第9話 魔法剣士、立ち向かう
シータと俺は木立に隠れ、様子を伺った。先ほどの仲間割れは終わった様だが、死んだゴブリンの死体を集めて持ち運ぶように、先ほどの大柄なゴブリンが指示を出していた。ゴブリンどもの死体は5匹程度。仲間割れが意外と早く終わったことに少し落胆した。
あの大柄なゴブリンを先にやるべきか。あいつが指揮官ならそうするべきだろう。
俺は、シータに身振りで合図を送り、大柄なゴブリンを狙うように指示した。
シータの矢が矢羽の音を鳴らしてゴブリンに突き刺さる。だが致命傷にはならなかったようだ。俺はワンドを右手にもち、『ストーン・ブラスト』を大柄なゴブリン指揮官にかけた。
カーティスにかけたような小石ではなく、2ポンドかそれ以上の大きな礫だ。残念なことにこの大きさの礫は10個程しか飛ばせない。もっと修練を積んでおけばよかったか。今更悔やむ。
『ストーンブラスト』は思いの外良い結果を出してくれた。ゴブリンの指揮官が昏倒したのだ。23匹のゴブリンが、ゴブリン指揮官に群がり、ナイフで刺したり、噛み付いたりしていた。あの指揮官を食べるつもりだろうか。怖気が走る。
その他のゴブリンは恐慌状態に陥っていた。指揮官が倒れたのだから当然だろう。恐慌状態から立ち直る前に決着をつけなければ。
シータの矢がゴブリン達の目、喉、心臓に突き刺さる。俺も呆けて見物している場合ではない。もう一度『ストーン・ブラスト』をかける。今度は先ほどの礫の半分くらいの大きさだ。その代わり、もっと量を増やす。30ほどの礫がゴブリンを襲う。『ホーミング・ホーネット』も重ねがけをして、ゴブリンどもに執拗に襲い掛かる様にする。
ゴブリンども、半分くらいには減ったか?生憎と俺の魔法は種切れだ。かけようにも気力が湧かない。
そう、魔法をかけすぎると疲れるのだ。これは体を動かした時に感じる疲れではなく、意識の倦怠感だ。眠れば回復するのだが。
シータと俺で10匹以上のゴブリンを相手にするのか。
ワンドをしまい、剣を抜く。
萎える闘争心を大声で気合いを発し自分を鼓舞すると、何匹かがびくり、と反応する。
手近にいるゴブリンに突撃して鳩尾を狙って突く。剣を引き抜きざま捻る。これでこのゴブリンは死ぬ。次のゴブリンに狙いを定めると、突然ソイツが昏倒した。
そうか、マシューの投石か。少し光明が見えた。マシューの表情までは見えないが、これはマシューなりの復讐なのかも知れない。
重い腕を必死に動かし、ゴブリン達の相手をする。シータも弓で援護してくれる。マシューの投石は的確だ。もしかしたら百発百中じゃないか?お陰で10匹以上いたゴブリンどもが、あと数匹となった。
その数匹が、俺の方へ雪崩を打って突っ込んできた。くそ、どうする、と瞬間考えた俺は武技を使った。瞬間に俺の体は消える。そして姿を表すと背後からゴブリンの1匹を突き殺す。そしてまた姿を消して、もう1匹突き殺す。それを都合5回繰り返した。
『フェイ・ステップ』。これがこの武技の名前だ。
『フェイ・ステップ』は初めの1歩をフェイの領域に入り、次の1歩で、現世に現れ、さらに次の1歩でまたフェイの領域に入る。これを5回繰り返す。フェイの領域には1歩分しか止まれない。
昔話で『フェイ・ステップ』で、フェイの領域に留まり続けた結果、ついに現世に戻る事はなかった、などと言う話を聞かされたらそんな事、考えることもないよな。
残りの1匹をマシューの投石で打ち倒し、シータの矢が止めを刺した。
さて、ゴブリン共の止めを刺さなければならない。40匹を超えるゴブリンへの止めだ。数が多すぎてしばし呆然となる。もうこの場でへたり込みたい気分だ。
「私がやるわ。矢も回収したいし」
「すまん」
そうは言ってもシータに全て任せるわけにもいかず、俺も少し手伝った。
止めを差し終えるとまだやるべきことが残っていた。20人を超える丘表村の死者だ。
20人の遺体を抱えて歩いて丘をゆくことはできない。かわいそうだがここに埋葬していくしかない。
マシューにそう伝えると、マシューは
「仕方ありません」
と長い沈黙の後、納得してくれた。俺は自分の荷物の中からスコップを取り出した。墓を掘ろうとすると、シータが止めた。
「その前にアレックス、体の状態を見せて」
「状態って……」
「傷を負ってるかも知れないわ。それなら手当しなきゃ」
俺は大人しく鎧を外し、シャツを脱いだ。
「大きな傷は……無いわね、小さい引っ掻き傷と、ちょっとした切り傷だけね。打撲痕も無いわね。これならすぐ良くなるわ」
と言って傷に薬を塗り始めた。
「小さな傷なんだろ?そんな大袈裟にしなくても、薬がもったいないぜ」
「ダメよ、小さな傷が元で死んでしまうこともあるんだから」
そう言うので、治療を任せた。さて、次はやらなきゃならないことをしないと。
俺は墓穴を掘り出した。20人分の墓穴を掘るのは骨が折れた。肉体の疲労で頭がくらくらした。起きているのに夢を見ている感じだ。いや、なかなか説明が難しい。兎に角掘った。
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