第17話 (ミコト視点)ちょっと悩む

 窓から差し込む朝日と鳥の声で目が覚めた。


 寝ぼけ眼で浴室に向かう。


 鏡の前に立って、自分の身体を確かめた。


 おっぱい……ある。あそこ……ない。


 ちょっとため息。


「ま、一日経ったら元に戻る、なんてことはないよね。そうだとは思ってたけど……」


 顔もそのままだ。


 それにしても、改めて見るとこの服……。


 昨日、ご近所のドーラさんに貰ったシャツは、身体にフィットしてて、ぶかぶかだった制服のシャツよりも着心地がいい。

 フィット感はイイ感じなんだけど、ボタンの留まる縦のラインが絞られてて、胸がすんごく強調されてるのだ。


「透けない素材だけど、ぴっちり過ぎてて、下着の形うっすら見えちゃってるな……」


 コレちょっとまずいよね。ま、上からブレザーを羽織れば問題はないか。


 ブラの上から着るインナーも買わないとな。


「あと、ギルドに売ってたスポーツ用のインナーみたいなのも買いたいよなぁ」


 この服に着替えた後に、軽くジャンプしたり走ったりしてみたんだけど、普通のブラだと、胸の揺れが目立っちゃうし。


 あの揺れはちょい恥ずかしいし、あとなんか、ちょっと痛かった。ランニングとかするなら、スポーツブラって言うの? ああ言うのは早く買わないとね。


 顔を洗って、コンソメスープを温めているとシンくんの欠伸が聞こえてきた。


 ……ふっ! めっちゃ寝ぐせついてる。


 ボーッとしてるシンくんを見て、心の中で笑ってしまった。


 けど、疲れてんのかな? モンスターと戦うって大変そうだし。




 戸締りを終えてから二人で家を出る。サンダルに何かが挟まったから、庭のベンチで一度、サンダルを脱いだ。


「「……」」


 立ち上がる時に一瞬、シンくんと目を合わせて沈黙。


 こう言う時って、手ぇ出してくれてたよな……? って、かまってちゃんか、おれは!?


「よっし!」


 気合を入れて立ち上がった。


 さて、ギルドに向かって出発しますかね! ちょっと距離はあるけど、散歩には持って来いだ。


 歩きながら深呼吸する。朝のまだ少しひんやりとした空気が気持ち良かった。




 はぁ……。横っ腹がいてぇ。


 早くランニングとかしたいなって思ってたけど、こりゃ家までの往復だけでもいいかもな……。


 ウォーキングってやつ? 早歩きで歩くだけでも、持久力とか下半身の筋力アップになるだろうし。まずはそこからかもな。


 ギルドに到着して、すぐに石板でステータスを確認したけど、なんも変わってなかった。ま、一日ではね。


 お風呂筋トレと行き帰りのウォーキングで、まずはレベルアップを図るか。千里の道も一歩からってやつだ。


 リタさんに訊くと、おれはやっぱり、回復アイテム作りをするのが一番効率のいい稼ぎ方っぽかった。


「ごめんね、なんか」

「ん? なにが?」


 そう言うと、シンくんがキョトンとした顔をした。


「いや、成り行きで昨日からシンくんにだけ、危険なことさせてる気がしてさ……」

「何言ってんだよ」


 笑うとシンくんがツッコミを入れるように手を挙げた。


 てっきりいつもみたいに、肩か腕を軽くぺしりと叩かれるかと思ったけれど、シンくんは手を迷わせて、首を掻いた。


「リタさんも言ってただろ? モンスターと戦うだけがハンターの仕事じゃないってさ。ミコトだって、回復アイテム作りを頑張ってんじゃん! 回復アイテムを作るのだって、メッチャ大切な仕事だろ?」


 シンくんは笑いつつも、割と真面目な顔してそう言った。


 シンくん……。


 おれ、シンくんのこう言うとこが好きなんだ。


 ……あ! 好きってのは、あくまで友だちとしてだけどね。友だちとして。


「それに回復魔法の上達にも役立つみたいだし、きっと将来のミコトのためにもなると思うぜ。レベルはいずれ上がってくるだろうからさ。そん時は一緒にクエストに行こう!」

「うん! おれ、たっくさん回復アイテムの作り方覚えるよ!」


 エントランスで昨日みたいに別れる。


 シンくんは今日はダンジョンに行くらしい。


 ダンジョンって、真っ暗な迷路みたいになってる洞窟だよね? 大丈夫なの!? モンスターがたくさんいるイメージあるけど……。って思ってたら、丘陵地帯らしい。


 初心者向けなんだそうだ。けど、やっぱ心配。


 おれはギルドの外に出て、シンくんを見送った。


「マジ、無茶はダメだからねーっ!」と手を振る。


 シンくんは笑顔で手を振り返して行ってしまった。


 おれも早く一緒にクエストに行けるように頑張るからね、シンくん!


 遠ざかるシンくんの背中に、心の中でエールを送った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る