第63話 魔法剣士、護送される

 明け方、軍が出発した。トロイジャンに向かうらしい。掃討戦が中途半端に終わってしまったこともあるし、あのゴブリンどもは実は前哨戦の為の、只の先行部隊ではないのか、と言う懸念も有り、キアが見たという、塔の存在も気がかりだった。

 しかし、これ以上の戦闘継続は、確かに無理があるだろうな。軍の消耗が大きかった。

 重装騎士団は4割を超える騎兵を損失していたし、軽騎兵は5割を超えていた。幻獣狩りハンターは後ろに下がっていた、後衛は無事にしても、前衛は6割の損失を出した。

傭兵部隊は上手く立ち回ったようで2割から3割と言うところか。だが少なくはない。最もトロイジャンに向かえば人員の補充はできるそうだが。一番損害が少ないのは正規歩兵団だな。この隊の損害は1割に満たない。

 そんな訳で全体では2割程度の損害で済んだのだが。しかし、軍が最も重視する重装騎兵団の消耗がはげしく、これは1度再編成をしなければならない。

 弓手と魔法師等が無事なのは幸いだった。弓手と魔法師等と歩兵団は残していきたかったのだろうが。昨夜きた以上のゴブリンが来たら支えきれないしな。

 そうなれば、俺たち幻獣狩りハンターは虎の子の弓手と魔法師等を失うことになる。増援をトロイジャンから呼ぶか、軍ごと引き返して、増員して、再編成するか。やはり軍を引くのが賢明だろうな。

 俺が入った檻は最後列について、ようやく動き出した。

「アレックスっ、何やってんのよ、こんな所で」

シータもサラもキアも、俺が冗談で檻に入っていると思ったらしい。

見つかってしまっては仕方がない。

「逮捕されて有罪判決を受けた。だから、檻に入れられている」

と手短に、というか説明するのが面倒なので、だいぶ端折って言った。

「逮捕ってなんで?」

「逮捕?何の理由ですか」

「もうちょっと詳しく話して。面倒臭くなるとちゃんと言わなくなるのが、あんたの悪い癖よ」

はあ。まぁ、そうだよな。でもこれに関しては、俺だって納得いっていないのだ。

 3人にはちゃんと話した。俺の警護に4人の騎馬歩兵がついていたのだが、俺が話すのを止めようとはしなかった。俺は僅かな後悔と、大きな憤りを感じて其れを3人に伝えた。ああ、話を聞いている警護の騎馬歩兵にも聞こえたか。

 顔色をかえて憤激しているのは3人だけだが。それでも会話することを許してもらえるのだから、随分大目に見られていると言うことなんだろう。

 よくよく見ると、4人の騎馬歩兵の顔を知っていた。まぁ騎馬歩兵ドラグーン隊なら、知っている顔も多いだろうな。

 シータ、サラ、キア、の3人は俺の檻に付いてくることにしたらしい。気遣わしげな目を向けてくる。騎馬歩兵もキア達を追い払おうとはしなかった。

 昼になり行軍が止まると、何やら不穏な空気が流れ始めてきた。主に幻獣狩りハンターにだ。

 俺の処置に腹を立てた幻獣狩りハンター達のリーダーが軍監のところへ三々五々集まってきた。今回のゴブリン戦で生き残った猛者どもだ。

 やがて幻獣狩りハンターは、豪奢な椅子に座って良い飯を食べている軍監を取り囲み、威圧していた。

 ここからでは、何を言っているのかわからないが、碌でもない事になるんじゃないかと思った。

 軍監が何か叫ぶと、抜剣した重装騎兵が現れて、軍監の盾になろうとした。立ち去れとか何とか言ってるんだろうな、と思っていたら、幻獣狩りハンター達は抜剣してしまった。

 こりゃ治らないなぁ、と思っていたら他の幻獣狩りハンター達も剣を抜いていた。面白い余興が始まったと見たのか。

 血の激りがまだ忘れられない幻獣狩りハンター達は、そのまま戦闘に突入してしまいそうな勢いだった。

「おいおい、逃げないからちょっと俺を外に出してくれないか?あれは拙いだろう」

「確かに。副官殿をこのような場所に閉じ込める事自体がおかしい事だと、皆思っていますよ。ただ、それでも私も大公殿下の忠実な兵ですから、貴官を逃すことはできません。後ろから付いて行きます」

と騎馬歩兵の兵隊が言った。それはその通りなので、了承した。

「ところで、すまないけど足枷だけ外してくれないか?」

とお願いすると、4人は顔を見合わせ、仕方なしに足枷を外してくれた。

「手枷はこの際嵌めたままで良いだろう?」

と訊かれたので、

「ああ、構わない」

と答えた。

 さて、行って連中を宥めてくるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る