第16話 魔法剣士、ルーンを学ぶ
御婆の庵に来てから一月が経った。この1ヶ月はいつもの1ヶ月とは少し違っていた。まず俺は、御婆からルーンの手解きを受けることになった。それから、御婆のうちの、細やかな畑の世話、その合間に食事を作ったりしていた。なんだかんだで、結構忙しい。
一度、片道1時間走って街に行き、2日ほど滞在して剣術の教師を探した。
結果は良くない。学びたいと思う教師が居ないのだ。何人かの教師にあったが、
ある教師には
「それは騎兵用の剣で歩兵が使う事はない」とまで断言されて、探すのを断念せざるを得なかった。
そんな訳で、今、俺は御婆のルーン文字レッスンのみ受けている。
御婆は、俺に元素魔法を教えている時より楽しそうなのだが、授業は厳しい。ルーン文字は、文字と銘と意味と発声が一致しないと使いこなせないらしい。覚える事は沢山有る。
ルーンを学び始めてから、俺は元素魔法の鍛錬をあまりしなくなった。何と言ったら良いのか、元素魔法とルーンは思考の仕方が違う様に思えた。だから、今はルーン魔法に集中するために元素魔法は少しの間お休み、となっている。
シータとは三日に一度位の割合で、一緒に狩に出かけている。あんまりルーンの授業ばかりだと、シータの機嫌が悪くなるからだ。狩猟に出かけた日は、夕方ごろマシュー一家が料理(と酒)を持って遊びにくる。
マシュー達がこんな山の中で何処から食材と酒を仕入れてくるのかと思ったら、街まで片道2時間かけて行っているらしい。マメな男だ、と思った。いや、食い意地が張ってるだけか?
早朝の薪割りをしていると、シータが起きてきた。俺を見かけると
「アレックス、今日はどう?」
と尋ねてきた。
どうと言うのは、狩猟に行けるのかと言う意味だ。もう前回から時間が空いたか、そう言えば肉はあらかた食ったな、と思いだし
「ちょっと御婆に断ってくる」
と、お婆のところに向かった。
御婆は俺が狩に行くと言うと、少し不機嫌になり、
「今日はこれを覚えてきな」
と、小さな紙にかいたルーン文字を俺に寄越した。森の中を歩きながら読んで覚えるのなんて無理がある、と内心で抗議したが、
「わかった」
と言って受け取った。声には出せない。怒らせると恐いから。
そんな訳で、俺とシータは、今森の中で狩りをしている。
俺たちは昼前に兎を3羽狩っていたので、そろそろ帰っていても良い時間だったのだが、シータがマシュー達の腹を満たすのに不安だ、というのでもう少し狩りを続けていた。
二人で下生えの中に潜み、獲物を探す。
と、シータが俺の腕を軽く叩き、注意を促した。直立した10フィート程の巨体で、筋肉質。腕は長めだが、全体のシルエットは猿よりは人間に近い。それを見てとった俺は、静かに退却する合図をした。
100ヤードほど後退すると、漸く口を開いても安全だろう、という空気になった。
「あれは何?前に見たことあるんだけど」
前に、と言うのはゴブリンを避けながら野営していた時のことだろう、
「前に焚き火をしていた時に遭遇したのがあれか」
「ええ、あれなんなの?幻獣?」
「幻獣というか、精霊だな。トロルだよ。人に姿を見られるのを嫌がるから、滅多に見かけないんだが。珍しいな」
俺の言種が、金になる、と含んでいたと勘違いしたらしい。
「あれの死体、街に持って行ったらお金になる?」
精霊だから普通の武器では傷を負わせるのは難しいのだが。
「ま、無理だな。トロルは再生力が並外れて高いんだ。指1本からでも再生する。街中に持ち込めば再生したトロルが大暴れする、なんてこともある。だから外から爪一枚持ち込むことはできないし、出来たら出来たで犯罪者だ。リスクが高すぎてリターンもない、手出ししないのが1番さ」
シータはふーん。と言いながら
「ねぇ、でもあのトロル、こっちに向かって来てない?」
そんな気もする。稀に人間に興味を持つ個体が居るらしいが。どうも精霊の考えることはよくわからないな。
「こっちも退却しよう。兎3匹取れれば十分さ」
とトロルから隠れる様にして後退したのだが。
トロルがこっちを向いた。右手には武器を持っていた。木を荒削りにしただけの粗雑な棍棒だ。トロルが武器を持つなんて聞いたことないぞ。
「まずい。捕まると厄介だ。逃げるぞ」
と二人で脱兎の如く逃げ出した。
しかし、森の中ではトロルの方が速い。忽ち追いつかれてしまった。
仕方なく俺たちは応戦することになった。今日は大物狩りが出来るかも、と思い全長5フィートほどのショートスピアを持ってきた。
トロルの剥き出しの胸部に1フィートのスピアの
普通はこれで、倒れるはずなのだがトロルは倒れはしたが、再び立ち上がってきた。
ま、そうなるよな。特異なトロルの再生力ならば、例え心臓を突こうとも再生だろうから。
絶望的な戦いが始まった。
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