第69話 魔法剣士、準備をする

 俺は尚武長官の部屋を後にすると、衛兵に、武器庫に案内された。

 武器庫には大量の武器が、槍、剣、弓、弩、盾、鎧が並んでいた。

 そうだった、尚武長官に鎧を無心するのを忘れていた。

付き添いの衛兵に尋ねると

「好きなものを選ぶといい。其方が何を選ぶかは聞かされておらぬのだからな」

と言うわけで、俺は綿入防具ギャンベソンを一つ選んだ。胴鎧はどうするか。金属が擦れる音がするから金属の鎧は避けたいんだよな、獣に警戒されるから。

 これは後で考えるか。

 それから長手袋。袖に板金が貼ってあるのがいい。しかし、武器庫にあるのは普通の長手袋だな。まぁこれはこれで良い。期待はしていなかった。

 後は脛当て。これがあるのと無いのでは作戦の可否にも及びかねない。防御していない脛を打たれれば、其の儘悶絶するしか無いからだ。その間に逃げられるか、食われるか。そんな未来しかない。

 後はヘルメットか。以前にカーティスから被った方がいい、と言われたな。金属で光を反射するものはちょっと……厚手の皮帽子を選んだ。気休めだな。

 それからスピアだ。やはり2本持って行きたい。軽くて丈夫そうな物を選ぶ。

 しかし、丈夫さでは樫の木オークが最上だった。重いには重い。しかしながら、やはり、耐久性を考えると樫が一番良い、と言う結論になった。多少重いのは仕方ないな、相手は幻獣だ、下手なものを選んで折られでもしたら、目も当てられないからな。

 次は弩か。幻獣の止めを刺すのだ、半端な張りの強さのものでは止めを刺すどころではないだろう。大きく強くそしてほんのちょっとだけ軽い物があれば良いのだが。

 そう思って武器庫を見てみると、大きい物から小さいものまで揃っている。中には狩猟用の物まであるらしい。その中から大きさを違えた3種類選んだ。

 妙にでかい弩があった。人1人では抱えられない特大サイズだ。特大サイズのものバリスタは城攻めの時に、台に固定して使うためのもので、持って歩く様なものではない、と言われた。あれを撃てば幻獣と言っても一溜りもないと思うんだが。


気になった3種類の弩を並べ、これらを試射出来ないか衛兵に頼むと、衛兵は、俺を中庭に連れてきた。そして

「的はこれにしろ」と、金属製の使い古した胴鎧を置いた。

 先ずは軽い小型の弩から試してみた。40フィート辺りから撃ってみる。

 ……これはダメだな。鎧に凹みをつけることしかできない。幻獣には刺さりもしないだろう。必要なのは幻獣の心臓を撃ち抜く威力だ。

 次は一番大きな弩を試した。重いし、弦を引っ張るのに巻き上げ機を使って引っ張り上げないといけない。

 だが威力は十分だ。板金の鎧を紙のように打ち抜いてしまった。

 次はレバーを押し上げて弦を絞る弩だが。これも太矢クォーラルが板金鎧を打ち抜いた。これも威力十分だな。対象との距離40フィートでは最も重い、巻き上げ機式の弩と威力はさほど変わらない。しかも押し上げ器は、巻き上げ機ほど嵩張らず携行するのに無理がない。などと、少しの間考え、この弩を借りることにした。

 後は投槍ジャベリンか。今回は使い所がいまいち不明なんだが、後々何か思いつくかもしれない。要らないと判断したら荷馬車に置いておけばいいしな。取り敢えず5本、持っていこう。

 おれは適当な投槍ジャベリンを選んだ。気休めに過ぎないからな、選んだのは適当だ。

 と武器を選んでいると、もう1人の衛兵がやってきた。

「尚武長官閣下からの贈り物だ。受け取るがいい」

とその衛兵は言った。

両手の中には箱が一つ、あった。俺はその箱を受け取り、蓋を開けた。驚いた。ブロードソードがあった。鞘は百合と薔薇の意匠を真鍮で象嵌され、さらに磨かれた宝石をあしらってあった。

 剣を抜いた。素晴らしい意匠を真鍮で象嵌している籠付き護拳バスケット・ヒルト。剣身も美しい。曲がりもせず、磨かれたばかりと思えるような美しく光る剣身。シャープな剣先。

 バランスもいい。突き、切りやすい。

 俺は剣を鞘に収め、剣帯に吊るした。

 それから、箱からワンドを取り出した。このワンドも美しかった。12インチほどの黒檀の杖に持ち手がついている。持ち手の後端には透明なルビーがあしらってある。

 ところでそのルビーだが、内部に炎のような、踊る揺らめきの影が見える。このワンドは、まるで生きているような、そんな感触を得た。

 試しにこのワンドに少しばかり意識の力を込めてみた。元素への方向を定めない純粋な力だ。

 すると、俺の意識に反応するものがあった。なんだろう、と、思ってみてみると、一本の太矢クォーラルが光っていた。   禍々しい光り方ではない、薄青い清浄なる光だ。

 その太矢クォーラルを手に取ると、衛兵たちに見せた。

「この太矢クォーラルは?」

2人の衛兵はその|太矢《クォーラル>をひっくり返し、角度を変えて見、やがて

「これは先代の大公殿下の暗殺に使われた太矢クォーラルだ。魔法で見つけたのか?」

「ああ、反応したのはこの一本だけだがね」

2人の衛兵は顔を突き合わせどうしたものか、と相談していた。そこへ俺が、この太矢クォーラルが邪悪なものには見えない、寧ろ聖別してある武器に近い、というと

尚更混乱していた様だった。

「じゃぁ、俺がそいつを持っていこう。役に立つかもしれない」

と言うと、是非そうしてくれというので、矢筒に収めた。

 それだけの武器を選ぶと部屋に戻った。それから、衛兵に必要なもののリストを渡し、これらの荷物を持ってきてくれるように託けた。

 さて、武具は一応揃った。荷物が来るまではまだ多少時間があるだろう。

 シータ、キア、サラ、皆がここに居ればこんな淋しくやるせ無い気持ちにならないだろうに。今更ながら1人というのに心細くなる。

 女中が昼食を持ってきた。もうそんな時間か。女中が料理を並べる。戦地での食事よりだいぶ良い。これは、なんなんだろうな。おれは罰の決定した囚人なんだが。豪奢な部屋を割り当てられていて、比較的我儘を聞いてもらえる。

 我儘ついでにエールを頼む。すると女中は直ぐにエールを持ってきた。それも2パイントだ。飯を食いながらゆっくり飲もう。


 出立は、3日後だ。

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