第12話 カーティス、懊悩する

 雨が窓を叩く音がする。窓は全て蠟引布で閉めてあるから窓からの鈍色の明かりと、テーブルの真ん中にある燭台の蝋燭の灯りが部屋を照らしていた。

 燃える蝋燭の匂いだけが、慰めだった。

 カーティスは、1人静かに呑んでいた。先ほどまではエールを呑んでいたのだが6パイントほど飲むと、流石に腹に溜まり、今はヴィクトリー・ジンを呑んでいた。

 気付かぬうちに、はぁ、とため息がでて、さて、何度目のため息だったかな、と数えようとした。自分が思う以上に酔っているので、ため息を数えるなどできっこ無い、という事にカーティスは思い巡らす事は出来なかった。

「入るよ、カーティス」

「なんだ、もう入っているじゃないか」

カーティスが酔眼を向けるとサラとキアが立っていた。サラはテーブルに寄って、燭台の灯りを指で摘んで消した。

「もったいないじゃん、蝋燭」

「俺が買ってるんだから文句を言うな」

「そんなこと言っても節約しなきゃ」

うるさいな、と言おうとしてその言葉はアレクサンドロがよく言っていた言葉だと気がついた。猪口才な小娘め、と思い

「それはアレックスの真似か」

と言った。

「真似じゃないけど誰かが言わなきゃ」

とサラは答えた。カーティスは、ふん、と鼻を鳴らして答えた。

キアが

「新しい人、募集している?」

と聞いていた。

 カーティスには頭の痛い事柄の一つで、それを聞かれるのは避けて欲しかった。

「募集はかけているさ」

「人が来ないの?」

とサラが聞いてきた。

「応募はあるさ。ただ、代わりにならないだけだ」

代わりにならない、と言うのは、アレクサンドロの方なのか、カルメンシータの方なのか。多分両方だろうな、とサラとキアは思った。

「魔法剣士は大分珍しい職業だからこの際剣士と魔法師を入れる事にして、先に弓手を入れない?」

とサラが言った。

 弓手か。いい腕をしている弓手というのは魔法剣士以上に厳しい。取り合いがすごいのだ。パーティがちょっと落ち目になると、すぐ何処かに引き抜かれてゆく。カルメンシータはアレクサンドロに惚れていたからな、だからいい条件で引き抜きが来ても歯牙にもかけなかった。また、はぁ、とため息をつく。

「弓手の方が難しいんだよ。引き抜き合戦が激しくて、なかなかうちに居着いてくれない」

サラはうーん、と唸っていた。

「じゃぁ、剣士を入れようよ。魔法は、私が元素魔法覚えるから」

とキアが言った。

 何か、サラとキアは俺を慰めに来たのか。二人に慰められるなんて、と思うと、またため息がでる。

「カーティスは、アレックスとシータが出ていったら、途端にダメになっちゃったね。なんでリーダーなのに音頭取らないの?私たちカーティスについて行こうと思ってるんだよ」

「俺がダメになった理由か。それはな、アレックスがいたからだよ。アレックスが居れば俺も気が張る。アレックスには負けたくないからな。だから必死にリーダーやってた。奴が出て行った時、俺はこれで楽になれる、パーティを自由に動かせる、と思ったよ。ところがこの様だ」

と言い、カーティスは杯を呷った。

「カーティス、あんた飲み過ぎだよ」

とサラ。

「カーティス酔っているから、酔ってない頃にまたこよ?」

キアがサラに声をかけた。

「そんなこと言って、ここ二三日カーティス飲み続けじゃん、今言わないと」

とサラが答え、

「ねぇカーティス、キアのいう通り剣士を入れようよ。前衛3枚はちょっと変則だけど、軽剣士の遊撃手ならちょっと鍛えたらものになるんじゃない?」

とサラが提案したが、カーティスは

「遊撃手でアレックスの代わりか。そんなんで務まるかよ」

とカーティスは言った。

そのカーティスの手からキアが杯を取り上げた。

「返せっ」

と怒声を放って立ちあがろうしたが、足がもつれて尻餅をついてしまった。

「アレックスはな、最後の日、俺に負けるべきだったんだよ。そうすりゃ、俺だって自信を持ってリーダーやれたさ。でもな、奴が勝っちまった。俺はまだアレックスに及ばないんだ、と知ってしまった。だから自信を失った」

と、誰に聞かせるのでもなく言い

「頼むよ、もう少しだけ酒を飲ませてくれ。そうしたら復活するから、な」

と言った。

「わかった。もうちょっとだけ待つから、早く復活してきてね」

「私も待っているから」

とサラとキアは言い、戸口から出て行った。


「ねぇ、キア。カーティス復活するかな?」

「どうでしょう。私は時間は問題ないけれど、宿代が無くなって仕舞えばそれ以上は待つ事はできないわ」

「そうなんだよね、お金の問題」

サラはあーあ。と間の抜けた声を出し、それからキアに

「私たちだけで、新しい人選んじゃう?」

と言った。

「それは、ちょっと……カーティスが怒るかも知れないし」

とキアが答えた。

「やっぱり私がアレックスに付いて行けばなー。こんな目には遭わなかったし。絶対シータ、イカサマやってたよね。じゃなけりゃ、最後にあんなに良いカード出るわけないもん」

「そんな事を言わなくても良いのではないですか」

「どういう意味?」

「万が一のため、人を使ってアレックスの居場所を探しておけば良いのです」

「なるほど!着眼点が良いよね。アレックスの居場所を探そう。じゃぁアレックスに手紙を書いて、人を雇って。誠実な人がいいよね?」

「まだ早いですよ。カーティスが立ち直るかも知れませんし」

「そうだね」

「そうですよ」

二人は声を顰めて話し合っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る