第31話 悪戯洗礼を浴びるミコト

「ミコトちゃ~ん」


 上機嫌な声で、セリーナさんが突然、ミコトの腰に手を回した。


「セリーナさん!?」

「ミコトちゃん、コイツには本っっ当に気を付けてね? このジャイルって男は昔っから女たらしで、ハンターに受付嬢、ギルドで働く女性のほぼ全員に声をかけてんのよ」


 なっ、なんだと!? そんな尻軽男にうちのミコトはやらんっ!!(←誰!?)


「セリーナ、妙な言いがかりはよしてくれ」


 ジャイルが困ったように笑う。


「ボクはどんな女性に対しても真剣に向き合っているつもりさ。誰に対しても、本物の愛で向き合ってるんだから……」

「だ~から問題なんでしょうがっ!」

「仲が……良いんですね」


 二人のやり取りを見て、ミコトがためらいがちに訊いた。


「仲が良いって言うよりぃ、腐れ縁ってやつ~? 幼馴染だし、同い年だしね~」


 セリーナさんは呆れたようにため息を吐き、首を横に振った。そして、シャンパンをラッパ飲みする。


「フゥイ~……! すいません、店員さ~ん、シャパン追加で~!」


 瓶を空にすると厨房、ではなく明後日の方向に向かって叫んだ。


 あぁ。こりゃあ、完全に酔っ払いだな……。


「それよりもさぁ。ミコトちゅあ~ん♡」


 セリーナさんが急に甘えた声でミコトに顔を近づける。


「ななな、なんですか!? セリーナさん……」

「お仕事しながら、ず~~~っと思ってたけど、ミコトちゃんって、すんごい大きいよね、お・っ・ぱ・い♡」

「えっ? は、はぁ……」

「大きいのに、形もきれいで、すごく魅力的……」


 セリーナさんが悪戯な笑みを湛えて、ミコトの胸を覗き込んだ。普段と違うセリーナさんの様子にミコトも戸惑っている。


「サイズはいくつなの? 教えてよ?」

「い、いやぁ。それは、その。ここでは、ちょっと恥ずかしいと言うか……」

「じゃあ、ちょっとだけ、お姉さんに触らせて?」

「ええっ!?」

「一回だけ! ちょっとだけでいいから。ね? お願い」


 なっ、なにっ!?


「あっ! あたしも触りた~い」

「自分もいいですかっ!?」

「私も~」


 セリーナさんの一声で、ほろ酔い気味な女性たちが次々とミコトに近寄ってくる。


「ちょ、ちょっと、皆さん……」


 そんな女性たちを見て、ミコトがあたふたとしている。


「実はあたしの工房でも噂になってたんだよねぇ、君のこと……。おっぱいの大きな女の子が新しくギルドに入ったってさ」

「自分も、中庭で見かけた時から、気になってたんすよね」

「大きさもそうだけど、すごい形だよね?」

「ホラ、みんなミコトちゃんのお胸に興味があるんだって。だから、ね? いいでしょ?」


 セリーナさんが最後にそう言った。


「い、いやぁ……。恥ずかしいっすよ」


 な、なんだこの展開……!?


 ミコトは困り顔で胸の前で手をパタパタを振るのだが、女性たちはピアノを搔き鳴らすように指を動かしながらミコトに近付き──。


「隙あり!」

「あ//////」


 セリーナさんが腰に回していた手を上へと滑らせて、ミコトの胸を手の平に乗せるように触った。


 むに……。


「うほっ!? すごっ!? なにこれ!!」


 驚きのあまり目を丸くして、周囲に響くような声を上げる。


「すごい質量っ! それに、むにっむに!」


 それを聞いて、次々とミコトの胸に女性たちの手が伸びていく。


「ちょ、ちょっと待ってください。みなさん……」


 さわさわ……。


 誰かがおっぱいを撫で回す。


「うわ! 捏ねたてのパン生地みたいにもっちもち~♡」

「ちょ、あひひ……!」


 つんつん……。


 別の誰かは、横から指で突っつく。


「すんごいボリューミー。それでいてまん丸で、本当にきれ~なお乳っすね」

「アハハハハ! ちょ、皆さん……。くすぐったいっす!」


 なでなで……。


 別の一人は、手全体でミコトのおっぱいを撫で回す。


「あぁ~、手が幸せ~」


 セリーナさんが、ミコトを羽交い絞めにしてモミモミと豪快に揉みしだいた。


「くふ……っ!!」


 ミコトが笑いながら身をよじる。


「も、もうダメですって。ホント、くすぐったいです……!」

「…………」


 なんだか、すごい光景だ。 男子禁制の園を覗き見している気分。


 ミコトよ、すまない……。


 俺は悪酔いした女性たちに弄ばれるミコトを見て、妙な興奮を禁じえなかった。


「ホレホレ、ホ~レ」

「イヒヒヒヒッ! んにゃ!? っ//////! あんっ//////!」


 ミコトの肩がピクンッと跳ねた。顔を真っ赤にして、涙目である。


 ミ、ミコト……、まさか感じてる!?


 い、いかんいかん! 流石にかわいそうだな。止めさせないと!


「皆さん、悪酔いしすぎですよ!」


 まずはセリーナさんを引き離す。


「も、もうちょっとだけ揉ませてぇ~」

「ダメですったら! ミコトが感じて──じゃなくて嫌がってますから。いい加減にやめてください!」


 一人また一人、女性たちをミコトから引き離す。けれど、女性たちは手をモミモミしながら、また近づいてくる。


 キリがねぇな。


「ジャイルさんたちも、この人たちを止めるの手伝ってくださいよ! ……て、あれ?」


 そう言って、ちらっと横を見ると、ジャイルたちがいない。よく見ると、悪酔いした女性たちに混ざって、ジャイルたちも真顔のまま、ゾンビのようにこっちに近寄って来る。


「お前らもかっ!」


 俺は彼らを言葉通り、蹴りで一蹴した。


 ダメだ! コイツら当てにならねぇ!


「ミコトちゅあ~ん♡」

「ひぃぃ! シ、シンく~ん! この人たちなんとかしてよ」


 ミコトが俺にしがみついてきた。


「おう! 任せとけ!」

「ミコトちゃんを独り占めしようなんてずるわよ~」

「そうっすよ~」

「何が独り占めだよっ!」


 俺は触ったことも揉んだこともねぇっての!


「ええい、くどいっ! 散れ、散れいっ!!」


 こうして俺は、ミコトに近寄る女性たちをちぎっては投げちぎっては投げを繰り返し、いつの間にか歓迎会はお開きとなった。


 悪酔いした女性たちは、パーティーに誘う男性たちよりも、ある意味、凶悪であった。

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