第37話 とんだ伏線回収

「お!? この紫の葉っぱは……!」

「その葉っぱがどうした?」

「やっぱり! 毒消しの材料になるラングワート発見!」


 あれからミコトに連れられて、あっちの岩陰こっちの水辺と丘を縦横無尽に散策しまくっていた。


「うお~! これはポーションの主原料、ハニーバジルだ!」


 ミコトは薬草を見つけるたびに興奮する。


「ちょ、シンくんの足元に咲いてるのって!?」

「え? この白い花がどうしたんだ?」

「それは……、ホーリーホックルじゃんかっ!!」

「なんだそれ!? 何なのかも想像がつかんぞ?」

「万能薬の材料だよ! それ超レアだよ! 超レア!」


 カーン、カン、カン、カン……!


 クエストの終了を知らせる鐘が鳴る。


 俺たちは顔を見合わせた。


「もう二時間経っちゃったんだ」

「意外とあっという間だったな」

「戻ろっか」

「うん」


 編みかごをあらためて見ると、結構な量が入っている。


「これだけたくさん集めたんだし、仮に一位は無理でも三位以内には入ってんじゃないかな?」

「だといいね」


 会場に戻り、受付で道具を返却した。これから急いで集計作業に取り掛かるようだ。


 俺たちはクリスさんとオリヴィアさんと合流すると、結果が出るのを広場で待った。


 しばらくして、司会のお姉さんが舞台に上がる。


「クエストに参加された皆さん、おっ疲れ様でしたー☆ 集計結果が出揃いましたよ! これより上位三組を発表します。名前を呼ばれた方たちは舞台へ上がってくださいね~!」


 お姉さんがにこやかに呼びかけると、みんなが拍手を送った。


「まずは娘さんと一緒に参加されたオルントさん!」


 女性と女の子が舞台に上がる。


「パ、パツィーちゃん!?」

「知り合い?」

「い、いや、ちょっと」


 さっき俺を不審者扱いした母親と娘のパツィーちゃんだ。く、実は強敵だったのか……!


「次にご夫婦で参加されたアンブラさん」

「アンブラって確か……」


 ミコトと顔を見合わせる。知った顔が舞台に上がった。


「ランドルフさん!」

「それにダリアさんも!」


 ハンターのランドルフさんと回復アイテムの製作工房で働いているダリアさんだ。あの二人も参加していたんだな。


「最後の一組は新米ハンター、シンさんとミコトさんのお二人です!」

「「──え!?」」


 急に名前を呼ばれたので心の準備をしていなかった。


 聞き違いかと、ミコトとシンクロしながらお姉さんを二度見する。


「シンさんミコトさん、いませんか~?」

「嘘……」

「マ、マジで!?」


 お姉さんが額に手をかざして、キョロキョロと周囲を見渡す。


「二人ともやったじゃないか!」

「ホラ、早く行ってきなさい!」

「は、はい」


 クリスさんとオリヴィアさんに背中を押される。


 温かな拍手に迎えられながら、緊張気味に舞台に上がった。ランドルフさんたちの隣に並ぶ。


「さあ、この三組の中でいったいどのカップルが一位の豪華賞品をゲットするのでしょうかっ!?」


 お姉さんがもったいぶったように会場を見渡す。なかなかの盛り上げ上手である。


「それではいよいよ結果発表~☆! まずは、第三位のカップルから発表しちゃいましょ~う!」


 その言葉と同時に、どこからともなくドラムロールが鳴り響きはじめる。


「第三位は……、ジャジャーン☆ ランドルフさんとダリアさんのご夫婦でーす!」

「おぉ~!」


 参加者から拍手が起こった。俺たちも二人に拍手を送る。けれど、二人は悔しそうだった。


「ま~た三位だよ! 本当にこの男は、いつになったらミントとミントモドキの違いが分かるんだろうね?」

「なにぃ!? 俺のせいだってのか!? オメェの教え方がマズいんだろ!?」

「ベテランハンターのくせして、薬草のひとつも見分けられないなんて、呆れるよ」

「なんだと!?」

「ハイハ~イ! 夫婦喧嘩はケルベロスも食わぬ、と申しますので続きはご自宅で~☆!」


 お姉さんの一言に笑いが起きた。


「それでは、続いて第二位の発表ですよー!!」


 ひときわ大きな拍手が起こった。


「第二位は──」


 俺は内心ドキドキしていた。ここで名前が呼ばれなかったら自動的に一位ってことだ。


「オルントさん親子でーす!」

「えっ!?」

「それじゃあ……!」

「と言うことは~、本日の週末限定デートクエスト、堂々の第一位は──」


 盛大にシンバルが鳴る。


「ジャジャジャジャーン☆!! 新米ハンターのシンさん、ミコトさんカップルゥ~!!」

「「マジか!?」」


 背後から紙吹雪とラッパが鳴り響く。


 ほ、本当に一位をゲットしてしまった!


