第23話 魔法剣士、昔話をする

 サラは、

「アレックスがそんなに人を口汚く罵しるなんて初めてだよ。ディモトロスってどんな人なの?」

と、アレックスに聞いた。

どんな人なの、って難しいな。俺が罵った言葉に収束される……と言っても伝わらないか。

「つまらん昔話だけどそれでも聞きたいって言うなら」

「ちょっと聞いてみたいな」

「ええ」

「私はちょっと森に行ってくるわ」

「それじゃ、聞きたいのはサラとキアだな。じゃ話すぞ」


 下に里があるだろ?あそこは昔、俺の遊び場だったんだよ、御婆と爺さんに森に入るのを止められていてな。

 里の名前ねぇ……聞いたことはないな。里と言えばここら近辺では通じるからな。昔はもっと海よりに村があったらしいがな、何でかこちらに移住してしまったらしい。細かい話はよくわからん。この話をしてくれたのは爺さんで爺さんは今いないからな。


 でだ、里で遊んでりゃ、その内同年代の友達もできるだろ。で、俺にもできた。だから、そいつらと一緒に遊んでたわけだ。もっとも、俺は魔法と剣術の稽古があったし、里の子供たちも何かの仕事をしていたから、ちょっと遊んで、暗くなる前に帰る、ってのがいつもの事だったな。


 ディモトロスが出てこない?判ったよこれから出すよ。

 初めてアイツと出会ったのが俺が6歳か7歳くらいの時かな。向こうも大体、似たような年だと思うよ。冬の間の避寒地だったそうだな、この里。教会のそばの荘園に大公殿下のゲストハウスが有るって、後で知った。それで、暖かくなるまでこっちに居る、って事だったらしい。

 偉そうに踏ん反り返った野郎が手下を連れていきなりやって来て、王様ごっこを始めるんだからな、王様はもちろんアイツ。家来は手下ども。俺たちは村人1、2、3……とかな。俺たちはそんな遊び、したくはないから立ち去ろうとするんだ。そうすると手下どもが無理やり。理屈も道理もなかったな。


 それで毎日王様ごっこをするわけだ。で、ある日、川で溺れる村人を助ける王様がやりたい、と言い出してな。1番小柄な子を川に落としたんだ。アイツ、水深がくるぶし程度だと思ってたんだろうな、突き落としたら深すぎて、その子が流され始めたんだ。

 ヤバイと思ったね、いくら避寒地とは言え、川の水はめちゃくちゃ冷たい。すぐに体温が低くなりそのまま死んでしまう。すぐに村人123、俺ともう1人が川に入り、もう1人がロープを持ってきて、もう1人が大人に知らせに行った。必死だったよ。幸運だったのは水深がそれほど深く無かった事かな。俺ともう1人の村人1は子供を確保すると村人2が持ってきたロープに捕まって溺れた子を引き上げたさ。その間、あの馬鹿も取り巻きの手下どももぼーとみてるだけ。何の役にも立たねぇ、むしろ居るだけで害悪だ。

 この話には後日談があってな、イエナ大公から救助した人間に褒章が出たんだが、なんと!それをもらったのがあの馬鹿の一行だったんだ。つまり、里の大人たちを脅して、自分が救助したことにしたわけだ。それで大層喜んだらしいぞ、大公殿下は。


 あとはだな、王様ごっこで戦争ごっこををやった時だ、俺たち村人123は今回は兵隊123になるんだ、勿論敵役だ。手下どもが兵士役をする。

 で、王様が兵士に命令するわけだ。敵兵を討伐せよ、とかな。それで手下どもの持っている木剣で俺たちをぶん殴るわけだ。いや、たまらんかったわ。それで逃げてもどこに逃げるんだ、て話になるし。何しろ里の大人たちはあの馬鹿どもを諌める事なんて出来ないしな。大人たちはあの馬鹿の、いや大公殿下の威光かな、それを恐れていたんだよ。

 で、逃げ場のない俺たちは木の上に逃げた。散々卑怯者だとか勝負しろ、とか言っている。冗談じゃない。こっちはあの取り巻きどもより小さい子供なんだ、勝てっこない。その日はあの馬鹿が帰るまで木の上にいたよ。

もっとも次にやった時には、アイツら練習用の弓を持って来たけどな。それで木の上の俺たちを狙うわけだ。毎日生傷と打撲痕が絶えなかったぜ。


 あ、この敵兵退治には幾つかバリエーションがあってな。盗賊退治ってのもあったな。村人123が盗賊123になるだけなんだが。あ、そうそう。盗賊退治の時には、あのクソ野郎が小箱に磨いた石を入れてきて、俺たちが財宝を守ったら俺たちのものになる、って話だった。

 石?石ねえ。当時は何かキラキラして透明な石がたくさん、とか思ってたけど、あれ今考えると、水晶に紫水晶だったな。大して値打ちもないやつ。

 ま、結果はお察しの通り、俺たちはボロ負けして、散り散りに逃げた。その頃には散り散りに逃げる方が、まとまって逃げるより逃げやすいと覚えたな。


 で、その頃には、俺たちも自衛の手段を持ち始めた。樫の棒をな、持ち運びしやすい大きさに加工して槍を作った。一回はそれで撃退できて痛快だったな。次は取り巻きの手下も俺たちの槍よりもっと長い槍を持って来たけどな。今考えるとあの槍、正規兵の訓練用の槍だな。


 そういう一連の事情を知った爺ちゃんが滅茶苦茶怒ってな、剣の稽古が倍になった。それで遊びに行くときはこれを手放すな、といって短めの木剣を渡してくれたよ。その木剣であのクソの手下共をぶん殴った時は爽快だったな。仲間たちからも賞賛された。

 ま、次の日から俺は遊び仲間からハブにされたんだけどな。多分、親から遊ぶな、って言われたんだろうけどな。


もっと聞きたいか?あ、そう、もう良い。


「とまぁこれがディモトロスの幼少時代だ。なかなか香ばしいだろ」

「そいつ、そのまま大きくなっていたら困るねぇ」

「三つ子の魂百までって言うしな。成人する直前に一度会う機会があったんだが、やたら尊大になってたな。『我が古き友よ』なんて声をかけられて気色が悪かったな。ま、だから変わっとらんよ、多分」

「アレックスはそいつがもっとひどくなってると思う?」

とサラが聞いてきた。

「成人して重要な立場になった。動かせる軍もできた。金もある。これでおかしくなってない方が変だ」

キアが、ははぁ、なるほど。などと言う相槌を打っていた。

「と言うわけで、俺はディモトロスのためにちっとも働きたく無い理由が判ってもらえたかな」

「そんな人相手には確かに働きたくならないね」

話終わった頃、ちょうどシータが帰ってきた。

「話は終わった?」

「大体終わったかな」

「誰かやってきたみたいだよ」

「誰かって?」

「良い身なりの人。此処に用があるんじゃないの?」

俺は、ものすごーく嫌な予感がした。

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