第24話 ほかの転移・転生者の存在
「も、もう限界……! 腰、キツ……!」
大量の荷物を抱え、今日もどうにか家に帰り着く。
途中、食材とか生活必需品をあれこれと買ったのだ。昨日よりも多くのものを気兼ねなく買えた。その分、重い……。
「ミコト、早く鍵開けてくれ~」
「すぐに開けるから待ってて」
ミコトがポケットから鍵を出しつつ、玄関に駆けて行く。
早くテーブルに荷物を置きたい。鬼ハードなアビーさんの筋トレ後だから、今日は更にきつかった。
扉が開く音がしたので、俺はすぐに中に入ろうとする。
「あ、ちょっと待って!」
ミコトに止められた。
「な、なんだよ?」
「靴はさ。ここで脱ぐことにしない?」
ミコトが丸まった何かを広げる。それは買ってきた玄関マットだった。
「それと……」
麻袋の中から、次はスリッパを取り出す。
「ここで靴脱いでさ、部屋の中はスリッパで移動すんの」
そう言うと、俺を見てにかりと笑った。
「やっぱさ、家の中まで靴ってどうも落ち着かなくない? 家の中もすぐに汚れちゃうしさ。慣れの問題なんだろうけど……」
「確かにな。なら、ここのマットが玄関ってことで、今日から外で靴を脱ぐようにするか」
「うん、そうしよ」
ミコトが二足のスリッパをマットに置いた。青色のと緑色の。
「おれ、青いのにする。シンくんは緑でいい? 嫌?」
「何でもいいから、早く荷物置きてぇ」
「わ、分かった。ごめんごめん。じゃ、おれが青で、シンくん緑ね」
部屋に入るとテーブルにたくさんの麻袋や木箱を置いた。
買ったものはまず衣類。さすがに何日も同じ下着を穿くのはね……。制服も汚れてきてたし、シャツもちょっと臭ってきてたのだ。
それから食器類。グラスとかね。そして洗濯用洗剤にトイレットペーパー。
最後に食材。調味料の塩と砂糖とオリーブオイル。オイル瓶が割れてなくてホッとしたわ。それから、麻袋に入ったパンとパスタ。ホールチーズに卵。野菜と肉とフルーツも。
買ったものを収納して、その後は軽く二人で部屋の掃除をした。
「料理は、今日も任せていいのか?」
って訊いたそばから、ミコトは買ってきたエプロンを着て、野菜を洗いはじめていた。
「おう、任せて。今日はすっごくおいしくて、身体にいいものを作ってあげる」
今日の食材にはこっちの世界のものがいくつも含まれていた。味も調理法もよく分からないはずなのに、昨日よりもミコトは積極的に選んでいた。
ちょっと心配だけど、お任せするしかないな。本当に大丈夫、なんだよな……?
「なら、俺はまた風呂の方やっとくわ」
「うん!」
あと、薪も割っとくか。それに水瓶もだいぶ減ってるから、後で飲み水も補給しといたほうがいいな。
水瓶を見ながらそう思った。
風呂掃除から始めようと奥へと行き、すぐに戻る。
「けっ、けど、今日はお風呂、俺から先に入って良い!?」
「え? うん、別にいいよ?」
「オッケー、サンキュー!」
毎日あんな香り嗅がされたら、たまったもんじゃないからな。今日は落ち着いてゆっくりと風呂に入りたい。
「な、ミコト。これどう思う?」
夕食中、無心で肉をがっつくミコトの前に、俺はトイレットペーパーを乗せた。
「あむ! ぅあむっ……!? なに? あむっ!」
飢えた野獣のような目を俺に向けるミコト。
その手は休むことなく、フォークで肉を刺しては口に運ぶ。だけど、口の端にぶつかって、ぽて……っと皿の上に肉が落ちた。
なんか、最近よく食い物をこぼすよな、コイツ……。
「トヒレットヘーハーが、どうかひた?」
口をもぐもぐさせながら、首を傾げる。
「この形だよ! 俺たちの知ってるロールのトイレットペーパーじゃん!」
そう、トイレットペーパーも前の世界のものとほとんど変わらなかったのだ。昨日ティッシュも買ったわけだけど、それもティッシュ箱が使い捨ての紙箱ではなく、中身を入れ替えるタイプだった以外はそんなに変わらない。肌触りはやはり劣って、多少ざらついてはいるが。
「この世界に馴染まないっつうか。ミスマッチな気、しない?」
「そうなのかな? けどさ、俺たちのいた世界とは違うわけだしさ。そもそも魔法が存在したりとか、魔物がいたりとか。だから、そういうもんなんじゃないの?」
その可能性も、ないわけじゃないが……。
「今日、アイアンジムってところに行ったって言ったろ。そこも近代的な筋トレの設備だったんだ。それにオリヴィアさんが言っていた、最近始まった週休二日制も……。まるで日本みたいなさ」
ミコトは俺の話を黙って聞いていた。
「それらから一つ仮説が導き出せると思うんだ」
「それって、まさか……」
ミコトも俺の言わんとしていることが分かったようだ。
「現代人……、と言うか、俺たちの世界からの転生者や転移者がいる可能性が高いんじゃないかな。もしかしたら日本人じゃないかもしれないけど」
以前にも俺たちと同じようにこの世界に来た人がいて、その人たちが俺たちの世界のシステムとか技術を広めている可能性がある。
「もしそうなら、会えれば仲良くなれるかもね」
ミコトはそう言った。
「仲間になれたら協力もできるし、強い味方になりそう」
「かもな」
もう一つ、気になっていることもある。
オリヴィアさんが言っていた。レベルの話。魔人級とか神威級とか、もしかするとそいつらの正体って……。
いや、まだそれは分からないな。
「てか、シンくんさぁ……。もーっと大事なことがあるんじゃない? なんか忘れてるよね」
「えっ……? な、なに?」
不意を突かれて俺は戸惑った。
ほかに何かあるっけ?
本当に何も思い浮かばない。けれどミコト、不満げな表情で俺を見て言った。
「どうして、おれだけ女の子の身体になってるのかってことじゃん!」
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