「皆さーん、若い二人に盛大な拍手をーっ!!」

「やるじゃないかお二人さん!」

「愛の力だねぇ、ヒュウヒュー!」


 拍手喝采や冷やかすような口笛、「おめでとう!」の声が会場を包む。見るとオリヴィアさんやクリスさんも笑顔で手を振ってくれている。


 なんだか恥ずかしい。


「負けたよ、ミコトちゃん」

「ダリアさん」

「すごいじゃないか、シン。初参加で、いきなり優勝しちまうとはな」


 ランドルフさんもそう言った。


「俺は薬草の知識なんて皆無ですから、全部ミコトのお陰です」

「そうなのか。ギルドで働きはじめたばかりなのに、大したもんだ」

「ダリアさんやセリーナさんが毎日優しく指導してくれるからですよ。師匠が良かったんですね、きっと!」


 キランと目を輝かせて、ミコトがダリアさんを見つめる。


「そうだろ、そうだろ!」

「そうです、師匠! これからもよろしくお願いします!」

「ああ!」


 ダリアさんはすっかり機嫌が良くなったようだ。


 ふ……、ミコト、相変わらずあざとい奴め。


「それでは優勝したお二人に話を聞いてみましょう!」


 お姉さんに呼びかけられる。


「お二人ともおめでとうございます!」

「「ありがとうございます」」

「あらためて自己紹介をお願いします」

「シン・スサノです」

「ミコト・クシナです。ほんのこの前ラズフォードに来ました。二人でハンターをしてます。皆さんよろしく~!」


 会場の人々にミコトが手を振った。


 司会のお姉さんから優勝賞品──月明かりの首飾りを受け渡された。


 小さな三日月の形をしたペンダントで、本当に淡く光っているように見えた。


「今回ゲットしたこの首飾りはどうなさるんでしょうか?」


 そう訊かれて、俺は横のミコトに目を向けた。


「あ、ええっと。か、彼女に……」

「あら! 彼女のミコトさんへプレゼントされるんですね!」

「「いや!」」


 ミコトと口をそろえて否定する。


「?」

「彼女って、そう言う意味のカノジョではなくて」

「わたしたちは、ただのハンター仲間なんですよ」

「それじゃあ、お二人はカップルじゃなくて……」

「「はい。そう言うのじゃなくて、ただの友──」」

「あら! お二人さん!」


 舞台下からの声に俺たちの言葉は遮られた。女性が舞台を見上げている。俺たちを見て笑っていた。


「おめでとう、お二人さん! 愛の力で完全勝利ね!」

「だ、誰だっけ……?」


 小声でミコトに訊いた。


 どこかで見覚えがあるような、ないような……。


 ミコトも首を傾げていたけど、アッと口を小さく開けた。


「確か、町に来た日に寄った服屋さんの」

「あ……! あの時の店員さん!?」

「お知合いですか~?」


 お姉さんの問いかけに店員さんが頷く。


「三番街で婦人服店アンドローズを経営している店長のドロレスです!」


 店員さんもとい店長のドロレスさんがなぜか舞台に上がって来る。


「数日前に、私の店で二人仲良く下着などを購入されて行かれたんですよ」

「ほう!」


 なにペラペラ喋ってんだよ、この人っ!?


「あら! ミコトさんの胸元の青いスカーフは!」

「?」


 ドロレスさんが目を丸くする。


「それも、あの時、彼氏さんがお店で購入されたものですよね? 彼氏のシンさんがプレゼントされたんですね!」

「そうなんですか、ミコトさん?」

「え? あ、いや、その」


 ミコトはしどろもどろだ。


 くそう! そう言えばあの時、俺たちは咄嗟に自分たちのことを「彼氏だ」「彼女だ」と言ってしまっていた。とんだ伏線を回収してしまったようだ。口は禍の元とはこのことか!?


「ヒューヒュー熱いね~!」

「見せつけるねぇ」


 人々が茶化すように囃し立てる。


「ちょ、シンくん、マズいよ!」

「ちゃんと否定しとかないとな……。あの──!」

「可愛い彼女の首にかけてあげなよ、彼氏さん!」


 誰かがそう言うと、賛同するように拍手が起こった。


 最高の提案だとばかりに、司会のお姉さんも場を盛り上げる。俺たちはお姉さんや店長のドロレスさん、ランドルフさんたちに半ば強引に身体が触れ合うほどの距離まで近付かされた。


「それじゃあ、シンさん! ミコトさんの首にペンダントをかけてあげてください!」


 ヤバ……、に、逃げ場がない……。


 いや、最初からプレゼントするつもりだったよ? だったけどさ。


「どどど、どうしよ、ミコト!?」

「もうこうなったら仕方ない、やろ! さ、一思いにやって!」


 ミコトが少し膝を折り曲げる。


 くそ、しょうがねぇのか!


 俺も覚悟を決めてペンダントのホックを外した。ミコトの後ろに回り込む。


 やべ、俺、アホみたいに指が震えてる。


 あんまし首とか髪とかに触れないよう、そっとペンダントを首にかけた。


 それで会場の人々がまた盛り上がる。


「そんな可愛い彼女がいて羨ましいぞ、コノヤロー!!」

「結婚式には呼んでね~!」

「以上! 本日のデートクエスト優勝者は、ラブラブな仲良しカップルでハンター仲間でもあるお二人でした~☆」


 お姉さんが勝手に締めの挨拶をし始める。


 そんなこんなで、俺たちは多くの人々が見守る中で、不可抗力的に恋人同士になってしまったっぽい……。どうしよっ!?(錯乱)


「三番街の婦人服店アンドローズもヨロクク♡」


 勝手に宣伝に使ってんじゃねぇ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界来たら俺の親友が女の子転移してました~その子(?)が何度見てもやっぱり可愛いんですが、これどうしたらいいですか? さんぱち はじめ @381_80os

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