第2話 背が縮んで服はブカブカ、でもお胸はパツパツと言うお決まり展開

 俺と櫛奈くしなみことは小学生の頃からの親友だ。小五の時にミコトが転校してきて同じクラスになって、すぐに意気投合して……。以来、高校までずっとクラスも一緒だった。


 そのミコトが、よりにもよって俺のどタイプな見た目の女の子になって目の前で頭を抱えている……。


「どどど、どうなってんのっ!? なんで女になってんだよ!?」

「落ち着けって。それよりも、これからどうするかを考えよう」

「落ち着けるかっ! おれにとってはこっちの方が大問題だって!」


 ミコトが顔を俺に近づける。大きくてくりくりとした目が怒っている。


 うわ、カワイ……、って何考えてんの、俺っ!!


「わ、分かったから……! いったん落ち着こうよ」

「はぁ……。いったい何がどうなってんのか分かんねぇよ……」

「俺たち電車に撥ねられて多分死んで……この異世界に転生、いや正確に言うと転移したってとこだろうな」


 俺の見た目は変わってないっぽいし、転移したとみて間違いない。転生したら、だいたい赤ちゃんから始まるか別の見た目や年齢になってたり、亜人になってたりするもんな。異世界転生のお決まりでは。


「転移?」

「ここがゲームみたいなファンタジー世界なら、その辺から魔物が飛び出してくるかもしれない」

「ええっ!? 急に怖いこと言うなよ……」


 そう言うと、ミコトがきょろきょろとあたりを見渡す。


「今の時間帯もわかんないけど、とにかく早く人がいる町に向かおう」

「そ、そうだな。けど、その前に魔物が出てきたらどうする?」

「それなら問題ない」


 俺は立ち上がる。


「ほぼ間違いなく、俺たちはとんでもないチート能力を手にしているはずっ!」

「?」

「だからまず、動く前にステータス確認だっ!」

「すてーたす??」


 ミコトはこう言ったことをあまり知らない。ポカンとして首を傾げた。


「見てろ。こうすることで自分のステータスやスキルを確認できるはずだっ!」


 右手を天にかかげて叫んだ。


「ステータス・オープンッッ!!」

「…………何してんの?」

「っ//////!! ダメなわけっ!?」


 恥ずかし……っ!


 俺は顔を両手で隠してしゃがみ込んだ。


 いや、挫けちゃだめだ!


「ステータス・ウインドウ! ……メニュー表示! っ……コントロールパネル!」

「ねねっ、シンくん! あっちの方に道があるっぽい!」


 俺を無視して丘の下を指差し、ミコトがそう言った。


「取りあえずあそこ行ってみ──ふわぁっ!?」


 そして変な声を出して、こてんと転ぶ。


「お、おい、大丈夫かよ? 坂になってるから、気を付けねぇと」


 慌てて駆け寄った。手を差し伸べる。


「ちょっと、え? うわ……。おれ、縮んでる?」


 俺の手を取って立ち上がると、ミコトは自分の身体を眺めた。


 確かに制服が上も下もぶかぶかだ。ミコトはため息を吐いて取りあえずズボンの裾をまくっていた。


「靴もパカパカだよ」

「転ばないように慎重に降りよう。じゃないと、おむすびころりんみたいに転がってくぜ?」


 どうにか道まで出た。道は蛇行して伸びている。


「これ、どっち行きゃあいいんだ?」

「そうだよね。ここで間違ったら町から離れるかもしれないし……」


 取りあえず歩き出す。小高い丘があったら登って周囲を見渡してみようと決めた。


 歩いていると、後ろでカチャカチャと音がして振り返る。


「何やってんだよ?」


 ミコトがベルトを外してた。


「ちょちょ、お前何してんの?」

「サイズが合わないんだよ。ずれ落ちるし……。あとなんか、苦しっ!」


 そう言ってカッターシャツと下着をバッとめくった。


「ちょ、何やってんの!?」


 見ないように両腕で視界を覆ったけれど、柔らかそうなお腹とおへそを見てしまった。


「息苦しかった……。はぁ、ちょっと楽になったわ」

「あぁ、む、胸?」

「うん。……てか、まだ苦しいな。ボタンも外すか」

「いやいやいやいや、それはマズイって!」


 さすがに止める。


「いいじゃんか、マジで息苦しいんだって」

「見えるじゃんか。やべぇって」

「大丈夫だよ、アンダーシャツ着てるもん。それにブレザーも着てるから別に見えないだろ?」

「わっ、分かった。じゃあ胸元だけにしとけ。マジで! マジでっ!」


 俺がしつこくそう言うから、しぶしぶ上だけボタンを外していた。


 そしてミコトがブレザーをはだけた時、俺は発見してしまった。シャツ越しからも分かる胸の先端の盛り上がった突起を……。あれって、もしかして(もしかしなくても)……乳首!?


「全然だめだ。やっぱ下着に問題あるわ。タンクトップみたいなピチピチ着てるから……。もう下着脱ぎたいんだけど」

「い、今は我慢しよ、今は……」


 そうこうしてると、道の向こうから幌馬車が通りかかった。行商人らしい。


 近くに町がないか尋ねると、ラズフォードという町があり、そこに向かっているのだとか。一番近い町がそこらしい。


「……乗ってくかい?」と、おっさんはミコト(だけ)を見て訊いた。

「いいんですか? でも僕た……! わたしたち、お金とか持ってないんですよ」

「いいよ、金なんて。どうせここから目と鼻の先だし。困ったときはお互い様よ」

「ほ、ホントですか。ありがとうございます!」


 嬉しそうに頭を下げる。


「親切な人でよかったね」と俺を見て笑ってるけどお前、胸見られてたぞ……。こいつ、絶対ミコト見て乗せることにしたろ。


 まあ、今のコイツの着崩した服装は完全に清楚系ビッチとでも言えるものだけど……。


 裾の余ったシャツをパタパタ動かしながらミコトは幌馬車に乗り込んだ。


 くっ、あざとい奴め……。


 まあ、何はともあれ、これで町まで行けそうだ。

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