第68話 魔法剣士、作戦を練る

 必要なものねえ。用意してくれるのはいいが、何が必要かな。この間ヒポグリフを捕まえ損なった時の装備をリストにしてみるか。

 まず、ヒポグリフを誘き出すとき使ったもの。 

 餌となる獣を追い出す勢子。

 ダメだな、既に他の人員が必要になってまう。コレはトラバサミを用意するしかないか。新品は金臭いからな、獣が避けてしまう。中古があればいいんだが。

 それから、幻獣と、その餌にとどめを刺すためのスピアを一二本、投げ槍ジャベリンを五本程。コレはあの時の、とどめを刺し損なった失敗を踏まえてのことだ。

 それから、ヒポグリフを呼んだのはキアの精霊術だ。キアが主に使う召喚術なのだろうが、風元素魔法に何か代用できるものはあるか?

 しかしなあ、キアはあの術で獲物を霊的に絡め取ってバインドいたぞ。やっていることが高度すぎる。キアの魔法については代用を考えるのは無理だな。今回は獲物の多そうな所で狩るしかないのか。絡めとること自体は肉体で良い。『アイヴィ・バインド』が使える。

 それから遠い間合いからとどめをさせる武器がいるな。スピアでは危険と判断した時の為だ。俺は弓が得意じゃないからな、自慢ではないが。大型のクロスボウと太矢クォーラルを用意するか。

 とすると通常の装備の他に、(中古の)トラバサミ、スピア2本ジャベリン5本、クロスボウ1つの太矢クォーラル20本か。

……ジャベリンは外すか?イマイチ使い所が思いつかない。通常の荷物も少し見直そう。

 あれもいらん、これもいらん、やっぱ必要、みたいな事をやって最終的に荷物は3分の2になった。これに数日間の食料が加わる。この荷物をリストする。尚武長官から荷物を返してもらわなければ。

