第10話 魔法剣士、西に向かう

 やがて掘り終わると、墓穴の中に遺体を横たえさせた。頭と体はマシューの記憶で合わせた。頭のない遺体もいくつか有ったが、そのまま埋葬するしかなかった。土をかけ、墓の体裁を整えると、マシューがリリアナと子供達を呼びに行った。

 あんな遺体、女子供には見せられないからな。

 俺は5人と共に黙祷した。それから、マシュー達に、これからどうするか、尋ねた。

「アレックスのお婆さまは街の中に住んでいるのでしょうか」

「いや、森の中で1人で暮らしているよ、多分」

「多分ってなんですか」

「御婆、たまに他所の人の世話してたりするんだよなあ。主に子供だけど」

マシューは暫く考え込み、リリアナと相談を始めた。

 朝日が鬱蒼とした森の中にも差し始めてきた。出発には少し遅い時間かも知れない。だから、マシュー達がどんな結論になるのか気になった。

 やがて、マシューはこちらに向かい、

「もしよろしければ、アレックスのお世話になってもよろしいでしょうか」

と言った。

「そう言ってくれて嬉しいよ。出来ることはするから安心してほしい」

俺はマシュー達が頼ってくれて安堵した。マシュー達とここで別れてしまうと、彼らの行方を心配してしまいそうで、精神衛生上よくない気がするのだよな。

 俺たちは、西に進む事にした。カディスの森の終わりを目指すなら西だ。この獣道を使っていくと、何れ東へ出てしまうので、別の道を探さなくてはならない。俺は剣を振るいながら、草を薙ぎ、雑草の生い茂る道なき道を進んだ。

『ガイドポイント』が使えればもう少し楽な道を確信を持って進めるんだが、今は無理だ。とてもじゃないが魔法を使う気力が湧かない。

と言うより剣を振るうのも億劫だ。兎に角体を動かすことさえ酷くだるい。

そうして、暫く歩いて、

「シータ、西に向かっているかな?」

「森の中は太陽の位置がわからないからねぇ少し見てくるよ」

そういって手近の木に登り始めた。流石に早いな、シータが降りてくるまでの間、おれは腰を下ろして休んだ。少しでも体力を回復させないと、途中で動けなくなってしまう。

 軽く居眠りをしたせいか、シータが降りてくるのに気がつかなかった。

「大丈夫?」

と声をかけられて目が覚めた。

「ああ、うん」

伸びをして立ち上がった。

「どうだった」

「西に向かってるわ」

「それは獣人の感?」

「獣人の感覚ね」

そうか、と言い藪を薙ぐ作業を再開した。

 シータが代ろうか、と言ってくれたが、弓手が前方にいるメリットが無いし、ゴブリンや獣と偶発的遭遇をした時に俺の方が対処しやすい。だから、「大丈夫だ」と答えた。

「無理しないで、辛くなったら言ってね」

「ああ」と答えた。

まずいな、眠気と疲れで呂律が回らなくなっている。


 俺はとうとう立ち往生してしまった。剣を振ろうにも腕が上がらないのだ。それに脚が前に進まない。息も上がっている。これはまずい、と思い水筒から水を飲んだ。それでも足はピクリとも動かない。

異変を感じたシータがやってきた。

「大丈夫、じゃ無いわね」

シータは適当な広さがある空き地を探して、俺とマシュー達を連れて手を引いて、そこに連れて行ってくれた。

「寝不足で魔法を使ってあれだけ戦えば無理ないわよね。今日は此処で野営する事にしましょう」

「だけど、まだ明るいぜ」

との言葉に反して、俺の体と意識はここで休まることに安堵していた。

「アレックス、アンタ傍目から見ても倒れそうよ。ちょっと寝て、しっかりして」

「わかったよ。夜半になったら起こしてくれ。夜番を代わる」

と言った途端、すぐに眠りに落ちた。


 何か嫌な夢をみて目を覚ました。周囲はまだ暗く、小さな焚き火が唯一の光源と言ってよかった。

「目が覚めましたか」

よく見るとマシューが火の番をしていた。

「やあ、マシュー」

というと俺は伸びをした。

「火の番をしてくれていたのか」

そう尋ねた俺に、マシューは、

「そうですね、夜半から起きていました」

あれ、シータ、マシューに夜番なんかさせたのか。暫く無理じゃ無いかと言っていたのに。とチラリとシータの方を見た。

「私が夜番をやるとお願いしたのですよ、シータは最初反対していましたし」

そうか、と俺は言って

「日が昇るまで後どれくらいかな」

とマシューに尋ねた。

「もう夜明けのようです。もう少ししたら森の中にも日が差すでしょう」

「よくわかるな」

「そりゃだって、私の腹が朝飯が欲しいってぐうぐうなってますから」

こんな大変な思いをしているときに、ユーモアを忘れないマシューを好ましく思った。

 シータが目を覚まして、リリアナと子供達をマシューが起こした。俺の口糧を皆で分けてたべ、西に向かって移動を再開した。

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