第19話 魔法剣士、再会する

 サラとキアのための小屋が、9分通り出来上がった。後はベッドを搬入して完成だ。

 里の人たちにはだいぶ助けてもらった。

 御婆は里に滅多に降りないが、それでも里から薬や呪いまじないが欲しいと言う人々というのは多いからな。

 それに俺は、子供の頃の遊び場といったら里のことだったから、それなりに知古もいる。だから、めんどくさい部分ーー木材の切り出しとか臍を切ったりーーはものすごく手伝ってもらった。身銭も切ったが。御婆もその辺りは黙認してくれた。木材の切り出しから始めたら下手をしたら1年掛かるかもしれないのだし。

 最後のベッドだが。サラは、あいつ身長幾つだっけな?5フィートは無かったっと思うんだが。シータに聞くと俺に同意してくれたのだが

「普通に6フィートで作れば良いんじゃない?」

とのことで、俺はそうすることにした。


 ベッドの搬入を終え、小屋ができて、その直後にサラとキアが来た。

 色々あり過ぎてカーティスの所をぬけたのが1年前くらいに感じるなぁ。

 そんな事をサラとキアに言ったら二人からは

「まだ2ヶ月しか経ってないじゃん」

と言われた。

 まぁそうだな。感覚がズレただけだ。

それから2人は御婆に挨拶していたのだが。俺が揶揄からかっていると思ったらしく、それで俺がつまらない冗談を言ってると極め付け、俺に対してだいぶイライラしていた。

そりゃ、未成年の少女が

「よく来たのう、まずは荷物でも下ろしてそこらの椅子に座りゃんせ」

などと言ったら冗談に聞こえるかもしれない。シータが間に入ってくれて、助かった。

 一応納得してくれた様なので、食事でもしよう、と思ったのだが食材が足りない。ここの所小屋を建てていたものだから、兎に角腹に入ればなんでも良い、と食事が疎かになっていた。御婆は質素な食事には慣れている様だしな。食材をどうするか、と考えを巡らせているとシータが

「マシューの所から分けて貰えないかしら」

と言った。それで、マシューの棲家に行ったのだが

「ほう。アレックスのところにお客人がいらっしゃったと。それはそれは、近所のものとしてはこれはご馳走しなければなりますまい。ようございますよ、食材などと言わずに料理はこのマシューにお任せください。あ、そうそう、手ぶらで帰すのも何ですから、この樽を持っていってください。いや、若い葡萄酒ですが良い年の葡萄に当たった様です、ボディがしっかりあってベリーの様な香りがします。いやいや、美味しいもんですよ」

と、以前のような冗談ともつかぬ長広舌を披露していた。丘人は強いな。そして逞しい。もし俺がマシューの様な立場になったら2ヶ月でこんなに明るく振る舞えるだろうか。

 そして、マシューから樽を渡された。2ガロンは入っているんじゃないかという樽だ。重さは20ポンド位だろうか、重いといえば重いが、御婆の家まで持っていくのは造作もない。

「すまない、マシュー。今度でっかい鹿でも狩ってくるからな」

「ええ、そのときゃよろしくお願いしますよ。あ、そうそう、葡萄酒は先に飲んでいても構いませんから」

おれはまたマシューに有難うと言い、帰宅した。


 サラとキアは葡萄酒の樽をみて奇声を上げた。よっぽど酒に飢えていたのか、

「これ、当たり年の葡萄酒だそうだ」

と俺が言うと、各々のコップを持ってきた。もう飲みたいらしい、この樽の送り主が飲んで待っててもいい、と言ってたと言うと、2人は喜色を浮かべた。

「美味いわー」

「本当、美味しいね」

と言う感想を述べていた。

「そんなに美味い葡萄酒なのか」

と言いながら俺も一口飲んでみた。

 美味いな。良い酒だ。

「だってさ、この1月葡萄酒はおろかエールも飲めなかったんだよ」

とサラが言った。

「何でまた。2人とも結構蓄え有っただろ。仕事は?」

おれが訊ねると

「カーティスがね……」

「全然仕事しなかったのよね」

俺は、そうなのか、としか言えないので、あまり上手い返事ができない。

「挙句のはてにパーティの解散を宣言してしまって」

「そうなの。それで、自分は他のパーティに加入してしまって」

「普通、パーティ解散したら、残ってる人たちにパーティ探して仕事の斡旋したりするもんじゃない?それすらしないんだから。頭にきちゃう」

サラはだいぶ不満が溜まっているようだ。

「それで?2人はどうやって食ってたんだ?」

「もう貯金の切り崩しよ。私は鎧を新調する為に貯金してたし、キアは素敵なローブを買う為の資金を貯めていたし」

「そうなの。色合いが薄い若葉色できれいなローブだったのに。それに魔法を避ける魔法がかけられているってお店の人が」

そりゃぁ大変な訳だ。しかし宿代より相当値が張るだろ、板金鎧に魔法のローブなら。と言ったら

「まさか!全部なんか使える訳ないじゃない。カーティスに愛想を尽かした時点で旅にでる準備をしたよ」

「それで節約しながらここまで来たのか」

「そう言うわけ。アレックスがいるってことはココには仕事あるんでしょ?」

サラはニコニコしながら言った。そんな顔をするなよ、幻獣狩りはするか決め兼ねてるんだから。

「まぁこの近辺は獣も幻獣も濃い場所だ。カディスって森の中でも辺境でな。上手い具合にイエナ大公領を外れている。ただ難点があってな。換金できる街まで歩いて2時間かかるんだ。それから、馴染みの商人がいないから買い叩かれるのは覚悟しておいた方がいい」

2人は一瞬落胆した様だが、サラが

「でも、仕事はできるんだよね?アレックスは仕事しているの?」

「普段は3日に1日位の割合で兎や、鶉みたいな小動物を狩っている。流石に幻獣は2人じゃ辛いからな」

サラはまぁそうかー。といってる最中にマシュー一家がやってきた。

「湿った話はここまで。今日は飲んで食って楽しもう」

と俺が言うとマシューがリリアナの手料理を出してくれた。

 サラは

「うわぁ」

と歓喜の感嘆をして

キアは

「食べ切れるの?」

と妙な心配をしているので

「マシュー見ていな、凄いから」

と言っておいた。

 10人前は有りそうな料理がマシュー一家の胃袋に吸い込まれてゆく。

キアはそれを見て納得したらしい。

 酔っ払ったシータが、サラとリリアナの身長を比べて、サラに、あんた丘人なんじゃないの?と言ったらサラが本気で怒って、私はリリアナより4インチは高い、謝れ!と言ったので、シータに謝っとけと言った。シータはサラに謝っていた。真摯に謝っていたのか少し不明だと思ったが。


 宴がお開きになり、マシューには食器は洗って明日返すから、というと些か千鳥足のマシューはご機嫌で、

「はいはい、わかりましたよ。それにしても皆さん喜ばれたようで私も嬉しい一時でした。ではごきげんよう」

と言って帰っていった。

 サラとキアを新しく出来た小屋にぶち込んだ。

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