第65話 魔法剣士、内情を知る

 ヘルゼリアが割って入る。

「で?ここまで暴露したっていうことはアレックスの有罪を撤回してもらえるんだろうね」

と、言った。正直嬉しいね、こう言う人の情とは。

「いや、無理だな、如何に茶番な如き法廷でも、有罪判決が出て、記録にも残っている。覆すには公都トロイジャンで訴訟を起こすしかあるまいよ」

うん、大体わかってた。そうなるって。

「それで、なぜ、私は慣習法を破ってまで檻に繋がれたのでしょうか?」

「それは止ん事無お方から……いや、こう言う言い方はもう止そう。ディモトロス殿下の命だよ」

「ディモトロス殿下が此処におわすので?」

「先ほどまでな。もうトロイジャンに向けて立った」


 そうか、ディモトロスの奴また俺の邪魔をしくさってくれたのか。この代償、高くつくからな。


「そのディモトロスという御仁は何故アレックスを檻に繋ごうとしたんだね?見知っている訳でもないだろうに」

とヘルゼリアの問いに、俺は

「ところが俺はあいつを知っているんだ。子供の頃の話になるが、奴がいじめっ子で俺がいじめられっ子、そんな関係だった」

続きを促されたのでいつだったか、シータたちに話した内容の話を語った。

「大分手のつけられない悪ガキだったようだねぇ。最後にあんたが、ディモトロスをコテンパンに伸したのは良かったよ」

と言い、くつくつと笑った。

それで、俺はまだ檻に入れられたままトロイジャンに向かうのだろうか?

「それで私はまだ檻に入ってトロイジャンに向かうのでしょうか?」

と俺は軍監はに尋ねた。

「それについてか。其方よくも兵達の人心を掌握をしたな。正規歩兵団と軽騎兵団の兵士達からも白い目で見られておるわ」

忌々しげな目で言ったが、

「仕方ない、ディモトロス殿下もトロイジャンに行ってしまわれたしな。これ以上檻に入っていて貰う必要はないだろう」

結局折れてしまった。


喜んだ俺だが、一つだけ納得がいっていないことがある。ディモトロスの事だ。あいつら、なぜ俺を檻に繋げていたのだろうか?フィオーラ公女殿下への嫉み嫉みだけではあるまい。

「アレクサンドロ、其方が目障りだったのだろうよ」

「それはどういう」

軍監は人差し指を唇に当て

「これから話すのはわしの独り言だ」

と言った。

「ディモトロス殿下は、今の公妃との子でな、フィオーラ公女殿下とは母親が違った。フィオーラ殿下は利発な子でな、スクルト公子殿下が大公になったら、スクルト殿下の廷臣として、殿下を支えてくれるのではないかと期待する声が多かった。しかし前の公妃が亡くなられると、少し事情が変わった。ディモトロス公子殿下が生まれたのだな。

 ディモトロス殿下は、あまり出来の良い少年ではなかった。それでも大公殿下も殿下なりに可愛がり、良い施政者になる事を期待してマーシアの土地を授けた。ディモトロス殿下はそれを大層喜んだ……訳ではないな。領地を収めることに、なんの喜びも感じなかった。それどころか、田舎領地に隠遁させられたと思ってマーシアを疎ましく思っていたようだ。挫折感を味わったディモトロス殿下は今回の出兵に嫌に乗り気でな、勇んでトロイジャンに来たが、公女殿下の御出陣を聞いてな、あせったのだな、大公殿下の静止も聞かず出兵したらしい。今回の出兵が準備不足だったのはディモトロス殿下のせいだとの声も有る。ま、こうして公女殿下は株を上げディモトロス殿下は下げた。大公殿下はディモトロス殿下の独断専行に激怒してな、ディモトロス殿下もマーシア太守として一生縛り付けられるだろう。そんな訳でなディモトロス殿下のアレクサンドロ殿の収監はフィオーラ公女殿下へのちょっとした意趣返しだったのであろうよ」


「さて、ワシの独り言は終わりだ。お主ら戻った方が良くはないかな?」

それで幻獣狩りハンターはそれぞれのパーティのもとに散り散りに戻った。

だが俺は残り、俺の待遇面でもう一つ聞きたい事を質問してみた。

「それで、足枷は外していただけるので?」

「歩いていくのだから、当然であろう?それとも担いでもらった方がよいのか」

「いいえ、寛大な処置、有難うございます」

俺はパーティの元、には行かず警備の衛兵と共に檻付きの馬車近くで飯を食べる事になった。

 ボソボソの黒パンをマグに入った薄いスープで流し込む。少し惨めだな。泣きたいほどではないが。

 黒パンはすぐに食べ終わった。大した量をもらっている訳じゃないしな。

 食べ終わったら少し横になった。ほとんど寝ていないからな、出発まで少しでも体を休めたい。

 帽子を顔にかけて横になっていると、聞き慣れた声が衛兵と口論していた。サラが来たらしい。

「あれ?そんなこと言っていいのー?未決囚には面会も差し入れもできたと思うんだけどー?」

「だから、差し入れが問題なのではない、肉の刺さった焼き串が問題だと言ってるのだ。肉は焼き串を取って持ってくるように」

「ちぇぇ」

サラは何を考えていたのか、肉の刺さったままの焼き串を持ってきたらしい。そりゃあ、串なんてダメだよな、俺が衛兵だって同じ事を言う。

帽子と顔の隙間から、サラが何をしているのか覗き見ていた。どうやら焼き串から肉を外しているらしい。5本も6本もあるのか、手間取っている。

「はい、これで良いでしょ。じゃ、アレックスに面会させてもらうね」

と、手に持っていた、焼き串を衛兵に手渡すと、俺の方に来た。衛兵は、焼き串の処分に困っているようだった。金属製だしな。変なところには捨てて置けないだろう。

「なに、アレックス、寝てるー?」

「起きてるよ」

といって俺は顔に被せてあった帽子を取った。

「なんだ、差し入れか?」

と尋ねると、焼いた肉の匂いがした。

「マトンか。美味そうだな」

ここでマトンを選んでくれるとは大分気を使わせたかな、と妙な感情をもった。

「悪かったな、手間をかけさせて」

「いいよ。それより早く食べてよ、冷めちゃう」

わかった、と言う間も無く、俺は肉を食べ始めた。なんかこう、一つ一つの肉片が大きいな。食べ応えはあるんだが。


 などと思いながらサラに目を向けると、

「その、ヘルゼリアから聞いてさ、アレックスのこと。いま、アレックス、大変なことになっている、って聞いて。でも私バカだからさ、こんなことしか思いつかなくて。ごめんね」

と言ったサラの目から涙が滲み出ていた。

「サラ、気にすんな。下手をこいたのは俺のせいだから。涙を拭け。サラは十分にしてくれたよ、有難う」

と言った。さらは鼻をぐすぐす言わせながら

「うん」

と答えた。

暫く話をした後、名残惜しそうにサラは帰っていった。俺だって名残惜しい。

 こうしてサラやシータやキアに会えるのもトロイジャンに着くまでの間だろうな、と予感していたからだ。

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