 そう言えば尚武長官殿は、どうやって獲物の死体を運ぼうとしていたのだろう。荷馬車でも用意するつもりだったのか?確認をとった方がいいな。

 さて、後は狩場の選定だが。その前にグリフォンか、ヒポグリフか、どちらを狩るか決めなければならない。

 両方とも生息域が微妙に異なるからな、どちらかに絞らなければ、かえって獲物の縄張りから外れてしまう事になりかねない。

 少し悩んだが、今回はヒポグリフを狩ろう。単純な理由だ、グリフォンの生息地の岩山まで荷物を持って行きたくなかったからだ。

 ヒポグリフなら丘陵地帯を好んでいるのでまだ楽だ。それに前回の経験がある。その経験は現地での狩場の選定にも役立つだろう。


俺は警備兵に、必要なものを託けた。それと、忘れてはいけないのは地図だ。地図も頼んだ。地図は特に行きで必要になるからな、帰りはガイド・ポイントが使える。


 尚武長官殿には概ね1ヶ月と言われているからな、出発まで余り時間をかけたくない。4日後、発つ事にしたと、同じく託けた。


 次の日、早朝から尚武長官から呼び出しを受けた。

 部屋は最初に会った執務室だった。

「やぁ、いらっしゃい。昨晩はよく眠れたかな?」

 と相変わらず、目の笑っていない笑顔ではなしかけられた。

「はい、実の所狩りの準備と計略について考えていましたので、明け方に寝ました」

「ほう。それは悪いことをしたね。君に会うのはこの時間しか取れなかったものだから。ちょっとした話だから、部屋に戻ったら寝るといいよ」

「いえ、一度起きて仕舞えば眠気は感じませんから。お気になさらず」

「城詰の兵士などは、眠れる時に眠っておけ、などと言うけど、君は違うようだね」

「私共の相手は人ならぬ幻獣ですので、睡眠も幻獣と合わせて取らなければなりません」

「なるほどねぇ。幻獣狩りハンターというのも兵士と変わらぬくらい強靭でないとつとまらないと言うわけか」

「はい、その通りかと」

尚武長官は何かを考えるかのように顎をなで、指輪で机の天板をコツコツ、と叩いた。

「時に君、出立の日を決めたようだね」

「はい、3日後にトロイジャンを発ちます」

「必要なものは揃ったかね?」

「武具などは、やはり私の目で確認したく存じます。その他の荷物は私の荷物をお返し願えれば、と」

そこで尚武長官は考え込み、何かの書類に目を通した。

「君の荷物だけど。残念だけど発見できなかった。誰かが持ち去ったようだね」

との答えに俺はがっかりした。これはさらに1日、滞在が伸びるかもしれない。

「君が要望した武具以外の荷物は改めて警備のものの方へ知らせてくれたまえ。それで、武具はどうしたものかね?自分で選びたいとの事だが」

「はい、やはり、持って歩くには重く量があるものばかりですので。なるべく軽く、堅牢な物を選びたいのです」

「わかった、それでは城のものに君が選べるように手配しよう。他には?」

「その、尚武長官閣下は幻獣を運搬するときにどの様になさるおつもりなのですか?」

「今一度詳しく」

「幻獣の大きさはマチマチですが、グリフォンやヒポグリフなどはかなり大型の体格をしております。それをどの様に運ばれますか?」

俺は、この尚武長官にはひとつ、疑念を持っていた。この人が本当に得たい結果と言うのは、何であろうかと。俺の生死以上のものを欲しているのではないかという、感触があるのだ。

「なるほど、大型の獣では運ぶ事もままならないねぇ。時に君は幻獣を生かしてトロイジャンまで運ぶつもりなのかな?」

と聞かれた。まぁ、そんなつもりは毛頭ないのだが、尋ねられたので

「出来れば生かしたままで。しかし、それは難しいとも思います」

と答えた。尋ねたのは、単純な理由だ。俺が歩いて狩場まで行くのが嫌だったからだ。

「だろうね」

尚武長官はそう答えた。荷馬車を用意してくれるかな?そうしてもらえると有難い。

「それでは、荷馬車を用意しよう。御者もつける。君はゆっくりして、作戦を練れるわけだ」

尚武長官にはお見通しだったようだ。俺は肩をすくめてとぼける以外できなかった。

「そう言えば、忘れていた事を思い出しました。私の剣とワンドをお返し願いたく」

尚武長官は再び書類に目を通した。

「君の剣とワンドは此方で預かっている。だが私ならもっと良い物を支給できるけどね」

そこで考えてしまった。尚武長官のいう良いものというのがどの程度の物か。慣れ親しんだものが良いのではないか?と思う反面、良いものがあるなら有り難く頂戴した方がいいのではないのか?二つの思いに迷う。

 尚武長官はくすくす、と笑って

「君は慎重なんだね。くれるというなら素直に貰えばいいのに。わかった、剣もワンドも用意するからこれも確認したらいい」

「はい、ありがとうございます」

どうも此方の心の動きが読まれているようで居心地が悪いな。

「計画ではどの辺りに行く予定だね?」

「カディスの森の南端にヒポグリフの生息に適した地形があります。先ずはそこを目指そう、かと」

「ヒポグリフ狩りに決めたのかね?」

これは、なんで俺がヒポグリフに決めたのか訊いているんだよな、と思った。

「グリフォンの好む土地は険峻な所に巣を作りたがるものでして。1人で向かおうとするには、なかなかに厳しい場所と言わざるを得ません。もちろん、閣下が我々が幻獣にたいして、さしたる知識も無い、と思っているのは重々承知しております。しかしながらグリフォンの住処に関しては、何人もの幻獣狩りハンターが確認した事です。これにつていては間違いありません」

と俺は答えた。まあそうなんだ、グリフォンが巣を作りたがる場所というのをなぜ幻獣狩りハンターが知っているかと言うと

「何故ハンターはグリフォンの生息地を知っているのかね?」

と尚武長官が聞いてきた。

「それは、グリフォンの仔を捕まえ、うまく調教すると最良の騎獣となる、と言い伝えられているからです」

と答えた。そして、言ってから迂闊なことを言ってしまった、と思った。尚武長官がグリフォンの仔を欲しがったらどうする?俺は慌てて付け加えた。

「しかしながら、幻獣狩りハンターがグリフォンの仔を捕まえたという話は、ついぞ聞いたことはありませんね」

尚武長官はまたくすくすと笑い、

「安心したまえ、私がグリフォンの仔を欲しがることはないよ」

と答えた。心のうちを覗かれた様で少し恥ずかしい。

「では後ほど、衛兵を寄せるからその者から武器庫に案内してもらうといい」

そう、尚武長官は控えの兵に顔を向け頷いた。

「では、次に会うのは出立の時に。3日後だったね。それまではゆっくりしていてくれたまえ」

と言い、また書類に目を落としていた。俺は兵に連れられ、あてがわれた部屋に戻った。


さて、これでヒポグリフ狩に行けるか?

 

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