第30話 ギルドの愉快な仲間たち
俺とミコト、参加したギルドの面子、それぞれに自己紹介も終えて、俺たちは近場の人たちと談笑しつつ料理を楽しんだ。
「二人とも」
その声に振り返ると、赤い髪の女の人が向かいの席からこちらを見ていた。
「改めて自己紹介させてくれ。私の名はグレイス。ラズフォードの
ギルド長のグレイスさんはすらりとした長身の魅力的な大人の女性だ。けれど、ギルド長と言うだけあって風格と言うかオーラが漂っている。切れ長の目はクールで、その赤い瞳に見つめられると、思わず背筋がピンと伸びる。
「シン・スサノです」
「ミコト・クシナです。よろしくお願いします」
「ずっと挨拶の機会が無くてすまなかったね。ここのところ忙しくてさ……」
そう言って、グレイスさんは肩を竦めた。そして俺たちに手を差し出した。
「今更だけど、ようこそラズフォードへ! そして我らがギルドへ! 君たちを心から歓迎するよ」
「「ありがとうございます」」
俺たちはグレイスさんの手を取って握手を交わした。
「ああ、そうだ。ついでに彼のことも紹介させてくれ──」
グレイスさんが隣に座る灰色の白髪頭のおじさんの肩を叩く。
「彼は私の良き相棒、エルトンだ。ギルド運営において事務を統括している。事務方のトップってやつだな」
「やあ。シンさんとミコトさん、だったね? はじめまして」
俺たちを見て、エルトンさんがそう言った。すでにお酒が回っているのか、顔を赤くしてとろんとした笑顔になっている。
「僕は執務室での書類仕事が中心なんだ。だからハンターの皆さんとはあまり関わり合うことがないんだけど、よろしくね。執務室にも気軽に遊びに来てよ」
「よろしくです!」
ミコトがぺこりと頷く。
「な~んて言っても、誰も来てくれないんだよなぁ。ハハハッ!」
「だったら今度、ホントにお邪魔しちゃいます」
「おっ、そうかい? それは嬉しいね」
やり取りを見ながらグレイスさんが言う。
「現場の人間が顔を会わせる機会は少ないかもしれないが、仲良くしてくれ。事務の職員はギルド運営を支えてくれている縁の下の力持ちだからな」
「いやはや、そんな風に言われると恐縮しちゃうなぁ、ハハハッ!」
グレイスさんの言葉に、エルトンさんは照れたように頭を掻いた。
「ねぇねぇ、そこのお二人さん」
肩をつつかれて振り返る。リタさんだった。挨拶の時に知ったけど、彼女は十七歳らしい。
そんなに歳は変わらなかったんだなぁ……。
「どう? この町の暮らしやハンター生活には慣れたかな?」
「少し落ち着きました」
俺は答えた。
「ミコトさんも、ポーション作り頑張ってるみたいね。みんな助かってるって言っていたよ」
「そうですか!? 嬉しいっす!」
「いずれはクエストにも出る予定なの?」
「はい! シンくんと一緒に依頼をこなしたり、ダンジョンってところにも行ってみたいので」
俺の方をちらと見て、ミコトが頷く。
「けど、まだまだ弱々なので、レベルが5になるまで、頑張って身体を鍛えます!」
「そ、頑張ってね! 受付として応援してる。分からないことがあったら、遠慮せずに聞いてね?」
「はい、ありがとうございます!」
「シンくんも──」
「なにっ!? 早くレベルアップをしたいだって!? ならば、筋肉の出番だな!」
リタさんが何か言いかけた時、誰かの声がそれを遮った。
奥の席から誰かが立ち上がる。コングのように飛び上がり、俺たちの席まで跳躍してくる。
「うおっ!?」
「うわぁ!?」
黒光りするマッスルボディーなお姉さんが俺たちの目の前に、大きな音を立てて落下して来た。アビーさんだ。
「もし、早くレベルを上げたいのなら、是非我がアイアンジムへ! 君も私と一緒にバルクアップしよう!!」
アビーさんがミコトに見せつけるように上腕二頭筋を隆起させる。
アビーさん、今日もキレてるな……。そして、脇に抱える木のボウルには、ブロッコリーと鶏のささ身肉が山盛りになっている。流石である。
「シンくん」
アビーさんに呆気に取られていると、リタさんがそう言ってきた。
「あ、話が途中でしたね」
「うん。シンくんも、レベルが上がるまではあんまり無茶はだめよ」
「分かってます」
「これからも、しばらくはソロでダンジョンに入る予定?」
「そのつもりでいます」
そう言うとリタさんは静かに頷いた。
「なら十分に気を付けてね。みんなが無事に依頼を終え、ダンジョンから生還することが、ハンターを送り出すわたしたち受付にとっての幸せだから」
そんなこと思ってたんだ……。クエストを斡旋したハンターが傷ついて帰ってきたりしたら、いろいろと思うところがあるのかもしれないな。
「大丈夫です。十分に気を付けてますから!」
俺は力強く頷いてみせた。
けど、いつも丁寧な口調のリタさんが、こんなにくだけた感じなのは新鮮だな。同じ学校の先輩とこっそり付き合ったりしたら、こんな感じなのかもしれない。
学校では恋人同士なのを知られないようによそよそしくて、外ではお互いにタメ口で話す、みたいな。そんな関係、ちょっと憧れる。
それとも、大人になって働きはじめたらこんな感じなのだろうか? こっちの世界の成人は十五歳らしい。ちなみに、未成年って理由で、十五歳未満はハンターにはなれないようだ。十五歳のミコトはギリギリだったって訳だ。
ドン──!
