第17話 魔法剣士、トロルと闘う

 トロルの胸を1突きしてから、奴は妙にスピアを警戒する様になった。傷は塞がっているのに、突かれた時に痛みでもあるのだろうか。

 試しに、棍棒を持つ右手や、空いている左手を突いてみた。やはり警戒されている。もしかして、殺せないとしても、追い払うことは可能かも。そんな戦闘から離れた願望を思い浮かべていると、トロルが横なぎに棍棒を振ってきた。咄嗟に避けたが、スピアを持っていかれた。

 くそ、油断した。スピアの行方を見ると今立っている場所から60フィート辺りに地面に突き刺さっていた。よく見なくても2本に折れているのがわかる。

 スピアはもう使えない。俺はブロードソードを抜いてトロルを牽制した。

 剣で突くため胴に入る事を考えたが、懐まで遠いな。

 今度は縦に棍棒を振ってきた。トロルは棍棒を振りなれていないのか、振り始めが丸見えだし、振った後の隙が大きすぎる。

 右手首に切りつけ、そのまま後ろに回り込もうとしたが残念ながら、足元が悪く機敏に動けなかった。しかし、背中が見えた。そして背中にあの忌々しい紋様も。

 あのゴブリン達が纏っていた何かの紋様だ。それがなぜトロルに?慌てて距離を取る。距離を取るときにシータが援護してくれた。トロルの喉に矢が突き立つ。トロルは明らかにシータの矢に苛立っているようだ。

 この間に戦術を考えなければ。トロルは、元々は樹木の精霊、もっと言えば森の精霊だ。だから本来を持つのはおかしいのだ。朽ちる倒木は森に還るものだし、生木を切り倒すなどもっての外だ。製材された木はどうなるんだろうな。良くわからんが多分森の輪廻から外れた物だから、若しかしたらトロルも構わず使うかも。

 しかし、俺の頭の中で、それは無いな、と言う声が聞こえた。製材だろうがトロルが木製の武器を使うこと自体あり得んか。しかもあの棍棒、切り出したばかりの生木だ。トロルが使う理由が二重にない。

 となれば、このトロルの行動は異常、と言える。

 横なぎに棍棒を振り回す。俺は少しでもトロルに近付き剣を振るう。やはり棍棒を振りなれている感じはしない。何かに操られているような、妙な違和感を感じる。

 魔法を使うか。トロルは木の精霊だから順当に行けば火魔法なのだが、森の中で馬鹿みたいに力の大きい火魔法を使いたくない。下手に使ったら森林火災を引き起こしてしまう。

 と考えながらトロルの攻撃を回避していると、金魔法と陽魔法が条件に合う気がしてきた。陽魔法は、ベースとなる元素エレメントは火と風、完全に樹木魔法と対立する。

 金魔法の元素エレメントは土と火だ。火の元素エレメントが樹木の元素エレメントである水が火と対立するため、金魔法が効果が期待できるのではないか、と思ったが。

 金魔法はダメだった。何故ダメと気がついたというと、俺の剣が著しく劣化、つまり錆びてきたからだ。今朝研いだ時には錆など浮かんでいなかったのに。これはトロルに剣が触れていたからだろう。おそらく水の元素エレメントによる侵蝕だろう。

 さらに言えば金魔法は相手が金属を帯びていなければ発動しない。この重大事を忘れてるなんてどうかしてる。

 そんな分析など今はどうでもいい。後は陽魔法だ。これが効かなければ、後は絶望的な戦いをして、死ぬか、運が良ければ、森から逃げ出せる。

 俺はシータ時少しの間、トロルの相手をしてくれる様に頼んだ。その少しの間に『カースド・フラッシュ』の呪文を発現する。

 『カースド・フラッシュ』は基本的にはある種の呪いだ。これは対象にした幻獣や人間に強烈な閃光を浴びせ、視力を一時的に、運が悪ければ永久に失わせる魔法だ。この魔法の呪いと言うべき嫌らしい点は、魔法が持続する限り、閃光を対象の目の前で発光し続けることだ。

 トロルは今、目が見えなくなっているはずだ。現に、閃光から左手で目を守っている。

それだけでは無駄なんだよな、カウンターとなる何がしかの魔法を使わないと。

 今のうちに退却しよう、とシータに告げる。シータも頷き、俺たちは森の外へと急いだ。

 幸いトロルは追ってこなかった。

 御婆の家への道すがら、俺はあのトロルについて考えていた。

 あのトロルはおかし過ぎる。トロルが生木を武器に使うと言うのがまずおかしい。木々や森の精霊だぞ?自分の拠り所を崩してなんになるのか。

 それから、俺たちに明確な殺意を持っていたこと。精霊の考え方なんぞ知らないが、トロルは無闇に殺生する精霊じゃなかったはずだ。

 はずというのは、俺が実際トロルを目にしたのが生涯2度目で、初めの遭遇では俺の姿を見掛けると、少し寄ってきて、それから何処かへ行ってしまったから、実際どのような精霊なのかわからない。

 トロルが気に入らない人間に合うと、魔法で森の外まで飛ばされるらしい。はず、だのらしい、だのが続くがそれ位判っていない。

 極め付けは、背中の焼き印だ。どう考えてもゴブリン達が関わっているとしか思えない。しかし、ゴブリンにトロルを従属させる事が出来るだろうか。俺は無理だろうと思う。ゴブリンに無理ならば、ゴブリンを従える魔法師や、呪術師の類がいるはずだ。

 それらを始末するのは、俺たちの仕事か?勘弁してほしい。誰かに話し、仕事で請け負ってくれる人を探す方がいいだろう。

 などと考えていたら、

 「ねぇ、さっきから黙りこくって何考えてるの」

とシータが尋ねてきた。別に隠すつもりもないので、俺が考えたことを順を追って説明した。

「つまり、アレックスはゴブリンの仕業、って考えているの?」

「少し違う。ゴブリンを手足に使う魔法師か呪術師が絡んでいるんじゃないかと思ってる」

「その魔法師なり呪術師なりって誰よ」

「わからないから今困っているんじゃないか」

シータはふーんと言ってから、核心をついてきた。

「それで、その仕事受けるの?」

「まだ仕事にもなっていないじゃないか」

「近日中になると思うよ」

俺は、出来ればそれは勘弁してほしい、と思っていた。

 取り敢えず、御婆に報告だな、それから、もし仕事になったら腕のいい幻獣狩りハンターを選んで仕事を依頼すると。そんなところだな。

そんな話をしていたら、シータは脈絡もなく言った。

「アレックス、サラとキア、ここに来るらしいよ。カーティスのパーティ解散したって」

「へ?」

何とも間の抜けた返事をした。

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