第64話 魔法剣士、仲裁する
「おーい、待て待て」
と声をかけた。
遠くから見ていたのと違って、
「其方、檻に入れられたはずであろう。何故ここにいるか」
「其れは、このままにしておくと、下手をすると重装騎兵団と
それから
「止めろ止めろ、剣を納めろ。こんなことで死んでも名誉なことは何もないぞ」
と言った。
ヘルゼリアが、
「名誉とやらは関係ないね。私等の矜持の問題さ。アレックス、あんた何にも悪いことしていないんだろ?だったら何で抵抗しなかった?あんたほどの腕があるなら振り切れたはずだろう?」
と言った。言いたいことはわかる。それをやってしまうと本当に罪人になってしまうからやらなかっただけだ。
「暴れたら拙いな、と思ったからさ。其れに仲間のこともあるしな、取り敢えず、捕まっておくのが最善かと思った。まさか、檻に入れられるとは思わなかったが」
いつの間にか人が増えてきた。
皆ことの成り行きを見守っている。下手をしたら、重装騎兵団と
とにかく、この場を収めないと
「とにかく、
こうしてみると、重装騎兵と
それで軍監はどうしようとしているのか。
そう言えばアルファラス司令官の姿が見えないな。こう言う場合、真っ先に飛んでくる物だと思っていたが。俺は軍規には疎いからな、そこ等へんのことはよく知らない。
「アレックス、どうしたんだい?」
「いや、アルファラス司令官の姿が見えないな、と思ってさ」
と、ヘルゼリアに答えた。
「ああ、そりゃ。この騒ぎが貴族的な何かだろうからね。アレックス、あんた災難だね、貴族の何事かのとばっちりを受けたんだよ」
なんだそれ?とばっちりってどう言うことだ?
「あんた、勝ちすぎたんだよ。終わってみりゃあんたの指揮した正規歩兵団は快勝で、
と、ヘルゼリアが解説してくれた。
「馬鹿な、そんな事くらいで有罪の裁定などくださんわ」
と軍監が答えた。初めてこの場で軍監の声を聞いた気がする。
「と言うと?」
そこで軍監はまた黙ってしまった。
ヘルゼリアと目で頷き合い、
「あんたら、リーダー以外は下がんなっ。結果が出たら後で教えるよ。だから、今は大人しく待ってな」
と言った。先程200人以上で取り囲んでいた輪が今は30人ほどになった。
「生きた心地がせんとはこの事だな。まあ、よく下げてくれた」
「それで?何故アレックスが有罪判決を受ける事になったので」
しばらく沈黙した後、ため息を一つ付き、
「ディモトロスだよ」
「は?」
俺は意外な名前が出た事に思わず変な声を立ててしまった。ディモトロスって俺を虐めてた、今のマーシアの太守か。
何で今ディモトロスの名前がでる?
と思ったところでそう言えばディモトロスの奴、重騎兵100騎を連れて先行していたんだったな。キアが騎兵の姿が見えない、と言うからてっきり死んだものかと思っていたが。
「それで?ディモトロスがどうかしたか。仲間の遠見からディモトロスの姿は見えないと聞いたが」らてっきり死んだものと。
「ご存命だったよ、近習5名と共にな」
「後の95名は?」
軍監は力無く、ふっと笑い
「残りのものは討死したよ。それからどうなったかは聞かないでくれ、あまり思い出したくないのでな」
ゴブリンが死体をどう扱うかは知っているので、俺も聞きたくはなかった。
「ディモトロス殿下はな、大公家の相続順位4番、皇家の相続順位は7番に成る。所でフィオーラ殿下の大公家の相続順位は2番、皇家の相続順位は5番に成る。帝国では女帝や女大公など珍しくはないからな」
そうなのか?ここ23代は直系男子が継いでいたと思ったが。
「それでディモトロス殿下は、何故独断専行を?」
「解らんかね」
とまたふっと寂しげに笑い
「手っ取り早く功績を上げるためよ。類まれなる功績を上げれば、相続順位が上がるかも知れんしな」
ふーむ。で、俺は公女と公子の2人のダシに使われたと。
「それで公女殿下は自ら先陣に立つため、500の重騎兵団を率いてきたと。で、俺がうっかり歩兵指揮官になって、うっかり指揮権の移譲をしないまま、仲間の見舞いに行ってしまったと」
それがフィオーラ公女殿下の失点につながるとは。ディモトロス、相変わらず短慮だな。何故の失敗が公女殿下の失点に繋がると思う?
「そう言う事だな」
大きなため息が一つ出た。
「では軍監閣下はディモトロス太守殿下の派閥という事ですか」
「ことはそう簡単でもないな。軍監などと言っても詰まる所、単なる法律家だ。其方にどうしても泥を被ってほしい方がいたのさ。わしはその意向に沿ったにすぎん」
「そのお貴族様の名前は」
これ以上は言えんな。わしも命は惜しい」
そうか、これは大公家のお家騒動に巻き込まれた、と言うことなのか。
「それで。フィオーラ公女殿下がトロイジャンに向かいましたが。これも政争の一環ですか?」
「公女殿下は自由とは責任という土台の上にあるとお考えの方だ。それはあるまいよ」
つまり、俺のことについて責任を感じていたということか?それなら良い主君、なのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます