第35話 デートクエスト【薬草採集】開幕

 何でもない野っぱらに人が集まっていた。人混みの奥にテント小屋が見える。どうやら受付らしい。


「今週もやってまいりました、週末限定デートクエスト! もうすぐ受付終了ですよ~! 参加される方はおっ早めに~☆!」


 笑顔が弾ける司会のお姉さんが、お立ち台からそう呼びかけている。


「よかった。ギリギリだったみたい」

「そうだな。さっさと受付をすませてしまおう」


 オリヴィアさんとクリスさんが人を掻き分け、テント小屋へと進んでいく。


「俺たちも急ごうぜ?」

「どーでもいいですよ~……」


 相変わらずミコトはこのぐでぐでっぷりだ。


「いつまで拗ねてんだって! ホラ、せっかくだから楽しもうぜ?」


 ミコトの背中を押して、無理矢理歩かせる。俺たちも人を掻き分けて受付に向かった。


「やけに乗り気じゃん?」

「そりゃテンション上がるだろフツー。異世界来たら……、まずは薬草採集だろっ!?」

「わ、わかったよ……」


 息巻く俺を見て、ミコトは少し引いている様子だった。


「やあ、二人とも」

「「エルトンさん!」」


 受付近くにハンターギルドで事務をしているエルトンさんがいた。ほかにもテントの中では、普段、ギルドの受付をしている女性たちの姿があった。ただリタさんの姿はなかったけど。


「二人もクエストに参加するの?」

「そうです」

「なら、この名簿に名前を書いて、そっちで備品を借りてね」

「わかりました」

「参加者の集合場所はあっちだから」

「了解です」


 俺たちは受付をすませると、必要な備品──草刈り鎌と大きな編みかご、魔物除けのアイテムを借りた。


「今日の賞品はちょっと豪華だよ?」

「らしいですね」


 さっきクリスさんもそんなことを言っていた。


「二人とも頑張ってね。健闘を祈ってるよ」

「「ありがとうございます」」


 エルトンさんと別れて、集合場所へと向かう。


「クエストでみんなが集めてくれた薬草を使って、おれたちが色んな回復薬を作ってるんだよ?」

「そっか。ギルドの工房で作ってる回復薬の材料はこうやって集めてるんだな」


 ミコトに教えられて俺は納得した。


 カンカンカンカン……。


 お立ち台に設置された鐘が鳴らされる。


「受付終了でーす! 参加者の皆さんはわたしの前に集合してくださーい!」


 司会のお姉さんがそう呼びかけている。


「お~い、シンにミコト! こっちだ!」

「二人とも急いで!」


 クリスさんとオリヴィアさんが手を振っている。もう参加者は全員集まっていた。俺たちも急いで最後尾に並ぶ。


「本日のクエストは薬草採集です! もっとも薬草を多く採集したカップルが優勝となります。そしてぇ……本日の豪華賞品がこちらっ!!」


 お姉さんが大きな布を思い切り引っ張ると、テーブルに何かが乗せられていた。


 なんだ?


 二人でつま先立ちになって首を伸ばす。


「ジャジャーン☆!! 優勝したカップルにはこちら──月明かりの首飾りをプレゼント! この首飾りは、装備すると薄い魔法のベールが身を守ってくれる魔法道具! 防御力はな、な、なんと、脅威の+3っ! デザインもお洒落な一品になってまーす☆!」

「マジでっ!?」

「本当に良くね?」


 まさか魔法道具が賞品だとは驚いた。


「また、2位のカップルにはポーション6本分を、3位のカップルにはポーション3本をプレゼント! 皆さん上位入賞目指して頑張ってくださいね~!」


 どうやら3位まで賞品が出るようだな。


「今日の参加ペアは総勢12組のようですね。鐘が鳴るまで約二時間、頑張ってたっくさん薬草を集めてきてくださいね~! それでは、クエスト……スタートォ!!」


 お姉さんが笑顔で鐘を打ち鳴らす。


 カン、カン、カン、カン……!


「それじゃあ、お互いに頑張りましょうね」

「勝負だぞ、シン!」

「俺たちも負けないっすよ!」

「オリヴィアさんたちも頑張ってください!」


 こうして、俺たちはクリスさんとオリヴィアさんと別れて会場を後にした。ほかの参加者たちも、思い思いに散らばっていく。


「天気もいいし、風も気持ちいいよね~」


 少し前をミコトが背伸びしながら歩く。


 あの月明かりの首飾り、どうにかゲットできないものか……。


 ミコトの後姿を見ながら、俺はそう思っていた。

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