第21話 魔法剣士、ルーンの意味を知る

 取り敢えず、マシューの所へ鹿肉の半身を持って行った。

「これは大きな鹿肉ですね!どうやって調理しましょうか。お尻の肉はステーキにしましょうかね。脛はスープに良いですね。肋はスペアリブにしましょう。んー腹が鳴る。勿論昼食は食べていかれるのでしょうね」

というので、サラが二日酔いでまだ動けない、と伝えた。それから、皿が見つからない事をマシューに告げた。

「あー。昨日マシューが持ってきてくれた皿、洗っておいておいたんだけど、見つからないんだよ。すまん。家の中にあるはずなんだけど」

と俺が言うと、

「皿ならアレックスのお婆さんが届けてくれましたよ」

とリリアナが答えた。

 え?と思うと暖炉の端っこで御婆がハーブ茶を啜っていた。

「御婆、朝から姿が見えないと思ったらこんなところにいたのか」

「何じゃ、今頃来て。朝の薪割りは終わったのか」

「もうやって来たよ。それより何で御婆がココにいるんだよ」

余り出歩くことがない御婆がマシューの処に態々来るとは。

「お前、マシューんとこの食器洗ってて気が付かなかったのかい?リリアナ、食器を見せておあげ」

リリアナは食器の1枚を取り出し、

「これですよ」

と言って食器の裏面を見せた。

 ルーンの一文字が書かれていた。

「これがあったのでな、マシューの所へ持って来た。ちょいと教えてもらいたいことがあったのでな」

あー。これが何のルーンか、とか?

「あほう、お主に教えているルーン文字にあるわ。それよりな、何故食器にルーンが有るのか不思議とは思わんのか」

「まあ、そりゃ有るけどな」

「わしはな、最初は単に喜びという意味のルーン文字だと思ったんじゃ。所が……リリアナ言ってやれ」

「その文字は『ウンホ』ですわ。喜びと楽しみを著しています」

御婆はしたり顔をして、

「これは、現世のルーンではない、古のルーンエルダールーンじゃ。隠された神秘の意味は『力の調和』。今はな、何でこのルーンが丘人の食器に書かれているか、マシューに訊いていたところじゃ」

御婆が、暖炉の前で茶を飲んでいる理由が何となく判った。

 マシューの長広舌を聞いていて、疲れて一休みしていたところなのだろう。

「で、何処まで聞いたの?」

「昔からの習慣で、喜びと幸福の溢れる毎日を過ごすためこれを施すようになった、という話だったな」

「いつから誰が始めたの?」

「それはですな、大昔に旅人が訪れたのですよ、丘人の里に。丘人の里に旅人など久しくない物ですから、歓迎の宴を催しまして。それが3日間とも1週間とも言われていますな。それで歌を歌い、踊り踊って声はガラガラ足は痛んで歩けなくなり。そんな大騒ぎをしていたワシらに、宴を大層喜ばれましてな、それで『ウンホ』のルーンをワシらに授けて下すったんですよ」

「その旅の人ってどんな人だった」

「さー、そこまでは記憶に残っていないですねぇ。リリアナ、お前知らないかい?」

「そうねぇ、汎人より体は大きかったそうですよ。あとは、男性で、白髪と、そうそう、左目が悪いのか眼帯をつけていたらしいです」

ああ、それ、明らかに魔法師だ。名の知れた男だと思ったが、名前を忘れたな。そもそもなんで有名だったのか。

「で、それだけかの、伝わっているのは」

「ええ、申し訳ないけど」

と、リリアナが言った。

「じゃましたね、良い話を聞かせてもらったよ」

と、立ち上がりかけた御婆をマシューとリリアナが

「そんなに急いで帰らなくても良いでしょう。うちでお昼を食べていきませんか?」

いや、昨日の今日でご飯を頂くのはどうなんだろう、と思っていると、御婆が

「そうかい、それじゃご馳走になろうかね」

と言ったのでマシューの家で昼食を食べることになってしまった。

 そして、俺はシータ、サラ、キアを昼食に誘いに、御婆の庵まで戻った。

 訂正、キアはまだ精霊を操っている最中だった。キアを1人残していくことも気まずいし、万が一のことがあってはいけないので、俺とキアの食事は要らない、と伝えて、シータ、サラを送り出した。

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