第4話 魔法剣士、力試しをする
場所を宿の中庭に移した。少々狭いが、二人立ち会うくらいは平気だろう。
立ち会いは、サラ、キア、シータがいた。どのような心境なのか、複雑そうな顔をしていた。彼女達の不安を解く言葉は持たないし、そもそも俺が不安の一端なのだから、何も言えなかった。
俺は
何度か繰り返し体の動きをトレースする。
するとカーティスが
「流石に剣士だな。良い剣筋だ。最も、その剣では俺の
と言った。そう、カーティスの対人戦闘力は別格だ。馬鹿みたいな
「そろそろ始めようか」
とカーティスが声をかけてきた。
こっちは準備万端だ。体も温まった。
これは普通の試合ではないので、開始の合図はない。強いて言えば「始めようか」の言葉が合図だ。
カーティスは剣闘士がつけるような、鍔付きのヘルメットに胴鎧、脛当に、手には
俺は大層な鎧をつけない。皮の胴鎧と籠手がわりの長めのグローブに、足に脛当をつけるくらいだ。それだけで十分、というか、そうしないと魔法が使いづらい。右手には
カーティスと俺の身長差は、3インチほど俺の方が高い。しかし、体格は奴の方が良く、筋肉の塊のようだ。それで俺は、カーティスに侮られているという側面はある。
お互いに剣を突き出しながら、牽制する。俺は左右にステップする。カーティスに、突撃のタイミングを外させるためだ。
俺とカーティスは戦う距離が違う。俺は魔法を使うため、距離を開けて戦いたいタイプだ。比べてカーティスは、その装備から距離を詰めた戦いが得意だ。だから、俺はカーティスに詰められると大変困るわけだ。
カーティスは剣闘士上がりだ。対人戦闘ではカーティスに理がある。そう言う意味では怖い相手だ。
が、俺は勝算があった。俺の剣にはカーティスに見せたことがない切り札がある。だが知っていたとしても対処の難しい技だ。
「カーティス、折角だから俺のとっておき、二つ見せてやろう」
「へえ、お前のとっておきってな、魔法の方か?残念だがお前の魔法、どれも効きゃしないよ」
と、カーティスは言った。
残念だがカーティス、魔法じゃないんだよ。と思ったが、やられる方には魔法としか見えないか。
カーティスはバカみたいにデカい盾で俺にシールド・バッシュを仕掛けようとした。カーティスは、半分成功して、半分失敗した。俺は確かに打たれダメージを喰らったが、幸運にもバランスを崩さなかった。
俺はあのシールド・バッシュはやばいな、と思った。体全体を打ち付けようとしてくる。
それもカーティスの計算のうちだったのだろう、グラディウスを突き刺しに来た。
すごい剣勢だった。あんな勢いで突かれたら、当たればただでは済まないだろう。
俺は一旦距離を取り、魔法の用意をした。
『ストーン・ブラスト』
地面から小石が飛び上がり、それが礫となって四方からカーティスを打ち据える。重さにして5オンスかそれ以上の小石だ。生身で受けたら深傷を負う。カーティスは鎧と盾で石を防いだ。全てとはいかなかったようだが。
カーティスが迫って来る。俺は次の魔法の準備をした。
『ホーミング・ホーネット』
先程の石礫が、カーティスを追いかけ回す。その動きが、スズメバチに似ているので、ホーミング・ホーネットという名前になっている。
カーティスは、鬱陶しそうに小石の群れの相手をしていた。その隙にカーティスとの距離を詰め、鎧の隙間の首筋に
小石の群れは、カーティスの背後を打つように飛翔しているからカーティスは小石を盾で受けるように躱しながらダンスを踊るようにクルクル回っていた。
俺はその隙にカーティスの兜を撃ち据えようとしたが、カーティスの盾に防がれた。
やがてホーミング・ホーネットの効果が切れると、カーティスは獰猛に笑い、
「これがお前の切り札か」
と言ってきた。
俺はそれについては沈黙を守り、
「ちょっとは驚いたか」
と言った。
カーティスは
「驚いたが、どおってことねぇな」
と言い捨てた。
俺は、「まあそうだろうな」と言いながら、圧力を強めるカーティスの盾と剣を捌いていた。まあ、剣では劣勢になるのは仕方がない。俺はカーティスの剣を捌くのに、左回りにステップしていた。
カーティスの右手側は、剣を持つ為、盾で守られてい無い。加えて剣を使うには体が開いて、剣を操りづらい。普通は。
カーティスはもう左回りのステップに順応してきた。そう言う剣闘士と戦ったことがあるんだろうな。経験の差なんだろう。
カーティスの方は俺の間合いの内側に、素早く入り込んで、盾で俺を殴りにくる。それに俺は殆どなす術がない。精々サイドステップで躱すか、後ろに下がるかだ。後ろに下がるのは不味い手だ。バックステップで下がれば、俺の次の攻撃に繋がらない。カーティスにも俺が消極的になり後ろに下がっていると思われるだろう。
だがこれは陽動だ。カーティスが俺の意図に気がつかないようにバックステップの合間に剣を振るった。ただ、カーティスのシールド・バッシュを喰らうと本気で不味いので、それだけは注意していた。
そのシールド・バッシュの次に来るのは剣の突きだ。カーティスの使う
が、
俺は回避し損なった盾の攻撃と、躱し損なった剣の突きで血を流し始め、徐々にダメージを蓄積させていった。
カーティスは余裕があるのか、一旦攻撃の手を止め、
「どうした、こんなもんか、魔法剣士という奴は。こんなんじゃ、一勝もすることもなく死ぬことになるぜ、闘技場ではな」
と抜かした。
俺は悔しさと恐れを同時に表したような、表情を作り、一方内心では、侮ってくれるカーティスの顔を見てほくそ笑んだ。
俺は接近を許したカーティスの攻撃をいなしながら、後退を続けていた。直ぐに中庭の壁が背後に迫る。
カーティスがニヤニヤ笑いながら「後ろは壁だぞ!」と言いながらシールドバッシュをかましてきた。俺はその攻撃を受けた瞬間、
俺とカーティスの位置が入れ替わった。『ノーム・パス』という武技だ。自分と敵の位置を瞬間的に入れ替える。方向は変わらずに、だ。
つまり俺の背後にこっちにケツを向けたカーティスが壁に向かって間抜けヅラを晒している。俺は素早く振り向くと、カーティスの頸に柄頭を打ちつけ、奴の膝裏に蹴りを入れ、引きずり倒した。
カーティスの喉元に剣先を突きつけると、カーティスは悔しそうな面を作っていた。
「俺の勝ちだな」
とは言ってみても、こっちもボロボロだ。空気が足りない、もっと空気を吸わなければ。大きく何度も空気を吸うと、少し体に力が戻ってきた。
俺は、まだ倒れているカーティスに手を差し出した。カーティスは俺の手を取り立ち上がった。お互い背中を叩いた。不意に可笑しくなりニヤニヤとしたが、カーティスの方もそうらしかった。
カーティスは
「やっぱり兜は被った方が良いぞ」
と言った。その口で
「っと、
などとほざいた。
痙攣してふらつく足に喝を入れ、平然と歩かなければ。見物人にもカーティスにも無様は晒せない、晒したくない。
そう言えばカーティスに、とっておきを二つ見せると言ったのに、一つしか見せてないことに気がついた……まあ、いいか。
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