第14話 魔法剣士、戸惑う
「で、あんた達の話に戻るけど。何があったね」
それで、俺はマシュー一家に気兼ねして言えなかったこと、丘人の集落のほぼ全員が塩の塊になっていた事に、何か思い当たる節はないかと尋ねた。
「塩の塊ねぇ。……塩は本来人には必要不可欠なもので、加えて清浄な物とされている……教会なんか行くと塩で清められるじゃろ。妖魔や不死者に追われてる時、塩をひとつまみ後ろに振りまくと、逃げられる、なんて話は聞いたことが無いかの?つまり、塩というのは本来聖なる物なんじゃ。其れを変成の魔法に用いるとは……滅多に聞かん話じゃの」
俺は流石の御婆にもわからないか、と少し落胆しそうになった。
「まぁ待て。思い当たらん節がない訳でもない」
「それはどういう」
と、言いかけた俺を手で遮り、本棚から何やら漁り始めた。
「これじゃ、これじゃ」
俺は表紙を見て
「なんで書いてあるんだ、この表紙?」
ルーン文字に近いように思えるのに些かと言うか、かなり違う。
「これはな、
「聞いたこと無いな、そんなルーン」
「阿呆、お前が家を出る時ルーンに慣れろと言っとったろうが。全く体ばっかりでかくなって、言われたことも出来んとは、未だ子供よの」
やばい、話が変な方向にずれ始めた。急いで元に戻さないと。
「それで、この本には何が書いてある?」
「太古の魔法のことが書かれている。まぁ起こった事象だけじゃがの。呪文そのものは書いてはおらん」
ふーん。どっちにしろ俺はルーン文字がわからないので、ルーンの呪文が書かれていても読めないのだが。
御婆は本のページを捲っている。こうしてみると、少女が御伽草子を捲っているようでこれがこの世界に座す七賢の一人とは思えないんだよな。
御婆は暫くページを捲っていると
「ああ、あったこれじゃこれ」
と言ってページを指した。書いてある文字もやぱり
「御婆、読んでよ」
「何が読んでよ、じゃ馬鹿たれが。いいか読むぞ」
などと言っている割には嬉しそうだ。素直に読んでくれればいいのに。
『ウェヤム神との契約を結んで出来上がった街で人々が慢心を起こし、自分達だけの力で街を作ったと驕り、契約を破り、偶像を崇め悪徳に耽るようになった。それを戒め、他の信徒への見せしめにするため、ウェヤム神は街の住人を塩の塊にした』
「なんか、曖昧で朧げな話だな。その契約とか偶像とかなんだよ」
「契約が何だったか、すでに失われているな。悪徳は、そうじゃなぁ、男色や高利貸し、ウェヤムの定めた食物以外の物を食べる、ワインを1日1パイント以上飲むこと、などらしいぞ」
なんだか、制約の多い契約だな。それじゃ、信徒に坊主になれ、って言ってるようなもんなんだが。
「で、それで塩の塊が出来るのは神様の戒めってことかい?」
「塩の件はここの記載以上の事はないな。じゃが丘人の集落がウェヤム神の怒りを被った、とは考えづらいしな」
それなんだよな。実際。丘人が神の戒めに遭ったと言うのが考えづらい。マシュー達を見ていれば、そう、彼らは善良だといっていいだろう。そんな彼らが神の怒りを買うか?
もっともマシューは、些か享楽的な面もあるようだが。
宗教の件は明日マシューにでもきくしか無いかな
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