第36話 薬草摘みながらのイチャイチャ

 カップル限定(!?)デートクエストの【薬草採集】が始まった。


 賞品の月明かりの首飾りをゲットしたくて、さっきからそこらじゅうの草を血眼で見まくってるんだけど、俺はふと、衝撃の事実に気が付いた。


 回復薬に使われる薬草がどんな植物かなんて……知らないじゃん、俺っ!! 名前はおろか見た目も知らないじゃん、俺っ!!


 運営、不親切じゃね!? もっと、なんかこう……【この周辺で採れる薬草一覧】とか、貼り出しても良かったんじゃね!?


「これさぁ……、どれが薬草でどれがただの雑草なのか見分けつかねぇよな?」


 ミコトにそう呼びかけた。


 これじゃ【薬草採集】じゃなくて、単なる【草むしり】クエになってしまう。異世界転生していった諸先輩方は、どうやって見分けていたのだろうか? あんまりその辺の描写ないけども……。


「ただそこらへんの草集めても、いざ持ち帰って薬草じゃなかったなんてことになったら、元も子もないもんな? なあ?」

「誰としゃべってるですか?」

「!?」


 小さな女の子がキラキラしたおめめをキョトンとさせて、俺を見上げていた。


「あ、あれ!? ミコト??」


 顔を巡らせるけれど、ミコトの姿がどこにも見えない。


 恥ずっ! ずっと一人で喋ってたっぽい。


「ねぇねぇ、今誰としゃべってたですか~?」

「え、ええっとね……」

「ダメよ、パツィーちゃん!」


 草影からお母さんらしき人が飛び出してきて、さっと女の子の手を掴む。よく見ると、二人とも草刈り鎌と編みかごを持っている。【薬草採集】の参加者のようだ。


「ほほほほ……。娘が失礼しました。さ、行きましょ、パツィーちゃん」

「でも」

「いいから!」


 そそそそそ──!


 素早く俺から遠ざかり、「キッッ!!」と、娘に近付いた不審者でも威嚇するように睨まれた。手を引かれるパツィーちゃんは呑気に俺に向かって手を振っていた。


「…………」


 なんだ、この辱め……。


「ミコトォー! どこに行ったんだよ~!?!?」

「シンく~ん!」


 いつの間にかいなくなっていたミコトが、遠くの木陰からひょっこりと顔を出す。


 俺は猛ダッシュでミコトの元へ向かった。


「俺を置いて勝手に行かないでくれよ! めちゃくちゃ恥ずかしかっただろ!?」

「? なにが?」


 ミコトもさっきの女の子のようにキョトン顔で首を傾げた。


「もう、いいよ! で? どうしたんだよ?」

「この辺りにポーションの材料になる薬草がいっぱいあんの、見つけたからさ!」

「本当に?」


 草むらを覗き込む。


 確かに草はいっぱい生えているけれど、どれが薬草なのか俺にはわからなかった。


「その辺に生えてるのと何が違うのか、さっぱりわからん……」

「おれ、毎日見てるからさ」

「ああ、そうか! ポーションも薬草から作るもんな」

「うん! ポーションに使う薬草は何種類かあってね、それらを混ぜて作るんだ。ここにたくさん生えてんのは、雪結晶ミントってやつ。おれが教えてあげるから、一緒に集めよ?」

「おう!」


 二人でしゃがみ込んで、薬草を摘んでいく。


 雪結晶ミントは名前の由来の通り、葉っぱが雪の結晶のような形をしていて、薄っすらと白い。体内の炎症を抑える効果のある薬草である。(ミコト談)


「あ、シンくん、それ違うよ」


 しばらく集めていたら、ミコトにそう言われた。


「そうか? 教えてもらった葉っぱの形してたんだけどな」

「似てるけど、見て。こっちが雪結晶ミント。で、シンくんの手にしてるのが雪結晶ミントモドキ」

「……うん、わからん!」


 ミコトの持つ二つの葉っぱをじっと睨んで、俺は首を捻った。


「葉っぱをそっと撫でてみて。モドキの方は、表面に硬い毛がたくさん生えてて、触ったらザラザラしてるから」

「ホントだ。雪結晶ミントの方はツルツルしてるな」

「でしょ? ポーションを作る時も、たま~にこのミントモドキが混ざっててさ、ダリアさんがよく文句を言ってるんだ」


 あのダリアのおばちゃんが愚痴ってる姿を想像して、俺も笑った。


「けど、ミコトが一緒で本当によかったよ! 俺一人だったら、薬草の見分け方は愚か、雑草なのか薬草なのかの区別さえできなかったからな。頼もしいぜ!」


 そう言うと、照れたようにミコトは笑った。その笑顔に、思わず心臓がドキッと動いてしまった。


 その後も、ミコトに薬草の名前や見た目を教えてもらいながら集めていく。


 結構見た目が似ているものや紛らわしいものもある。そう言うのも、ミコトはしっかりと見分けられるっぽかった。


「こりゃミコトのお陰で、マジで俺たち、優勝できるかもな」

「だといいね!」

「ああ! 頑張ってあれをゲットしたいからな」

「首飾り? 防御力がアップすると、魔物と戦う時も安全だもんね。おれ、頑張ってあの首飾り、シンくんにプレゼントするよ」

「ん、何言ってんだ? あれを手に入れたら、お前がするんだよ」

「えっ、おれ?」


 意外だったのか、ミコトが作業の手を止めて、こっちを見つめる。ミコトの顔を見て俺は頷いた。


「防御力が低いこと、気にしてたろ? 町の中は安全なんだろうけど、もしものこともあるしさ。それに一緒に魔物と戦う時が来たら、きっとミコトの役に立つアイテムだろうからさ!」

「そ、そう……」


 ミコトは今度は少し恥ずかしそうに視線を泳がせると、さっと立ち上がった。


「ねねっ、シンくん! 次はあっちを探してみようよ!」

「うん!」


 俺も立ち上がる。ミコトは編みかごを肩に引っ掛けて、急に駆け出した。


「だから、置いてくなって」


 俺はミコトを追いかけた。

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