第34話 四人でランチ

 声を掛けてきたクリスさんとオリヴィアさんは、いつもの冒険者の格好ではなかった。


 なんか新鮮だ。特にオリヴィアさんは、魔法使いの黒いローブ姿しか見たことがなかったけれど、今日はとても華やかな服装である。


 短い丈のスカートから覗く生足が眩しい。


 俺たちが驚いていると、オリヴィアが微笑む。


「ふふ。もしかして、デート?」

「違います!」


 隣でミコトが即答する。


 だから、食い気味に返すなって! 傷つくだろ! 何か知らんが。


 横目でミコトを睨み、ため息。俺も二人を見て言う。


「せっかくの休みなんで、遊びに来てたんですよ。ここで掘り出し物でも探そうかって」

「そう」

「一緒にランチしたり買い物したり、町をブラブラしようとしてただけです」


 ミコトがそう言うと、横にいるクリスさんが苦笑する。


「ハハハ! それを、デートって言うんじゃないのかい?」

「え゛っ!?」


 変な声を出して慌てるミコト。


「おっ、お二人こそ! 休みなのに、なんで一緒にいるんですかっ!?」


 どもりながら話題を逸らす。


「「え?」」


 今度はクリスさんとオリヴィアさんが、驚いたように顔を見交わした。


「歓迎会の時に言っていただろ? 俺はクリス・エンブリッジ、彼女はオリヴィア・エンブリッジ。俺たちは夫婦なんだ」

「え゛っ!? あ゛っ!? え゛えっ!?!?」


 また変な声を上げ、ミコトが目を泳がせながら二人の顔を見る。


「そうか。お前、遅れて来たからな。ミコトが来る前に軽く自己紹介して、そこで俺も初めて知ったんだ」

「そ、そう、だったんすか……」


 俺も聞いた時は驚いた。オリヴィアさんは18歳でクリスさんは20歳らしい。二人とも、年齢より大人びて見える。


 だけど、まさか二人が結婚していたとはな……。


 俺たちの前でクリスさんが突然、オリヴィアさんの肩を抱き寄せた。


「因みに今日は、俺たちも久しぶりのデートなんだ。な、マイワイフ?」

「やだ//////」


 オリヴィアさんが顔を赤らめてもじもじっと腰を揺らす。


 お、おぉ……。オリヴィアさんが女の顔になっている。


 なんだろう、俺はちょっと見てはいけないものを見た気がして、正直、引いてしまった。(←なぜ!?)


 ミコトも絶句してそれを見ている。ミコトは引いているというより、明らかにショックを受けている様子だった。


 あ! もしかして、コイツ、オリヴィアさんのこと好きだったのか!?


 俺はそう思い至った。なぜなら、ミコトはオリヴィアさんみたいな、スレンダーなお姉さん系がタイプだからだ。


 アイドルグループでどの子がタイプだとか、雑誌に載ってるモデルの子の話とか……時々だけど、そんな話をしていたのを思い出す。


「お、俺たちこれからお昼にしようかと思ってたんですよ。どこかいい店知ってますか?」


 絶賛傷心中のミコトに代わり俺は訊いた。


「それはちょうどよかったな。これから俺たちもランチなんだ」

「そうね。もしよかったら、二人もどう?」

「え? いやぁ。でもホラ、せっかくのデートのところ悪いし……」


 このままずっと、イチャラブな二人と一緒にいたら、ミコトがオーバーキルされてしまいそうなので、やんわりとお断りするのだが。


「若いもんが遠慮すんな! 先輩たちが奢っちゃうぞ♡」


 オリヴィアさんが俺とミコトの肩を叩いた。


「いや、そう言う訳じゃなくてですね」

「これから行くところは、ミートパイの美味い店なんだ。上質なトルキー肉とラズフォード南端で採れた新鮮なポルポッタで作られた、最っっ高のミートパイだぞ!?」

「いやもう、何の素材かわからんっ!」


 よだれを垂らしながら言うクリスさんに思わずツッコミを入れる。


「食後のパフェも美味しいよ。さ、行きましょ、行きましょ」


 オリヴィアさんが俺たちの背中を押す。隣のミコトは、糸が切れたマリオネットのようにグラングランしながら歩いている。


 ああ、ミコトがオーバーキルされてしまう……。


 こうして俺たちは成り行きでランチを一緒にすることになった。




「んあむっ! がむっ!!」

「ヤケ食い!?」


 一心不乱にミートパイに喰らいつくミコトに、俺は思わずそう言った。


「うんうん、いい食べっぷりだ! シンも負けずにどんどん食えよ!」


 クリスさんが嬉しそうに頷く。


 多分、そう言うことではないんだが。


「そうだ。お昼からギルドが主催する週末限定のクエストがあるんだが、もしよかったら、一緒にどうだい?」

「週末限定クエスト? なんですかそれ?」


 野獣のようにミートパイを頬張るミコトを一端スルーし、俺は訊き返した。


「週末には猟兵ハンターギルドが限定クエストを出すことがあるんだ」

「そして今日行われるのは週末限定デートクエストよ」

「デ、デートクエスト!?」


 俺は思わず咳き込んだ。


「なんすか、それ?」

「言葉の通り男女がペアになって参加するものだよ。恋人同士や夫婦で参加するの」


 週末限定のデートクエスト……。そんなものがあるのか。


 けど。


「俺たちは、なぁ? そう言う関係じゃない──」

「がるっ!?」


 横を見ると、口の周りをパイまみれにしたミコトが、ガバッと顔を上げた。


「いや、聞てなかったよ、コイツ!」


 その様子を見て、オリヴィアさん笑う。


「俺たち、恋人じゃないんで……」

「そこまで厳密じゃないから、気にする必要はないのよ」

「そうなんですか?」

「ああ」


 クリスさんが頷いた。


「二人一組であれば別に構わないんだ。友だち同士や親子で参加する人もいるし、仲の良いハンターが組んで出ることもある」

「因みに今日は、薬草採集クエストだよ。わたしたちも参加予定なの」

「薬草採集っ!?」

「ええ」


 薬草採集というワードに思わず身体が反応する。


 やっぱ、異世界来て冒険者になったら、一発目のクエストは薬草採集だよな! この異世界転生あるあるは外しがたい! 


 なぜか俺はダクソ系グロスライムと初日に戦った訳ですが。


「二人もどう? 薬草採集なら危険も少ないし、ハンターじゃない町の人たちも参加するクエストなんだけど」

「な、ミコト! 薬草採集クエスト、参加してみないか!?」


 本当はお昼からは街ブラでもしようかと計画していたけれど、蚤の市で買いたいものは買えたわけだし。


 だが、ワクワクが止まらない俺とは対照的に、ミコトは死んだ目をしてどこか遠くを見ていた。


「いいですよ~。もう別に、どーうでも」

「あぁ、もう自暴自棄だよ」

「なら、パフェを食べたら四人で行きましょ!」


 オリヴィアさんがノリノリで「レッツゴー!」と右手を突き上げる。


「優勝するとアイテムも貰えるぞ」と、クリスさん。

「賞品まで出るんですね」

「ああ。今日のは少し良いアイテムらしいぞ。企画している事務のエルトンさんの話じゃ」


 俺たちはデザートのパフェを食すと、四人で店を出た。そのまま町の外へと向かう。

 風が吹き抜ける緑の丘の一角に、人が集まっていた。

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