第73話 魔法剣士、巨獣を狩る その1
アレが夜目が効かないなら、まだ勝機がある。どうにかして足止めをして、武器なり魔法なりを叩き込めばいい。その為にはあと2時間、逃げ回らなければならないと言う事だが。
あと2時間で夕闇が来る。そうすれば、アレも寝床に帰るだろう。そうすれば、アレの行動を制限するような手が打てる。カースド・フラッシュやサウンド・ブラストを使えば視覚と聴覚を奪える。本当に奪えるかは、アレに効くかは、わからないんだが。
走りにがらそんなことを考えていたら、危うくアレの爪につかまれるところだった。
あぶない、今は逃げることに専心しよう。
唐突に気が付いた。アレは利口だ。全く気がつかないうちに俺はアレが薙ぎ倒した木々の中にいた。つまり俺は邪魔な倒木が障害物になって動き辛くなっていて、一方アレは動きの鈍くなった俺を捕まえやすくなった、と言うことだ。オマケに頭上には木の枝がもう無いと来ている。
俺は死を覚悟した。荷物を下ろしスピアを構える。たとえ一刺しでも、と思ったが、アレは周りを飛び、一声鳴くと巣の方へ帰っていった。
俺はどう言うことだ?と思うと同時に、夕闇が近づいたいることに気がついた。そうか、やぱりアレは夜目が効かないのか。俺は荒い呼吸をしながら思った。
どうする?アレから逃げるか?ここから逃げるとして1夜。夜道をいくとして、20マイル余りか。20マイル、逃げ切れるか?だが、明日の朝、アレが追いかけてきたら?絶対に
逃げ切るのは無理だ。
今日は夕暮れ近くで助かった。だがそれは、時間に助けられただけだ。もう少し長引いていたら死んでたのは俺だった。
やろう。
そうと決まったら夜の間にしなければならない事がある。まず、俺が罠を設置しやすい場所にアレを誘き出す。
餌は俺だ。というか、色々考えた末、俺以外に奴の興味を引きそうな餌はないだろうと思った。
それから、俺がここにいると言う証拠に小便をアレのテリトリーの中で円形にした。
それから、俺の周りに
次にやるのは、アレに近付き、聴覚を潰す。アレが俺の動きに目を覚さないギリギリの所から、【サウンド・ブラスト】を投射する。突然の大音響でアレが混乱している隙に、【カースド・フラッシュ】の魔法を投射した。これで、アレの視覚を潰した。しかし、【サウンド・ブラスト】はヤバかったな。俺まで驚いてパニックになる所だった。
さて、どうするんだ、ヒポグリフ擬きよ。お前が向かったそっちには、俺はいないぜ。こっちに来いよ。などと思いながら、上腕ほどの長さの投槍器に
返って怒らせたようだ。だが、アレの嗅覚は奪っていない。俺の匂いに気付いたら、その痕跡を追って来るだろう。俺は
アレがこちらに来た。膝が震える。嫌な汗が滴る。アレは恐ろしい怪物だ、だが、立ち向かわなくては。
アレがこちらの方を向いた。小便と汗の匂いを嗅ぎ取ったらしい。そろりそろり、と、ゆっくり動いている。少しづつ近づいて来る。アレの鼻を鳴らす音が聞こえる。1フィート手前で俺の位置がわかったようだ。
アレの前脚の構造を考えると、前脚を横に振るうような攻撃は出来ないはずだ。しないはず、多分。しない。されたらここに誘き寄せた意味がなくなる。そして俺は想定外の攻撃を受けて大怪我をするか死ぬ。碌でも無いような事ばかり考えてしまうが、絶体絶命の危機なのだ、さまざまな事が頭をよぎる。
槍の石突を地面に突き立て、穂先を上に向ける。
アレはこの、円の内部、つまり俺に向けて4本の後脚で立ち上がった。狙い通りだ。
俺はアレの心臓の辺りを予想して、槍の穂先を立ち上がったアレに向けた。アレが俺を押し潰しに来れば、勝機はある。
アレは俺を押し潰しにきた。
勝った。
そう思った。槍は胸の辺りから胸骨をするりと抜け、恐らく心臓に向かったはずだ。もし心臓を外したとしても、内臓の重要な器官に損傷を与えているはず。何しろ、槍が手元の1フィートを残し、突き刺さっているのだ。これなら勝ったと思うだろう、普通なら。
しかしアレは違った。まだ動く。動きは先ほどよりは鈍くなっているが、兎に角動いている。
俺はもう一本のスピアを握った。止めを刺さなければ。と、俺は気が付いた。【カースド・フラッシュ】の効果が消えている。この分では【サウンド・ブラスト】の影響からも、アレは回復しているとみるべきだろう。
後はアレが鳥目だと言うことに賭けるしかない。
アレはそろそろと、俺の書いた円を右回りする。【カースド・フラッシュ】の効果が消えても、暫くは視力は回復しない。だから、いまかけ直すのは無駄に魔法を使う事になる。しかもあれには鳥目疑惑がある。いま、『カースド・フラッシュ』を掛ける意味はないと判断した。それにしてはアレはなんで俺に合わせて動けるんだ?
決まっている、聴覚か嗅覚のいずれか、または両方だ。
不味いな。元素魔法を投射するための時間がない。俺がアレに合わせて正面に立っているからアレも慎重になっているんだ、魔法をかけるために動くのをやめたら、襲いかかって来るだろう。
で、どうする。このスピアで戦うか?自慢じゃないが、俺の槍術は我流で、しかもそれほどうまいわけじゃない。ましてや幻獣相手に槍で戦った事はない。
だが考えている暇は無い。やれる事をやろう。
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