第23話 レベルアップに限界はあるの?

「お~い、シンく~ん!」


 ギルドのエントランスに出ると、ちょうどミコトがオリヴィアさんと一緒にいるところだった。ミコトがこちらに手を振る。


「仕事、もう終わったの?」

「うん。今日のお給金を貰ったとこ」

「そっか。あ、そうだ! 俺、今日遂に金貨をゲットしたぞ。ホレ」


 二枚の金貨を見せつける。


「すっげぇ、メッチャ金! きれー」


 ミコトが金貨を一枚摘まむ。目を輝かせてそう言った。


「スライムの魔石を換金して手に入れたんだ。毎日これくらい稼げたら、問題なく暮らしていけるよな」

「うん。あ、そうだった! さっき、オリヴィアさんに言われたんだけどさ」


 そう言って、ミコトがオリヴィアさんを見やる。


「明日、仕事が終わったら歓迎会を開いてくれるんだって」

「歓迎会?」

「ええ」


 笑顔で頷くオリヴィアさんの表情はいつも通りで、昨日と何も変わらなかった。先ほどあんなに激しい戦闘訓練をしていたとは思えない。


 おそらくあれは日常で、ハンターとしても俺たちよりも相当強いんだろうな。


 オリヴィアさんが言うに、明日の夜、俺たち二人を歓迎する食事会を開いてくれるらしい。


「明日はもう週末だし、次の日はお休みだから、みんな気兼ねなく楽しめるでしょ?」

「……ここって、お休みがあるんですか?」


 少し驚いて、そう訊いた。


「ええ。ハンターギルドは、その性質上、緊急事態に備える必要があるから、休日でも常時、誰かが詰めてはいるし、緊急招集がかかる場合もあるけれど、それ以外は週末はお休みよ」


 週末って概念もあるのか……。


「お休みは週に二日なんですか?」とミコトも訊く。


 オリヴィアさんは頷いた。


「少し前まで休日は週に一日だけだったけどね。新しくもたらされた習慣なの。最近、町のお店なんかも週に二日お休みするところも増えてきているわね。このギルドも、ちょっと前から、週休二日になったんだよ」


 週休二日制……。今の日本みたいだ。


「シンくん、どうしたの?」


 黙っているとミコトに上目遣いに見つめられていた。


「な、なんでもない」

「どうする? もう帰る?」

「そうだな。そろそろ帰るか。また色々と買い物しなきゃならないし」

「そうだね。あ、ちょっと待って!」


 そう言って、ミコトは朝みたいに水晶玉にぺたりと手を乗せた。


「はぁ、まだかぁ……!」

「ハハハ! 俺、レベル一つ上がったんだぜ?」


 自慢げにそう言うと、ミコトが目と口を大きく開けて俺を見上げた。


「マジで!? くっそーっ!」


 背が低くなったせいで、ミコトの目線はどうしても上目遣いだ。だからなのか、なんだろ? 愛くるしい……。


「焦る必要はないよ、ミコトちゃん。少しずつ強くなっていけばいいの!」


 オリヴィアさんが励ますようにミコトの肩に手を置いた。


「ちなみにオリヴィアさんのレベルってどのくらいなんですか?」

「わたし? わたしは30だよ」


 ……30か。


「ちなみにレベルって限界があったりしますか? 上限100まで、とか」

「いいえ。レベルに限界はないよ──」


 俺が訊くと、オリヴィアさんはそう答えた。


「──ただ、どんなに毎日鍛えても180あたりからは、なかなか上がらなくなるね。180越えは努力だけではどうにもならない領域って言われているわ。才能や運、血筋なんかも重要だって言われているわよ」


 そして注意が必要なのは、何もしないでいると逆にレベルが下がることもあるらしい。怠けたりしたら筋力や身に着けた技が衰えるのと同じだ。


 この辺も、ゲームとはちょっと違うんだな。リアルだね……。


「因みにレベル200以上は超人級。300以上を英雄級って呼ぶの。更にその上もあって、400以上は魔人級、500に達した人間は歴史上ほんの数人で、神威級と呼ばれているよ。わたしも会ったことがあるのは超人級の人だけだね」


 神威級……。どんだけ強いんだよ。


 そう思っていると、ミコトが元気よく手を挙げた。


「はい、先生! わたしも質問いいですか?」

「はい、ミコトさん。なんでしょうか?」

「わたしの今のステータスで、モンスターと戦うには、あとどのくらいレベルを上げたらいいと思いますか?」


 ミコトに訊かれて、オリヴィアさんがミコトのステータスを見る。


「う~ん、そうね。ミコトさんは典型的な魔法使い型のステータスみたいだから……」


 顎に指を当てて、オリヴィアさんが難しい顔をする。


「弱点の防御力は防具でカバーするとして……、まずはレベル4、いえ、最低、レベル5はあったほうがいいと思うよ。そこまでいけば、低レベルのモンスターであれば問題なく狩れると思うわ」

「レベル5かぁ……」


 そう言うと、ミコトは俺を見上げた。


「早くシンくんと一緒に戦えるように頑張るねっ!」


 胸の前で小さくガッツポーズを作る。


 可愛い……。


 親友のミコトだってのは分かってんだけど、でもやっぱ、見た目は完全に女の子なわけで……。


 そんな健気で可愛い女の子を見ていると……、俺はちょっとだけ、いじめたい気分になってしまった。(←ドS!?)


「だったら、ミコト。いいところがあるぜ?」

「なに?」


 ミコトにもあの地獄を味わわせてやろう。


「奥の建物の二階にトレーニング施設があるんだ。知ってるか? アイアンジムってところ。そこで鍛えれば? アビーさんって人が親切だから、その人に教えてもらうといいよ」

「へぇ、今度行ってみるよ」

「ああ、是非そうしてくれ……」


 俺は心の中で、ニチャァァと笑った。

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