第13話 魔法剣士、御婆の家に着く

 あれ、今の声、御婆のか?扉を開けて中に入ると、見知らぬ少女がいる。いや、俺が最後に御婆をみてから、つまりこの庵を飛び出して最後に見てから、その最後に見た御婆の姿の面影がある。

「え、もしかして御婆なのか?」

「わし以外に誰がこんな所住むというんじゃ」

そう言って腹にパンチをもらった。最も鎧の上からなので全く痛くはない。

「御婆、姿が年々若くなるとは聞いてたけど、それはやりすぎだよ……」

「あほう、好きな見た目で止められるなら妙齢の令嬢の姿で止めとるわ」

また叩かれた。

 御婆のこのはしゃぎ振りは、姿相応に見えた。つまり挙動が幼い。

「うーん。御婆からまた魔法を鍛えてもらおうと思ったんだけどなぁ」

「そんなことは追々するとして、ほら、連れを紹介せい」

ああ、そうだった、御婆の姿がショッキングすぎて大事なことを忘れていた。

「この獣人の女性がカルメンシータ。元俺の属していた幻獣狩りハンターチームの仲間で弓手だ。腕はいい」

と言ってシータを紹介しすると、

「皆カルメンシータなんて呼ばないでシータって呼んでるわ。アレックスの親族に会えるというので、楽しみにしていたの。よろしくね」

と御婆に挨拶していた。シータはどんなところにいても、誰と会っても、シータだな、いや、前からわかってたけどさ。

「で、こっちが丘人のマシュー、リリアナ、リリア、エラン。成り行きでゴブリン共から助けたら、一緒に逃げてくる事になった。行く当てのない4人だから御婆がなにか考えてくれると嬉しい」

そんな事を頼んだ。というか、激若い見た目の御婆に普通に口をきく方が違和感があった。

「坊主とシータはどんな関係で、今は何をしとるんじゃ。いや、そんな事は今は後でもいいな。マシューと言ったな、丘人が村を簡単に離れるとは聞いたことがないが、何をしておったんじゃ」

と、マシューとリリアナ(マシューの話は長く横道に逸れがちなので御婆は主にリリアナから話をきく事にした)から、ゴブリンに捕まってから、ここまで来た事を掻い摘んで話を聞いた。

「そりゃ大変だったねぇ。今夜はここでゆっくり休んで、明日からのことは明日話そう」

「で、俺たちは何処で寝ればいいの」

「お前たちは若いんだから外で寝なせ」

それかよ。言うとは思っていたけど。

「それはいいけどさ、俺たち腹が減ってるんだよ、昨日から丸一日食べてないからな。何か食い物出してくれよ」

そう言うと、御婆は「そうだった」と手を打った。

「歳を取ると気が回らなくなって困るの」

いや、御婆若くなってるだろ。

 御婆は暖炉に掛けてあった鍋から人数分、深皿に盛った。

「山羊のシチューじゃよ。今は家にはこんなものしか無いからね、文句を言わずに食べるんだね」

と言う山羊のシチューは美味かった。山羊の臭みを抜いて、独特の風味は残してある。

 山羊の肉は、臭みを取るためなんども茹でこぼさないとこうはならない。一体どれ位時間がかかったのか、此れが御婆流の歓迎の仕方、位は俺にもわかった。

 マシューは喜色を浮かべて食べいる。シータとリリアナは、何事か話しながら食べている。椅子が離れていると何を話しているのかよくわからない。エランとリリアはスプーンが滞りがちだ。酒が飲めるようにならないとこの味はわからないかもな。

 あらかた食事も終わり、腹の方も全員が満足すると、マシュー一家は眠気を覚えたらしく、頭を揺らし始めた。子供たちはすでに眠っていた。

 「おやまあ、もう眠いとみえるね。こっちへおいで、ベッドは1つしか無いが、丘人4人で眠るにはそれほどちいさくは無いだろ?」

そんな声が、向こうの部屋から聞こえる。俺が知らない間に増築したらしい部屋だ、そんなに広いベッドがあるのか、と思っていると、御婆に言い付けられて水盥を持ってくるように言われた。

 なんだと思って盥を持っていくと、丘人たちは足を洗い始めた。そういや、こいつらずっと裸足だったな。裸足なのは靴を取り上げられたからかと思っていたが。

 あとで御婆に尋ねたら、裸足で歩き回るのはそう言う風俗なんだそうだ。

 民族によって文化は様々だな、などと思っていると、御婆に賢人ぶるな、と諭された。口に出していないはずだが。

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