第15話 魔法剣士、辞めたくない
そこで、唐突に思い出した。ゴブリン達のあれだ。連中の置き土産。
俺は変な図象が描かれた端切れを小物入れから取り出した。
「御婆、これなんだかわかるか?」
なんだね、と言いながら端切れを見た御婆は目を見開いたまま固まった。
俺は暫く待って、それでも動かない御婆を何か病気でもあるのかと思って声をかけようとした時
「この図象には覚えがないけど。なんだか嫌な気がするね。何処で手に入れたんだい」
と御婆が言うので、ゴブリンとの最初の接触の話をした。
「それでな、そのゴブリン達、刺青だったり焼き印だったり衣服だったりにその図象を持っていたよ。ゴブリンが遂に神を持ったか、と思って御婆に聞こうと思って持ってきた」「他の
「それは、暗闇の中での遭遇だったのでよくわからなかったな。しかし、異なる
と俺は、他人事のようにいってしまった。しまった、御婆はこう言う物言いを嫌うんだったな。
俺は御婆に頭を叩かれ
「なに他人様の事のように言ってるんじゃ」
と言われた。と言われてもな。俺にはいい考えが浮かばないし、ゴブリンの軍勢をどうにか出来る力もないし。
「お前、帝都に向かって皇帝陛下に警告しに行きな」
それを聞いて、俺は露骨に嫌な顔をした。
「皇帝陛下にゴブリンの軍勢が来ます、って言うのか?その端切れを持って?」
「馬鹿、そんなんじゃないよ。私の名前を出しな、そうしたら城門でも謁見の間でも素通りだから」
御婆の名前はヒュパティアだったか。東方風でここらでは聞かない名前だから、印象に残る名前かもしれないが。流石に帝都に行って皇帝陛下の居館には入れないだろう。
「落ち着けよ、御婆。御婆の名前で、皇帝陛下に謁見できたといても、なんて言うんだ?『ゴブリンが
それにゴブリン共に振り回されたくてここに来たんじゃない。自分を鍛え直すために来たんだ。それは忘れないようにしよう。
「確かに。お前の言う通りじゃな。少し先走ってしまったわ。それで、お前何しにここに来たんじゃ」
「俺は自分を鍛え直したくてここに来たんだ。俺にもう一度魔法を教えてほしい」
そう、御婆に魔法を、爺さんに剣を学ぼうと思って来たんだ、俺は。
「魔法って、元素魔法を教えてほしいのかい?元素魔法ならもうお前に教える事はないよ、あとは実地で練習しな。あんなつまらなくて退屈なもの、よくお前練習してたね」
「いや、元素魔法より、
元素魔法は
「ルーンをかね。しかし簡単にはいかんぞ」
「構わない。時間がかかっても良いと思って来たんだ」
「そうかいそうかい。それは上々だねぇ。ようやく魔法剣士を引退する気になったかい」
「いや、剣の修行はするつもりだ。爺さんに稽古つけてもらおうと思ってな。爺さんはどうしてる?元気か」
俺の剣は酔狂にもこんな辺りに住んでいる爺さんに教えてもらったものだ。昔は帝国の近衞軍団兵だった、と言う昔話を聞いたことがある。だが、今となっては唯の洞話とも思える。
しかし婆さんの答えには落胆してしまった。
「リアン爺さんは旅に出てしまったよ。お前が
と、少し寂しげに言った。
俺も残念だと思った。
御婆の気持ちを考えると、少し、な。爺さんは一人で暮らしている婆さんの唯一の話し相手だった。
爺さんが居なくなれば、御婆は1人っきりになってたはずだ。この4年間どんな気持ちで過ごしていたのか、そう不純な気持ちでもあるまい。俺と爺さんは剣で繋がっていたんだから。
おれも爺さんからは剣技を学んでいた。親愛の情だってある。剣術を学べなくなったという気持ちもあるが。
これからどうやって剣の稽古をしたものか。獣を狩って実戦で訓練するか?
「御婆どうやって剣の稽古をしたらいいと思う?」
「そんな事、私が知る訳ないじゃろ。街まで行って剣術教師探したら良いんじゃないのかね」
森を通って歩いて2時間じゃないか。往復で4時間はかかりすぎる。
「走っていけばその半分の時間で行って帰ってこれるじゃろ」
まあ、そうなんだが、御婆だいぶ面倒臭くなってるな。今日は疲れているし、良い案も出そうにないから、街に行くかは明日にでも決めよう。
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