第3話 魔法剣士、パーティを追放される

 森で一晩野営をした後、俺達は街に戻って来た。

 街で宿を取ると、馴染みの商人のところへ向かった。ヒポグリフの翼を買い取ってもらうためだ。こういう渉外は何時も俺の役だった。金勘定と、商人との交渉が出来るのがパーティに俺しかいないため、そうなっていた。

「頭はないので?」

「翼二枚と黒熊の胆嚢、それが全てだ」

今日は獲物が少ないので強気で行くことにした。其れでも値を釣り上げるのは相当難しいと思った。

「ふーむ。頭がないとねぇ。頭があれば7000シュケルで買い取れるのですが。そうですねぇ、ヒポグリフの翼2枚、黒熊の胆嚢で1500シュケルという所ですね」

「いや、ちょっと待ってほしい、それではだいぶ値切られているぞ。大体、ヒポグリフの羽にしたって、魔道具やら工芸品に加工できるだろう。3500シュケルだ」

「ふーん。強気の交渉で値を吊り上げようとしても得るものが少ない事だってありますよ。2000シュケルで」

と商人は目を瞑った。

「それは、判っているさ。しかし、今回は金がいるんだ。2800」

そう、俺はここで役立って見せないと、パーティ、もっと言えばカーティスから見切られるのではないかと恐れていた。

しかし、値を吊り上げようとしても、商人は目を瞑ったままだ。これは、駄目だな。

「判った。2000シュケルでいい」

商人は瞑っていた目を開き、見習い商人を呼んで、金の詰まった袋を持ってこさせた。銀貨200枚で2000シュケル。銀貨の種類は、まぁ色々だ。地域も年代も違う。つまり質も違う事になる。

 俺達はお得意様だから質の悪いものを混ぜているとは思えないが。

 2000シュケルを抱え、宿に戻ると広間でメンバーが待っていた。俺は済まなく思いながら、2000シュケルを皆の前にだした。

「一人400シュケルか。ま、そんな所だと思ったけどよ」

「すまん」

「宿代4泊分かー」

サラに言われると心に突き刺さる。

「私もアレックスのバインドがかかっていたから、精霊を解放してしまったから……」

キアは、そう言った。400シュケルで納得する、という意味なのだろう。

シータは無言で400シュケルを取った。

俺とカーティスも其々400シュケルを取った。それからカーティスは酒場に向かいかけ、思い出したように

「アレックス、お前も付き合え」

と言った。正直カーティスとサシで飲むのは遠慮したいのだが昨日今日の数々の失敗でカーティスの誘いを断り辛くなっていた。

「判った。どこへ行く?」

「あそこの角の角打ちパブでいいだろ。一杯目は奢ってやるよ」

それは豪気なことで、と思ったが何も言わなかった。

角打ちパブに着くと1卓のテーブルに陣取り、カーティスは2パイントのエールを2杯注文した。困ったな、俺はエールが苦手なんだ。特に量を飲まなぎゃいけない時は、飲んでいるうちに腹が膨れて苦しくなってしまう。と言ってこの状況では飲まないわけにもいかず、仕方なくちびりちびりと飲み始めた。

 そんな俺の様子にカーティスは何も言わなかった。しばらく無言で飲んでいたが、やがてカーティスが口を開いた。

「アレックス、お前幻獣狩りハンターになって何年になる?」

「お前と同じ時期からだよ、カーティス」

カーティスにはそう答えた。故郷で幻獣狩りハンターめいたことを2年ほどやっていたことは黙っていた。

「俺が剣闘士養成所を出て幻獣狩りハンターになってからだから、そうか、4年か」

と呟くように言った。

「ならパーティを組んでから4年弱か。考えてみたら長いな」

と俺が言う。

「どうだ、4年間で少しは自分が何か成長したことはあるか?」

カーティスの言葉に、思わず言葉が詰まった。何故カーティスはそんなことを言い出したのだろう。

「さあな、毎日必死だ。成長した感じなんて考える隙もない」

そう、答えるしかなかった。

カーティスは言った。

「俺は愚直に盾を使い、盾に隠れながら剣を突き出す戦法しか知らなかった。養成所ではもう少し色々教わったがな、俺が覚えたのはそれだけだった」

そして、羨望のこもった声で

「俺はな、4年前、お前が羨ましかったよ。お前はなんでも出来て、なんでも知っていた。お前がいれば仲間も集まる。シータ、サラ、キアみんなそうだ。あいつらはお前の手柄だ」

と言った。

 俺は意外な気持ちになった。カーティスが俺の事をそう評価している事に対してだ。確かに最初に出会った時のカーティスには俺に対して遠慮がどことなくあった。其れを羨ましく思っていたとは。

「だがな、アレックス。今はもう立場が違う。俺はパーティを守らなけりゃならない義務がある。嘗てはお前がやっていた役割だ。だがお前は戦闘の中で自分を高める事を忘れた。俺はそれがとても悲しく悔しく、そして喜んでいる。お前が慢心している事をな」

とカーティスは言った。

 そうか。俺はそう見られていたのか。俺は日々に埋もれる事なく、鍛錬を続けていくべきだったのか。

カーティスが

「どうした、もっと飲めよ」

と言った。俺は苛立ちと諦めと後悔を飲み込むように、エールを喉を鳴らして飲んだ。やはりエールは苦手だ。

「アレックス。お前、幻獣狩りハンターを辞めろ」

唐突にカーティスが言った。やはりその話が出るのか、と思った。そう言われるのではないかと思っていたが、今日だったとは。これぞ青天の霹靂。

「もう、お前のパーティでは俺は必要ないか」

「俺は、パーティを辞めろと言ってるんじゃない。幻獣狩りハンターを辞めろ、と言っているんだ。このままじゃ、近いうちにお前死ぬぞ」

そう言うことか。俺が不要と判断したのではなく、適性が無いと判断したのか。伊達に4年間共に闘っていたわけではないな。

「判った。取り敢えずお前のパーティは辞める。だが幻獣狩りハンターを辞めるかは今は判断がつかん。もう少しゆっくり考えさせてくれ」

カーティスは頷くと

「それで良い」

と言った。

「なあ。俺はそんなに弱いか」

とカーティスに尋ねる風でもなく呟いた。

「試してみるか?」

カーティスは俺の呟きにそう返した。

その言葉に俺はハッとした。俺は自信を失いかけている。失いかけた自信を取り戻し、自分を立ち直らせなければ。

「稽古をつけてくれるかい?」

俺はカーティスにそう尋ねていた。

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