちゃんって言うんだ」

「可愛い~」

「オレ、タイプかも」

「オイ、お前ら! この子は、このボクがお茶にお誘いしてるんだからね?」


 四人のやり取りを見て、ランドルフさんがため息を漏らす。


「こらこら、お前ら初対面だろ? 会っていきなりそれはないぞ」


 そう言って笑った。そしてその顔をおれに向ける。


「それじゃあ、店はもうすぐそこだから……。行こうか、ミコトさん?」

「…………」


 恐怖で声が出せない。


 おれ、どこに連れていかれるの? ちょ、マジでどうしよ。こ、怖い……!!


 シンくん! シンくん、助けて……!! みたいに助けに来てよ。おれ、このままじゃ……っ!!


 身体の震えが止まらない。それを気づかれないように抑えるだけで精いっぱいだった。


 おれは腰を掴まれたまま、男たちに囲まれて暗い道を進んでいった。

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