「のわっ!?」
考え事をしていると、急に誰かから尻アタックされて吹っ飛ばされた。
痛ぇな、なんだよ。えっ?
ハンターの男たちにミコトが囲まれていた。
「ミコトさん!」
一人の男が、ミコトの手を取って顔を近づける。ミコトは驚いて目を丸くしていた。
「今度、俺と一緒にクエストに出かけませんか!?」
「いいや、そんな軟弱な奴ではミコトさんに見合いませんよ。どうでしょう? 私とパーティーを組んでもらえないでしょうか?」
「はぁ!?」
コイツら、なに勝手なことを! ミコトは俺の……!
俺は急いで立ち上がった。
「君たち、やめたまえ」
ミコトに詰め寄る男たちを止めたのはジャイルさんだった。
ジャイルさん……?
視線で男たちを威圧すると、ミコトに微笑みかける。そして……、ジャイルさんはミコトの肩に手を回した。
ジャイル、てめぇ!! どさくさに紛れて何してんだよ!!
「ミコトちゃんは、このボクとパーティーを組む予定になっているんだ。悪いね」
「うん。言ってませんね、そんなこと」
ミコトが素早く、ツッコむように返した。
ジャイルは肩を竦めて笑う。
困った子猫ちゃんだ……。とでも言いたげな表情である。
「そうだっけ? ならば今週末、一緒にお出かけしない? クエストの前にお互いの相性をじっくりと確かめ合おう」
「ちょ、ちょっと待った!」
俺はミコトの横に座る男を押しのけて椅子に座る。ミコト越しにジャイルを睨む。
「勝手なこと言わないでくださいよ! ミコトは週末は、俺と! その……」
「ん? 何か二人で予定を入れているの?」
ジャイルは俺ではなくミコトを見て訊いた。
「ええっと、予定とかはまだですけど……」
「第一、君たちは、ただのパーティー仲間なんだろ?」
「だ、だったらなんすか?」
むすっとして俺は言い返した。
「普段、仕事上でパーティーを組んでいるからと言って、週末まで一緒にいる必要はないんじゃないか?」
「そ、それは……! 別に、休みの日に友達と遊ぶなんて普通でしょうが!」
あれ……? 俺、なにをやってんだ?
ジャイルと言い合いながら、そんなことをふと思った。
確かに休日までミコトと一緒にいる必要はない。ミコトが一人で外出しようが、誰かとどこかに出かけようが勝手なはずなのに……。
俺、なんでこの人とミコトのこと取り合ってんの?
俺が黙っていると、ジャイルはまた、ミコトに顔を向けた。
「明日はラズフォード出身のこのボクが、ミコトちゃんに名所を案内してあげるよ。お昼も一緒にランチなんかどうかな? パスタがすごく美味しいお店を知ってるんだ」
「へぇ、パスタですか……」
「ってオイ、ミコト!」
「ジャイル~、あ~んた、いい加減にしなさいよぉ~!」
急に間延びした声が飛んできた。見ると、セリーナさんがシャンパンの瓶片手に仁王立ちしていた。
この人は確か、ミコトと同じく回復アイテムの工房で働いている人だよな? ミコトが来る前に挨拶してて、その時、すんごい優しそうなお姉さんって感じだったのに……。
セリーナさんの様子は、なんだかさっきと違っていた。
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