第32話 青いスカーフ

 週末──。


 今日も天気が良くて、雲ひとつない青空が広がっている。


 俺たちは、朝から二人で洗濯をしていた。服などと一緒にベッドのシーツも洗う。もちろん洗濯機なんてないから、大きなタライと洗濯板で手洗いだ。


 こんな昔話みたいなことする日が来るとは思わなかった。こういうの、魔法でどうにかならないもんかね。


 裏手の川のそばで、二人して汗を掻きながら洗っていった。洗い終えると、庭の木と軒先にロープを張って、服やシーツを干していく。


「一日天気が良さそうだしさ、枕も天日干ししとこうよ」


 ミコトはそう言うと、庭のベンチに枕を並べた。空を見上げて、額の汗を拭っている。


「洗濯も終わったし、そろそろ出かけるか?」

「そうだね」


 今日は町でいろいろと買い物をする予定だ。ランチも昨日の歓迎会で教えてもらった評判の店に行くつもり。けれど、まずはギルドへと向かう。


 ミコトから聞いたのだが、週末のギルドでは、蚤の市が開かれているそうだ。いろんなハンター道具が安く手に入るとか。


 俺たちは着替えると、出発の準備をすませた。


 ミコトは昨日も着てたボタンが弾け飛んだシャツを着ている。ただ昨日と違うのは麻の紐をボタンの穴に巻いて縛っていること。


「どうよ? このアイデア」

「ま、いいんじゃね? ま、普通に谷間、見えてっけども……」

「ははは」


 困ったように頭を掻いた。


「下から、なんか着ればいいじゃん」

「う~ん、下着のちょろ見えはエチケット的にどうかな、と。ぶっちゃけ余計に恥ずかしいんだよね」


 そんな訳で、下着ちょろ見えよりも肌見せを選んだんだとか。


「まあ、下着が見えるよりかはね……」

「なら、ちょっと待ってて」


 俺はクローゼットに仕舞っていた紙包みを取り出した。


「これ、ミコトにやるよ」

「なにこれ、スカーフ?」

「それを首に巻いときゃ、ちょっとは違うだろ?」


 胸元も隠せるだろうしな。


 青色のスカーフをミコトが広げる。


「……これってさ。この町へ来た日に、おれが服とかを買ってた店で買ってたやつ?」

「そう」

「これ、おれのために買ってくれてたの?」


 目をパチパチさせながら、ミコトが俺を見た。


「い、いや、別にそう言うわけじゃないんだけど」


 俺は恥ずかしくなってすぐさま否定した。


「あの時はなんとなく、何か買わなきゃいけない雰囲気だったからさ。どうせ、俺は使わないし……」

「そう。なら、ありがと。遠慮なく使わせてもらうよ」


 そう言うと、ミコトはスカーフを首に巻いた。


「イイ感じ? どう、似合ってる?」

「あ、おう」

「じゃあ、行こうか? 掘り出し物が見つかるといいね」

「そうだな」

「おれは裁縫道具一式を買いそろえたいな。制服のズボンも裾上げして穿けるようにしたいしね」


 そう言いながら、ミコトが外へ出て行った。


 う~ん、やっぱ言えない。確かに、あのスカーフは半分不可抗力で買わざるを得なかった。けど、本当はミコトの宵闇のような青い眼に似合ってるから、咄嗟にこの色を選んだなんてな……。

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