第3話 先っちょが……

『それじゃあ運賃はその身体で払ってもらおうか? ぐへへへ……!』的な展開にはならず、オッサンは俺たちをギルドのすぐ近くまで送ってくれた。


 体感で一時間くらいだったろうか? その間に俺たちは行商人のオッサン──ロジャーという名前らしい──に、それとなくこの世界のことを訊いた。転移者がメジャーな存在なのか特異な存在なのか分からないため、その点は隠したけど。


 それで、聞き出せた話によると──


 まずここはグリンデル王国の南西に位置する半島のようだ。グリンデル王国とは大陸の西にある大きな島国らしい。


 そして、やはりと言うべきか魔法が存在する剣と魔法の世界っぽい。あと魔物も存在する。けれど町や街道沿いではそこまでの脅威ではないようだ。魔物が嫌がる忌避アイテムも多く出回っているし、凶暴な魔物は人があまり踏み入れない場所に生息しているっぽい。


 時々、街道近くに魔物が発生して、そんな時は猟兵ハンターギルドに駆除の依頼が出されるんだとか。


 そう! やっぱりありました冒険者ギルド! ここでの名前は猟兵ハンターギルドって名前らしいけど、その仕事内容は異世界転生系のアニメやweb小説の冒険者とほとんど変わらない。

 ギルドに集まる依頼を受けたり、自分たちでダンジョン探索したりなどなど。ダンジョンも普通にあったね──。


 それにしても、ロジャーのオッサンはミコトとばかりしゃべろうとするから必要な情報を聞き出すのに苦労を強いられた。後半は、俺の意図を理解したミコトがそれとなく訊いてくれて助かったけど。


 なんかアイツだけリンゴっぽい果実とか貰ってたし……。


 馬車から降りて周囲を見渡す。ヨーロッパの古都って感じの街並み。俺たちの世界で言う中世ヨーロッパ的……、でももっと的確に表現するならゲームの街並みっぽい感じ。ドラ○エとかの。


「ええっと、猟兵ギルド、猟兵ギルド……。この辺りだって言ってたよな?」


 キョロキョロしながら歩いていると、横にいたはずのミコトがいなくなっていた。振り返ると、ずいぶん後ろを歩いている。


「おい、早く行こうぜ。って、何やってんの?」


 ミコトはなぜか猫背になって胸を押さえるようにして、そろりそろり歩いていた。ちょっと目が潤んでいる。


 それで俺は、さっきのオッサンのヤラシイ目線を思い出した。まあ、自分も見ちゃってたけど……。


「あ。やっぱ視線とか、気になる感じ?」

「いや、違う。そうじゃなくてさ……」

「なに?」

「擦れるんだよ、先っちょが……」


 恥ずかしそうにミコトがそう言ったので俺は思わず首を傾げた。何のことだか理解できない。


「だから……先っちょだよ、先っちょ!」


 小声で訴える。


「……あ! 先っちょって、乳首?」

「そうだよ! ムズムズするって言うか、くすぐったいって言うか、痛いって言うか……。多分だけど、ブ……、ブラしてないからだと思う」

「あ、あぁ~……」


 そんなもんなのか?? 男にも乳首あるけど、そんなことにならないけど……?


 すごく純粋に疑問に思った。


「この町、下着とか売ってるかな?」


 背を丸めたまま、ゆっくりと歩きながら俺の横に並ぶ。


「そりゃあるだろう。けど……俺たち無一文だぜ? 取りあえず早くギルドに行ってみよう」

「う、うん。……あと、股とかも食い込んで痛いんだよね」


 ため息交じりにそう言った。見ると制服のズボンがぴっちりフィットして丸いお尻や太腿のラインが見えている。


 ミコトは元々華奢な体型だったし、お尻や太腿のサイズも合っていないようだ。


 ……う~ん、こりゃ速攻で金を調達する必要があるな。


 そう思いながら猟兵ギルドの中へ入った。

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